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エルヴァンとアンリがジークの人々を眺めていると、
「お前達か、依頼を受けたと伝えられた冒険者の2人は?」
突然話しかけられる。
話しかけてきた男は、ジークの港で働いている者達に混じって同じ格好をしているが、布を頭に着けている所為で獣人特有の耳などが見えなかった。
そんな男に話しかけられた2人が怪しんでいると、
「悪いが今回の任務は、帝都の騎士団の中でも隠密に優れた者達が息を潜めて行動している。あまり長い時間ここに居られねえから手短に説明する。今回の依頼はジークの長役のセンジン・ムソウの調査だ。だがあまり奴に近づくのは良くねえ。あいつらの周りが不審な行動をしている事だけ分かったら連絡してくれ。それだけで奴の首は取ったも同然だ」
男性は一気にそう依頼の説明をすると、荷物を背負って歩いて行ってしまった。
それを見送ったエルヴァンとアンリは少しして、
「どうすればいいんだこれは?」
「えっと、とりあえず状況を整理しましょうか?まず今回の依頼は、このジークの長と言われているセンジン・ムソウという人の調査ですよね。でもその人に近づき過ぎると駄目だと言われたんですけど、それはどうすれば良いんでしょうか?」
互いに伝えられた事を小声で復唱して確認を取り始める。
しかし、
「あまりに説明が簡易的過ぎる。連絡をしてくれと言われたが、わざわざどうやって連絡をすれば良いのだ?」
男性の説明を聞いても、あまり詳しい事情も分からない状態でエルヴァンはやや愚痴を吐いてしまう。
その言葉を聞いたアンリも少し浅くため息を吐くと、
「とりあえず、ここでは港で働いている人達には邪魔なので移動しましょうか?」
そう言って歩き始める。
アンリの言葉にエルヴァンは頷きながら返事をして、先に歩き出したアンリの後を追いかける。
しかし初めて来た土地、エルヴァンもアンリもどこに行けばいいのか分からずに右往左往してしまう。
流石に長時間そうしている訳にもいかず、人と話す事が得意なアンリが近くにいた男性に声を掛けようと近づく。
しかしそんなアンリが近づこうとすると、アンリに近づかれた者達は皆ササッと歩みを早めて立ち去ってしまう。
そんな様子にアンリは困惑し、エルヴァンは改めて動いているジークの人々に視線を送る。
そこには、自分達の事を怪しみ鋭い視線を送っている者達しかいない様に見えた。
中には怯えた様な視線を送っている者もいるが、少ない方だろう。
「…アンリも私も、人族だと思われているのだろう。……仕方がない、とりあえず人の流れが多い道に進もう」
エルヴァンがそう言うと、アンリと共に人が多い道を進んでいく。
しかしやはりというか、エルヴァンとアンリも道を歩いていると周りに人がいない状態になってしまう。
エルヴァンはそんな状況を見て、依頼をどう進めればいいのか考えてしまう。
そんな事を考えているエルヴァンとは反対に、アンリは道の光景を眺めて楽しそうにしている。
帝都付近では見なかった木々がみっしりと生えており、人が通る最小限にしか道が開けていない。
「エルヴァン様、何でしょうかあの木は?あ、見てくださいあの鳥!緑色です!」
もう周りの視線など気にしていないのか、アンリは周りの景色を見てそう言う。
そんな様子に、周りを歩いている亜人達が何とも言えない視線を送ってくる。
そうして歩いている内に小川が見えてきて、細い滝が現れる。
「うわあ~!涼しいですねエルヴァン様!跳ねた水が気持ち良いです!」
アンリがそう言いながら細い滝を見ていると、アンリの歩いていた足場が土の大地から簡易的に作られた丸太3本で作られた橋に移る。
しかしその橋は苔が生えており滑りやすくなっていた様で、
「うわっ!?」
アンリが足を滑らせて転びそうになる。
それをエルヴァンがある程度予想していたので、冷静にアンリの腕を掴んで引っ張る。
「気を付けろアンリ。ここは滑りやすい」
「あ、ありがとうございます」
助けてくれたエルヴァンにお礼を言うアンリ、そんな2人の周りの視線など気にしていない姿に少し動揺しつつも、ジークに来たよそ者の存在を認めない様に無視する。
そうして人の流れに身を任せて景色を見ながら歩いていく内に、開けた場所にたどり着いた。
「うわぁあ~!」
「なるほど、帝都とは全く違う街並みだな」
アンリは初めて見る光景に感動し声を出し、エルヴァンは帝都とは全く違う街の光景にそう感想を漏らす。
帝都の様に高い建物は多くなく、基本的には1つ1つの建物が同じ高さで建っている。
帝都の道には松明よりも上質な、油を使用して火を燃やし続けるランタンが街灯として並んでいたが、ジークの道には細い煙突の様な筒が地面に刺さっており、どのように光を灯す物なのかエルヴァンは少し気になった。
街の人々も活気はあるが、それよりも1人1人の動きが周りの者の邪魔をしない様にと気を遣っている様子。
建物もレンガなどでは無く、材木などの植物を使っている。
帝都との差にエルヴァンが驚いていると、
「………」
「………」
「…まさか…」
街の者達がエルヴァンとアンリを見て、警戒心を出して動く。
亜人からしたら、帝都から来た者達を信頼は出来ないだろうとエルヴァンは察しつつ、
「行くぞアンリ。とりあえず今日泊まれる宿があるか探さなければならない」
そう言って歩き出そうとした瞬間、
「おいそこの大男と小童ッ!止まれッ!」
2人の後ろから大声で声を掛けられ、エルヴァンとアンリは自分達の事だと思い振り返る。
そこには、鞘に納まっている大きな大剣を肩で担いでエルヴァンとアンリを指差している亜人の男が立っていた。
「何か用か?」
エルヴァンが男にそう声を掛けると、
「人族がここへ何しに来やがったッ?!ここへ参った事の由を言えッ!」
亜人の男は帝都では聞かない、方言の様な言葉を放つ。
それを聞いたエルヴァンは少し考える素振りをした後、
「すまないが、もう少し分かりやすい言葉を言ってもらえないだろうか?こちらの言葉はあまり詳しくないのだ」
素直にそう言った。
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