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エルヴァンとアンリが遠くの空から飛んでくるモノに警戒し装備に手を掛けていると、
「セイレーンの縄張りに入ったぞッ!?敵襲ッ!敵襲ッ!」
帆の上で見張りをしていた船乗りが、警告の言葉を大声で発する。
その声を皮切りに、船室にいたであろう昨日見た冒険者達が外に出てくる。
それと同時に船乗り達は懐から紙を取り出して、腰に下げていた水が入っている小さい瓶を傾けて紙を濡らすと、それを丸めて耳に突っ込んだ。
それを冒険者達も同じようにしている姿を見て、
「あれ、何をしてるんでしょうか?」
アンリは疑問の声を出す。
「分からないが、私達以外の全員がしているという事は重要な事なのだろう」
アンリの言葉に大剣を抜きながらエルヴァンがそう答えると、
「~~~~~~♪♪」
帝都で聞いたどんな女性の声よりも、どんな綺麗な歌声も霞んでしまう、甘い嗜好品を思わせる様な歌声がエルヴァンとアンリの耳に入ってきた。
それを聞いたエルヴァンは、
「…なるほど、状態異常にするスキルを習得しているのか。アンリ、問題ないな?」
特にセイレーンの歌声を気にする事無く、アンリに声を掛ける。
「大丈夫ですよエルヴァン様。状態異常の耐性はしっかりとしていますから」
アンリはそう言うと杖を構える。
しかし、
「ぐ…ぅう…。やれ~ッ!生け捕りにしろォッ!」
「「「「オォォォ~~ッッ!!」」」」
船乗りの掛け声と、それに返事をする様に轟く雄叫びにアンリはセイレーンに向けていた意識をそちらに移してしまう。
「生け捕りにする必要はあるのだろうか?……しかしセイレーンのスキルに体の動きが悪くなっている様だ」
エルヴァンは船乗りの動きや冒険者達の様子を見てそう判断すると、遠くの空から飛んで来ていたセイレーンの群れが船の上空を飛び交い始める。
それと同時に、船乗り達が鏃に軽い麻痺毒が塗られている矢を放ち始める。
しかしその攻撃はあまり当たる様子はなく、矢はどんどん海へと落ちていく。
それを見ていたエルヴァンは、
「変に体が動かない状況で、更に相手を撃退する事も考えていない半端な攻撃。死人が出てもおかしくない状況だ」
冷静にそう判断しつつ、自身に向かってくるセイレーンの突進を軽やかに躱す。
それだけではなく、突進を躱した瞬間にセイレーンの翼を掴むと勢いよく海の水面へ投げ飛ばす。
「アンリ、セイレーン達を殺す事は駄目だ。私達の知っているセイレーンとは外見が違う。ヴァルダ様がこの者達を気に入り契約する可能性が考えられる。溝はなるべく浅い方が良いだろう」
エルヴァンがヴァルダの趣味嗜好を理解しそう提案をすると、
「流石はエルヴァン様!僕にはその考えは思いつきませんでした!」
アンリは感動した表情でエルヴァンに視線を送りつつ、セイレーン達の攻撃を牽制する為に魔法を放つ。
すると、
「や、やめろッ!?うあぁぁ~ッッ!!」
船乗りの男性がセイレーンの足に掴まれて、上空へと連れ去られてしまう。
それを見ていたエルヴァンは、
「船を管理する者が死ぬのは、これからの船路に支障をきたすかもしれん。アンリ、頼めるか?」
アンリにそう指示を出すと、アンリは元気に返事をしてスキルを使用し分裂体のコウモリを使ってセイレーンを追いかける。
「うぅ~ん…。エルヴァン様の言葉の通りだと、敵を殺す事も出来ないし船乗りの人達も損害を出させない様にしないといけないって事だよね?結構大変だぁ~」
「すまないなアンリ。負担をかけてしまう」
アンリが軽い愚痴の言葉を発すると、それを聞いていたエルヴァンが謝罪の言葉を口にする。
そんな話をしている内に、分裂体のコウモリを使ってセイレーンの足から解放された男性は、船の上空から悲鳴を出しながら落下してくる。
「任せろ。力仕事は私がする」
エルヴァンはアンリにそう言うと、木造の船の床を壊さない程度に踏み込み一気に落下してくる男性の下に辿り着くと、落ちてきた男性の体に負担を掛けない様に両手で船乗りの男性を受け止める。
すると、
「くそッ!こいつらどんどん俺達を襲う事に慣れてきてやがるッ!?」
船乗りの男がそう言いながら、セイレーンの攻撃をなんとか避けながら大声を発する。
それを聞いたエルヴァンは、
「…アンリ、魔法でセイレーンに攻撃を当ててくれ。殺さない程度に頼む」
アンリにそう指示を出す。
エルヴァンの指示を聞いたアンリは返事をすると、
「ウォーターバレットッ!」
アンリは自身の周りに拳サイズの水の弾丸を作り出すと、それを一気に放った!
どんなに初級魔法だろうが、レベルがカンストしているアンリの攻撃にセイレーン達は最初に歌っていた声とは反対に悲鳴を上げて船から離れて行った。
それを確認したエルヴァンは、握っていた大剣を背負い直して周りを見る。
死傷者はいなく、掠り傷などの軽い怪我で済んでいた。
船の甲板に少し傷や穴が開いている様子を見ていると、
「何なんだ一体…。あいつらもっと単体で攻撃してきた癖に…。今じゃ群れで殺されそうになる攻撃までしてきやがる」
船乗りの男性がそう言いながら手に持っていた装備を乱雑に床に放り投げ、甲板の床に倒れこむ。
男性の独り言を聞いたエルヴァンは、
「すまないが、少し聞いてもいいだろうか?」
甲板に倒れこんでいる男性にそう声をかけた。
突然声をかけられた男性は驚いて上半身を起こしつつ、
「な、何だ?」
エルヴァンにそう言う。
「セイレーン達は以前、どのように攻撃してきたのだ?」
エルヴァンがそう問うと、
「攻撃っていう程じゃ無かったんだよ。俺達の船の近くを通って歌声を聞かせてきて、危うく遭難させられるくらいだったんだよ」
男性の言葉を聞いたエルヴァンは、その情報を聞いて攻撃がどんどん強まってきているのだろうと察する。
先程の襲撃を受けてみれば、違いは明らかだ。
「セイレーン達に何か心境の変化があったのか?」
エルヴァンが男性の言葉を聞いて思考する。
すると、
「今日は一匹も捕まえられなかったのかッ!?」
甲板に怒声が響き渡った。
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