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奴隷の人達との契約を行う中で、まさか人族の俺に対して良い印象を抱いていなかった人まで契約する事になるとは思わなかった。
おそらく何やら考えている事がある様で、少し思案顔をしている様子を横目で見つつ、今は部屋を出て商館の出入り口の広間でブルクハルトさんから説明を受けていた。
「という事で、基本的にビステル様には反抗して何らかの攻撃は出来ない様にはしていますが、特に反抗的な態度を取っていたとしても罰則がある訳では無いです。よろしいですか?」
「むしろ俺の意図をくみ取って貰い、ありがとうございます。他に何か気をつける事などありますか?特に獣人の人達の生活環境とか、どのようにすれば良いのか分からないのですが……」
俺とブルクハルトさんがそう言い合い、俺はブルクハルトさんの説明をしっかりと記憶する。
奴隷の人達の説明が終わると、
「次にビステル様に頼まれた農具などの件なのですが、今うちの者に向かわせていますので改めてご連絡をします。遅くても三日後には商談は終わると思いますし、金貨も預かっているので物があると思って頂いて結構です。受け取りに来る際の準備などをお願いします」
今度は俺が注文した農具関係を話が始まる。
相変わらずやり手だ、すでに商談に向かわせているのか。
俺はそう思いつつ、
「ありがとうございます。では三日後に一度来ます。本業でもないのに手伝わせてしまいすみません」
謝罪の言葉を口にすると、
「滅相もございません!ビステル様は私と同じ思想を持つ同志でございます!それに、ビステル様との関係は私の懐を潤してくれるという考えもございます。決してビステル様の思っているよりも善意だけではないのですよ」
ブルクハルトさんがそう言ってきた。
まぁ、俺が彼の商館から買い物をすれば彼の懐は潤うだろうが、それでもその事をはっきりと伝えてしまう彼に俺は信頼に値すると思う。
俺はそう思いつつも、これ以上長居するのも迷惑だと考えて、
「ではまた後日に」
そう言って商館を出ようとすると、
「貴方達はとても良い人に恵まれました。今度は奴隷商人としてでは無く、ビステル様の知り合いとして会いましょう」
後ろからブルクハルトさんのそんな言葉が聞こえた。
俺と話している時よりも少し穏やかな声を聞き、奴隷の人達の門出を祝っているのだろう。
彼の期待に応えられる様に、俺ももっと精進しないといけないな。
俺がそう思っていると、ブルクハルトさんとの挨拶を終えて俺の元にやって来る人達。
「では行きましょうか」
俺はそう言って歩き出すと、彼らも俺の後ろに付いて来た。
帝都の町を歩いていると、やはり周りの人の視線が俺の後ろに集中して中にはいやらしい目でエルフの女性を見ている人もいる。
人に限りなく近い姿をしているエルフにはそういう視線を送るのに、獣人の女性にはそういった視線を送らないのは、人の姿に近い者の方が差別されていないという事だろう。
俺はそう考えつつ、彼らをこれ以上恥ずかしめる様な事はしたくないと考え、いつもの裏路地へと入って行く。
久しぶりの帝都の裏路地は、酷く汚れており長居したくはない。
少し奥に目を凝らすと、何人か人が倒れているのが見える。
生きてはいる様で、うめき声を出している事から物取りにあって暴行されたか、薬物などの副作用、単なる酔っ払いなど様々な理由がありそうだが今は放っておこう。
今は彼らを早く塔の世界へ連れていきたい。
俺はそう思い、誰にも見えない様な行き止まりが無いか探して歩き進める。
俺の後ろを歩いている皆も、突然にこんな帝都の路地裏に連れて来られて不安そうな表情で周りをキョロキョロと見回しており、獣人の女性は更に絶望している様な表情をしている。
早くしないと…。
すると、誰もいない行き止まりの場所を発見し俺はすぐにそこへ向かう。
俺が行き止まりで立ち止まり振り返ると、付いて来ていた皆が不安そうに俺の事を見ている。
「さて皆さん、これから俺と契約をして頂きます。奴隷契約をしたばっかりなのにと思うとは思いますが、出来れば質問は後で受け付けるので、今は何も聞かないでください」
俺はそう言いつつ首から下げている本の中の世界を元の大きさにし、契約するためにページの端を切る。
俺の行動を見ている人達は何をしているのだろうと思っていそうだが、今は聞かないでくれているのだろうな。
そうして人数分の紙を用意すると、
「…手を出して下さい。契約を行います」
仮契約をする為の手を差し出す様に指示を出す。
俺の指示を聞いた皆が順番に手を出すと、俺はその手に本の中の世界の切れ端を押し付ける。
1人1人にそれを行い仮契約をすると、
「帰還」
すぐに俺は塔の世界への道を作る。
突然現れた黒い靄に奴隷の人達が少し怖がるような驚きの声を出している。
「危害を加えるものじゃないですよ。安心して、手を出しながら進んでください」
俺がそう説明しても、流石にはいそうですかとすぐに進める訳では無い。
俺はそう思い自分の手を黒い靄に入れて、
「ほらどうですか?特になんともないですよ」
安全だと分かるように何度も手を出し入れする。
すると、
「い、行かせていただきます」
エルフの男性が意を決した様にそう言い、それと同時に妻であるエルフの女性が男性の腕に自らの腕を絡ませて共に行く事を無言で伝える。
俺がそれを見ている内に、エルフの夫婦が黒い靄の中に入っていく。
それを見届けた後、他の人達も覚悟を決めたのか手を前に出しながら歩き出した。
全員が塔の世界に行った事を確認し、俺は最後に誰にも見られていないか注意しながら黒い靄に入った。
塔の世界に帰ってくると、先にこちらに来ていた人達が先程の路地裏を見回していた時よりも動揺して首を振って辺りを見ているのが見える。
俺はそんな彼らに、
「ようこそ皆さん。ここは俺が創り管理している世界、ここに貴方達を傷つける者はいません。安心して、過ごしてくれると嬉しいです」
そう言って、笑顔で歓迎の言葉を口にした。
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