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翌朝、流石のエルヴァンも今日は剣の素振りを控えて、隣のベッドで寝ているアンリの肩に触れて揺さぶると、


「アンリ、起きろ。支度をして出るぞ」


未だに夢の世界に旅立っているアンリを起こそうとする。

元々早朝に自主的に剣の素振りをしていたエルヴァンは朝起きる事は簡単なのだが、それとは反対に朝は苦手なアンリは声を掛けて体を揺さぶり、しっかりと瞳を開けて声が出せるまで起こさないとアンリは寝続けてしまう。

それを知っているエルヴァンは、ヴァルダの元を離れてから毎日と言って良い程アンリを起こし続けていた。

その経験値が活かされているのか、


「…ん…ンン…もう朝なんですか?」


しっかりと瞳を開けて、声を出すアンリ。

それを確認したエルヴァンはアンリの肩から手を放すと、


「今日はいつもよりも早く起こしている。おそらく遅く行くよりも早く行っておいた方が良いだろう」


そう言ってベッドに置いてあった頭を首の上に乗せる。

アンリは脱いでベッドの脇に置いてあった小さめの棚の上にある服を手に取り、もそもそと着直していく。

アンリが服をしっかりと着たのを確認すると、エルヴァンは寝起きのアンリに荷物を持たせるのは悪いと感じ、


「杖は持て、荷物は私が持つ」


アンリにそう言って荷物を手に持つ。

そんなエルヴァンに、


「ありがとうございますエルヴァン様」


アンリは目を擦りながらお礼の言葉を言って、先に部屋を出て行くエルヴァンの後を追いかけて行く。

そうしてエルヴァンとアンリは宿屋を出て、予約をしたジーグへ行く船の元に行くと、


「お!あんた達か。随分と早かったな。もうすぐ商人の奴らが来るから、先に船に乗っていてくれや」


予約をした時に話した男性に声を掛けられた。

男性にそう声を掛けられたエルヴァンとアンリは、男性にお礼を言って船に乗り込んだ。


「わわっ!意外と揺れてるんですね」

「ふむ、木材で出来ているようだ。戦闘の際に踏み込みすぎると、穴を開けてしまいそうだな」


2人でそう言い合いながら、船の上で働いている船乗り達の邪魔をしない様に端の方で海の方を眺める。

そうして2人で海を眺めていると、


「待たせたな。今日からよろしく頼むぞ」


エルヴァンが見てきた中で一番と言って良い程、商人の中では体つきがガッシリとしている男が船乗り達に声を掛けていた。

アンリも海を眺めている内に目が冴えた様で、


「凄いですねエルヴァン様。あの人もそうですが、その後ろにいる人達も力持ちみたいな体していますね」


エルヴァンにそう言いつつ、後ろにいる人達の事を見る。

後ろには十人以上の男女がいるが、装備を着けているのはその中で四人だけだった。


「あの後ろにいる、装備を着けている人達は冒険者でしょうか?」

「可能性はある。装備の質も良さそうだ、第二級かそれ以上かもしれないな」


アンリとエルヴァンがそう言っていると、商人一行が船に乗り始めて船乗り達も慌ただしく船に乗り込んだ。

そうして全ての船乗りが船に乗船し、荷物の漏れが無いかを確認し終えると、


「出港ォォ!」


商人一行に声を掛けた男性がそう大きな声で合図をし、ゆっくりと船が動き出す。

船はゆっくりと海を進んでいき、どんどん港から離れていく。


「さて私は少し室内で休む。お前らも自由にしろ。………チーシャ、お前は部屋に来い」

「………はい…」


大海原に船が出てしばらくすると、商人の男がダルそうに周りにいた仲間に声を掛ける。

それと同時に、装備を身に着けた女性を部屋に来るように呼び出すと、名前を呼ばれた女性は泣きそうな悔しそうな表情をしながらゆっくりと返事をした。


「エルヴァン様、あれ………」


そんな様子を見ていたアンリが声を出すと、


「…何も知らない私達は想像する事しかできないが、あまり良い関係ではなさそうだな」


エルヴァンも商人一行の様子を窺っており、そんな会話の内容を聞いて感想を述べる。

そんなエルヴァンにアンリは何か言いたそうな顔をするが…。


「落ち着けアンリ。あの状況で声を掛けても私達にはどうする事も出来ない。それにあの女性の仲間達の表情を見ろ。特に気にしている様子ではない」


エルヴァンが少し焦っている様子のアンリにそう声を掛ける。

エルヴァンの言葉を聞いたアンリは、エルヴァンに言われた通りに女性の仲間達の表情に視線を動かす。

そこには、


「…エルヴァン様の言う通り、彼らの表情はあの女性の安否など気にもしていない様です」


男性達はまたかと言う様に、呆れた様子で歩き出した女性の背中を見ていた。


「あの様子を見ると、あの者達は仲間と言う訳では無いのかもしれない。彼女には悪いが、今は様子見と言ったところだろう」


エルヴァンはそう言うと、視線を海の方へと移してモンスターの襲撃が無いかを警戒し始める。

そんなエルヴァンの様子に少し不満そうな表情をするアンリだったが、エルヴァンの言っている通り今自分達が行動をしても今はどうにか出来ても、その先の彼女を助けられる訳では無いと考え、自身の無力さと彼女の心配の心持ちで表現できない表情をしている。

そんなアンリと同じ気持ちで海を見ていたエルヴァンも、自身に必要なモノを改めて考え始める。

そうして2人は互いに言葉を発する事は無く、己のやるべき事の再確認し、目指す姿、しなければいけない事をただ考えて時間を過ごした。

その日はただ考えるだけの時間が過ぎていき、夜になって船室へと案内された2人は最低限の事を済ませると早めの眠りについた。

そして翌朝、エルヴァンとアンリはゆっくりと目を覚ます。

いつもだったら早朝に起きて自己鍛錬に勤しむエルヴァンも、船の上では大剣を振り回す事が出来ないと思い久々にゆっくりと起きたのだった。

アンリもエルヴァンに起こされずに起きる事で、久しぶりにゆっくりとした朝を過ごす事が出来た。

2人はそのままゆっくりと準備をしてから船室を出て、昨日と同じ開けた艦首部分に立ちあまり変わらない景色を眺め始めた。

しかししばらく大海原を眺めていた2人は、遠くの空から何かがこちらに向かっている姿を確認して装備に手を伸ばした。


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