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持ち前の笑顔と親しみやすさで声を掛けたアンリに、声を掛けられた女性は警戒心を持たずにアンリと接する事が出来、アンリの要望を聞き報告書の束を読み上げていった。
そうして得た情報は、エルヴァンとアンリにとってはとても重要なモノが含まれていた。
それは、
「レヴィアタン…というモンスターが目撃されていると言っていたな」
エルヴァンやアンリが聞いた事が無いモンスターの名前だった。
「はい。報告書には見張りの人が、遠くの水面に渦が発生していて、体の一部が見えていたらしいです」
しかし、対策を取ろうにも目撃した情報しか無く、女性に聞いた所見つかったら最後とまでしか言われなかった。
「他に出没するモンスターや、ジーグへ行く為に通る縄張りにしているモンスターも分かるというのに、その一体だけ情報が少なすぎる」
エルヴァンがそう言うと、
「はい。基本的には他のモンスターと戦う事になっても問題はありません。でも、そのモンスターだけはどうしましょうか?女性の言っていた感じだと、結構強そうでしたよね?」
アンリが先程の女性の説明する様子を思い出してそう言ってしまう。
それを聞いたエルヴァンは、
「まず体の一部が見えたと言っていたが、どれくらいの大きさなのだろうか?体が大きい者なら、塔の住人にも心当たりがあるが、それ以上だろうか?」
少し嬉しそうな声を出してしまう。
戦った記録が無い相手との戦いを想像し、出発にはまだ時間があるというのに気分が高揚しているのが分かるエルヴァンを見て、
「どうなんでしょう?でも、ヴァルダ様の配下の者として、僕達は負けてはいけないですよね!」
アンリはそう言ってエルヴァンに確認を取る。
「勿論だ。どのようなモンスター、敵にも負ける様な事があってはならない」
アンリの言葉を聞いたエルヴァンがそう宣言をする。
そうして軽い立ち話を終え、2人は先程の女性に聞いておいた道具屋へ行き必要そうなアイテムを購入した後、宿屋を探して街を歩き回った。
宿屋に泊まった翌朝、エルヴァンは日課の素振りを終えるとその間にアンリが起床し出掛ける準備をしている。
明日に港を出るという事で、今日は早めに寝るという事を昨日の内に話し合っており、その為に朝早くから街の観光をする事になった。
2人共準備を終えると、宿屋に今日宿泊する部屋の料金を先払いして取っておいて貰い出発する。
まず最初に、朝食を食べに昨日行った飲食店へ行き昨日とは違うメニューを食べる。
「朝早くだというのに、もうみんなお店を開いていましたね。それに昨日は結構あった様に見える船や小舟が無くなっていましたね」
暖かいスープを飲んでホッとしているアンリがそう言うと、
「そうだな。帝都ならまだ店もあまり開いていない時間だろう。しかし昨日見た感じでは、昼間はこの街の住民の方がゆっくりとしていた様だ。どうやら、帝都とこの街では忙しく働く時間が違うのだろう」
エルヴァンが昨日と今日の朝見た光景を思い出し考察を述べる。
そうしてエルヴァンが周りの人達を観察していると、
「それでエルヴァン様、これからどこへ行きますか?」
アンリが待ち切れずにエルヴァンにそう聞いてきた。
それを聞いたエルヴァンは、
「そうだな。帝都では無かった様な物があるかもしれない、それを見に行こう。………例えば、あれとかはどうだ?」
海の方に手を出して指差す先には、この港街テンダールで一番海に突き出している道の先にある建造物が建っていた。
それを見たアンリは元気に行きましょうとエルヴァンに声を掛けると、少し早歩きでエルヴァンが指差した建造物の元へ歩いて行く。
そんなアンリの後ろ姿を見つつ、エルヴァンも彼の後に付いて行く。
そうして2人が建造物の麓に来ると、
「何でしょうねこの建物?石みたいな物を積み上げられて作られている様に見えますが…」
「そうだな。………ここを見ろ、簡易的な梯子の様な物がある。おそらく上に登る事が出来る様だぞ」
2人は建造物の元でそんな話をし始める。
この港街の建造物の中では一番高い物ではあるが、それでも帝都の鐘が釣り下がっている塔に比べると小さい。
すると、
「んん?あんたら何してるんだい?」
突然海から這い上がって来た年老いた女性にアンリは勿論、エルヴァンでさえ驚いて臨戦態勢に移行するところだった。
しかし女性の姿を改めて確認したアンリは少し身を引きつつも、
「こ、この建物は何なんですか?あ、あとお婆さんはそこで一体何を?」
女性にそう質問の言葉を口にする事が出来た。
アンリのそんな質問の言葉に女性は、
「何だって~ッ!?」
耳をアンリの方に向けながら大きな声を出した。
その声に一瞬体を震わせたアンリだったが、女性からの敵意がない事を感じ取ると、
「この建物は何ですか~ッ!?後、お婆さんはここで何をしてたんですか~ッ!?」
女性に聞こえる様に声を張り上げた。
そしてそんなアンリの声が聞こえた女性はうんうんと頷くと、
「これは灯台って言って、海に出た者達がこの街に戻って来られる様に建てた目印だ~ッ!それと、あたしゃ今日の仕事をしたんだよ~ッ!!」
アンリの質問にそう答えた。
その後もアンリと女性は少しの間大声で話を進めていき、それを見ていたエルヴァンは何を見せられているのだろうか?
と、少し疑問に思いながら2人の様子を見守っていた。
そうして僅かな時間、大声で情報を得たアンリは女性にお礼を言い、女性は今日の収穫を売り込む為に外見からは想像が出来ない程速く、颯爽とアンリ達の元を去って行った。
「灯台って言うんですねこれ。エルヴァン様が見つけた梯子で上に明かりを灯すって言ってましたっけ?」
アンリがお婆さんから得た情報をそう言って灯台を見上げる。
その言葉に、
「明かりを灯すと言っても、火を点けるだけらしいがな。しかしあの老婆は外見から想像できない程、力に満ちていたな。若かりし頃はさぞ良い動きをしていたのだろう」
エルヴァンが少し補足しつつ、女性が去って行った方向に視線を送った。
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