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俺の話を聞いたシェーファが連れて来た人達を見つめているので、俺は彼女の隣で簡単な説明をした。
その結果、
「分かりました。今すぐにあの男を連れて来ます」
農業に詳しいダグスを連れて来てくれるとシェーファが言ってくれて、迎えに行ってくれた。
さて、そろそろサールとソルにも落ち着くように言わないとな。
俺はそう思い、
「サール、ソル。流石に話し掛け過ぎだ。お前達の元気さは良い所だが、こういう所では騒ぎ過ぎないようにな」
軽く2人に落ち着く様に言うと、2人は返事をして歩いて塔の方へと帰って行った。
「あの子達が色々と話をしてしまってすまなかった。ただ2人も悪気があった訳では無いのだ、あまり嫌な風に考えないでやってくれ」
俺がそう謝罪の言葉を発すると、
「あのお2人は、ビステル様のお子様なのでしょうか?」
エルフの女性がそう聞いてくる。
俺は彼女のそんな質問に、
「いえ、あの子達は帝都で秘密裏に行われていた闇オークションで売り出される予定だった子達です」
そう答えると、エルフの女性だけでは無く俺の話を聞いていた人達が悲し気な表情でサールとソルが去って行った方向に視線を向けていた。
「ただの人族の子供に見えるが、何か家庭の事情とかあったのか?」
獣人の男性が普通に疑問に思った事を聞いてくる。
しかし、これ以上の事を言うのは俺が言うべき事では無いだろう。
「それは、あの子達に直接聞いて上げて下さい。俺から彼女達の事を全て教えてしまうのは、違うと思いますので」
俺はそう答えると、塔の方から駆けてこちらにやって来るダグスさんと、その後ろから優雅に歩いてくるシェーファの姿が目に入った。
すると、
「そ、そんな……」
「ハ、ハイエルフ…」
今度はエルフの男女がシェーファを見て、戸惑った様子で固まった。
先程もシェーファは俺の所に来た時はあそこまでの反応をしていなかったという事は、サールとソルの事で視野が狭くなってシェーファの事が見えなかったのだろう。
ハイエルフ、確かに稀有な存在ではあるがそんな固まる反応をする程なのだろうか?
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様ッ!お待たせしました!」
ダグスさんが息切れしながらやって来た。
「ダグスさん、先に言っておきます。農具などの準備はまだ整っておらず、三日後辺りには農具などの準備が出来る予定です。今日は、とりあえず農業を手伝ってくれる様な人達を連れて来ました」
俺がそう言って彼らを紹介すると、
「そ、そうですか…。そろそろ仕事がした過ぎてウズウズしていたのですが…」
ダグスさんはそう言って少し落ち込んだ表情をする。
俺はそんな彼を見て、色々な意味で大丈夫だろうかと心配しつつ、
「という事で、改めて貴方達にお願いしたい事があります。恥ずかしながら今ここでは重大な食料問題が発生しています。そこで彼、ダグスさんの指導監修の元、農作物を自給したいと思っています。そこで貴方達の力と知恵を借りたいと思っています。これは命令では無いです、貴方達に強制力はないですし他に何かしたい事があるのならそれをしても構いません」
そう言って俺の事を見てくる皆の顔を見る。
すると、
「…俺は別に構わないぞ、他の奴隷商で死ぬまで働かされた野郎なんていくらでもいる。それに比べたら、ここは天国に近いしな」
獣人の男性が、そう言って周りの人達を見る。
男性が声を出した故に、周りにいた人達が彼の事を見ていた所為で皆が獣人の男性と目を合わせた。
すると、
「では、私達はそちらのダグスさん?に協力しつつ、薬草の栽培を始めたいと思っているのですが…」
エルフの男性がそんな嬉しい事を言ってくれる。
「むしろ全然ありがたいですね。なら栽培に必要な環境を揃えるので、後で教えてくれませんか?」
俺がそう言うと、エルフの男女は何故か嬉しそうに返事をした。
それを聞いていた人族の女性も、
「私も生活が安定するのなら、問題は無いです。その…前から農作業はしていましたから」
そう言って、少し気まずそうに手を挙げた。
さて、最後は獣人の女性だけだが…。
俺達がそう思って彼女に視線を送ると、獣人の女性はまだ俺の事を疑っている様な表情で見てくる。
すると、
「貴方の事は信用できない。でも、これから先にも私達みたいな人達を連れてくるのなら、その人達に何かしない様に見張るから、ここに留まらせてもらう。それと、借りを作りたくないからその男の人の作業を手伝うわ」
俺にそう言って顔を背けた。
これが可愛らしく言っていたのなら可愛いのだが、睨むような視線と嫌そうな声を聞くと悲しくなるな。
いつか、彼女が信頼してくれる日が来る事を願っていよう。
そうして今日のところは塔の部屋で休んでもらう事にして、明日から具体的な住む場所や仕事の割り振りを決める事になり解散となった。
シェーファに彼らの事を任せると、俺は自室に戻ってきて装備を外してベッドに横たわっていた。
本当なら風呂に入ってからベッドに飛び込みたかったが、今日はもうすぐにベッドに横になりたかった。
いくら見知っているブルクハルトさんとはいえ、お金が絡んだ商談をするとなると気苦労を感じる。
その後の元奴隷の人達との会話も、俺の所に留まりたいと思って貰える様に気を遣ったのも疲れた。
本心ではあるけど、やはり言葉として伝えるのなら丁寧に信用して貰える様に話した方が良いと思うが、その度にここまで疲れるのもどうなのだろうか…。
今までコミュニケーションを培ってこなかった事が仇になっているな。
…エルヴァンとアンリはどうしているかな?
無事に過ごしていられれば良いのだけれど…。
俺はそう思いつつ、
「セシリア」
シルキーのセシリアの名前を囁く。
瞬間、
「お呼びでしょうかヴァルダ様」
音もなく室内に現れるセシリア。
「すまないが、夕食ができたら起こしてくれないか?」
俺がそうお願いをすると、
「かしこまりました。では後程、起こしに参ります」
彼女はすぐに了承をしてくれた。
「ありがとう」
俺がそう感謝の言葉を口にすると、彼女は何故か逆に感謝の言葉を俺に言ってから部屋を後にした。
おそらく3時間くらい寝れるだろう、これからも色々とやる事があるんだ。
少し落ち着こう。
俺はそう思うと、襲いくる睡魔に身を委ねた…。
「お疲れ様ヴァルダ。心ゆくまで夢の世界を楽しみなさい」
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