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テンションが上がったアンリの後ろを付いて行くエルヴァンは、帝都とは違った街並みを見て少し興味を持っていた。
帝都よりは人が少ないが、活気は何故か帝都に負けない程賑わっている。
剣などの装備を着けた人も何人かいるが、それよりも目立つのは網を持っていたり槍を持っている人の方が多い。
それが男だけでは無く女も同じ様にしている姿をみてアンリは、
「エルヴァン様、ここでは男性も女性も同じ様な格好をしていますが、どうしてでしょうね?」
エルヴァンにそう質問をする。
それを聞いたエルヴァンも、
「私にも分からないな。帝都では男は装備を着けている者が多かったが、女は装備などを身に着けずに過ごしていた」
帝都で見た状況とは違う点を挙げてアンリの質問に返答する。
「そうでしたよね~。………あっ!見てくださいエルヴァン様!あそこのお店食べ物屋みたいですよ!旅の間あまり美味しいもの食べられなかったんですから、思いっきり食べましょう!」
街の人々の様子を見ていたアンリは、すぐに興味を視線に入った飲食店に移してエルヴァンを誘う。
そんなアンリの言葉に、エルヴァンも馬車での旅の間の食事を思い出し、
「そうだな。そこでしか食べられないものもあるだろうし、行ってみるか」
そう言って歩き出す。
エルヴァンの隣にアンリも並び、2人で飲食店に入って行く。
時間的にまだ人はあまり多くなく、すぐに席に座る事が出来たアンリとエルヴァン。
しかしやはり文字が読めない2人は、店員に声を掛けておすすめの品を注文する。
少しして、
「お待たせしました~。こちら、この街自慢の魚料理達です」
店員が持って来た料理を見て、エルヴァンとアンリは店員にお礼を言う。
自分達のテーブルに並べられた3品の魚料理を見て、どれも帝都ではあまり見なかったものだと感じる。
「いただこう」
「いただきます!」
エルヴァンとアンリがそう言って魚料理を口に運び咀嚼すると、2人は帝都で食べた魚料理とは違う事に気がついた。
「美味しいですねエルヴァン様!焼いてあっても身が固く無くて、程よい柔らかさがあります!」
「そうだな。味も見た目と違って薄味だが、むしろこのくらいが丁度良い」
2人はそう感想を言い合って食事を楽しみ、あっという間に完食してしまった。
「美味しかったですねエルヴァン様。この後はどうしますか?」
「街の散策と言いたいのだが、少し気になった事がある。それを確認してからでも構わないか?」
アンリの質問に、エルヴァンはそう言って立ち上がる。
「気になる事って何ですか?」
支払いを済ませて飲食店の外に出たアンリが質問をすると、
「乗る予定の船の男が言っていただろう?海に出るとモンスターなどが縄張りから出ていく様に攻撃してくると。その対処をする為に、何というモンスターか聞きだし、場合によってはそれの対抗策を考えなければいけない」
エルヴァンはそう言って近くにいた女性に声を掛けて、そう言った情報が手に入る場所は無いかと聞いていた。
エルヴァンの言葉を聞いたアンリは、確かに自分達の知っているモンスターならば対処は可能だが、知らないモンスターがいた場合の対処をどうすれば良いのか考えていなかった自分を恥ずかしく感じた。
それと同時に、そこまで考えているエルヴァンに対しての尊敬の感情が更に高まる。
アンリは女性と話しているエルヴァンの後ろ姿をキラキラした目で見ていると、
「助かった。ありがとう」
エルヴァンが女性にお礼の言葉を言って振り返り、
「何やら組合?という海の事に詳しい者達がいる集団がある様だ。そこに行ってみるぞ」
アンリにそう言うと、アンリは元気よく返事をして先に歩くエルヴァンの後を追った。
女性に教えて貰った通りの看板を見つけたエルヴァンは、
「文字が読めない分、分かりやすい看板や目印がある事に感謝しないとな」
そう言って扉を開けた。
そこには、
「……あ゛ぁ゛??」
「見ねぇ顔だな」
帝都のガラの悪い連中が集まっている様にしか見えなかった。
その様子にアンリは苦笑して、エルヴァンは特に気にした様子も無く、
「明後日、ジーグへ行く為に船に乗る事になった。その予備知識を教えて貰いたいのだが、それは可能だろうか?」
近くにいた男性に声を掛ける。
エルヴァンの無自覚な威圧的な話し方と全身鎧姿、そして背中に背負っている大剣を見た男性は少し緊張しながら、
「お、おぅ。ただそれにはそれ相応の金が必要だぜ。こっちも完全な慈善団体じゃねんだ」
そう宣言する。
「それは構わない。とにかくジーグに行く為の海に出てくるモンスターを全て教えてくれ」
エルヴァンはそう言って、男性を急かす様に声を出す。
そんなエルヴァンの言葉に、少し待ってろと言い放って男性は奥にいる女性に声を掛け、今度はその女性が彼女自身の後ろに置いてある本を数冊手に取ると男性に手渡す。
女性から数冊の本を手渡された男性は、それを持ってエルヴァン達の元に戻って来ると、
「ほれ、これがここ数年にジーグへ行った連中の報告書だ」
エルヴァン達にそう言って本を差し出してきた。
しかし、
「…すまないが、文字を読む事が出来ないんだ」
エルヴァンとアンリはこちらの世界の文字を読む事が出来ない所為で、せっかく持って来て貰った本を受け取っても開く事が出来なかった。
エルヴァンの言葉を聞いた男性は驚いた表情をして、
「あんたら、商人の警護じゃなかったのか…」
そう言ってきた。
「はい。僕達は帝都から来たただの冒険者です」
男性の言葉にアンリがそう返すと、
「なるほどな。それなら仕方ねえ。その本を持って俺がさっき本を受け取った女の所に行ってこい」
男性は納得した表情をして、親指で彼の背後の奥にいる女性を指差す。
「ありがとうございます!」
アンリは男性にお礼を言って歩き出し、エルヴァンも感謝と説明不足だった意味も込めて、
「すまない」
と言ってから、アンリに付いて歩き出す。
そして、
「お姉さん、この本について聞きたい事があります」
アンリは笑顔で女性にそう言った。
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