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祝杯を挙げた翌日、俺はレベルデン王国の外の草原で生徒達とリーゼロッテ先生に見送られる為に集まっていた。
「せ‥ぜんぜい‥。お世話に……なりまじだ…」
「ま、まさかそこまで泣かれるとは思いませんでしたよアーレス君。今生の別れという訳では無いので、そこまで悲しまないで下さい」
まさかのアーレス君が、凄く悲しんで涙まで流してくれていた。
爽やかイケメンは、心まで爽やかだったのを理解した。
俺がそう思ってどう反応していいか困っていると、
「ヴァルダさん、こちらが今回の報酬です。受け取って下さい」
彼女がそう言って、膨らんだ袋を俺に差し出してきた。
生徒達の前でこれをするのは気が引けるが、一応生徒の皆にはリーゼロッテ先生から給金を貰う説明はある程度しておいたから、受け取っても大丈夫だろう。
俺はそう思い、
「ありがとうございます」
お礼の言葉を言って袋を受け取り、それをすぐに仕舞う。
「確認しなくて良いのですか?」
すると、リーゼロッテ先生がそう聞いて少し戸惑っている様だった。
俺はそんな様子にどうしたら良いのだろうかと思いながら、
「いえ、リーゼロッテ先生は誠実な人なのはもう完全に知っている事なので、わざわざ確認する必要は無いかと思ったのですが…。確認した方が良いですかね?」
すでに、彼女がそんな事をする人だと思っていない事を話し、逆にそう聞き返してみる。
「い、いえ‥ありがとうございます。しっかりと入れているので、大丈夫です」
俺の言葉を聞いたリーゼロッテ先生が、少し照れている様子を見せながらそう答えてくれる。
すると、
「でも、先生が入れたのだから少し心配してしまう様な気も……」
「「「あぁ~~~…」
レナーテさんのそんな指摘に、周りの生徒達も納得の反応をしてしまう。
俺も、そう言われると不安になってしまうのだが…。
俺がそう思っていると、
「し、失礼ですね!しっかりと昨日の内に何度も確認してきました!」
リーゼロッテ先生がそう声を荒げる。
そんな平和な会話に、生徒達が笑い出してしまう。
リーゼロッテ先生は不満そうにしているが、本気で不満に感じている訳では無いのが見て分かる。
そうして和気藹々とした空気が落ち着き、
「では、行きます。短い間でしたが、お世話になりました」
俺が別れの挨拶をする。
「こちらこそ、大変ありがとうございました」
リーゼロッテ先生が頭を下げると、
「今度会う時には、もっと成長した姿を見せれるように精進します」
「またね先生」
「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛じだァァッ!」
「お元気で」
後ろにいた生徒達がそう挨拶をしてくれる。
俺はその言葉に少し感動しつつ、皆に頭を下げて振り返ると、
「召喚、カルラ」
グリフォンであるカルラを召喚する。
レベルデン王国に来た時もカルラに乗って来たのだ、帰りも彼女に頼りたいと思って召喚する。
召喚されたカルラは、高い鳴き声を上げて翼を広げた。
俺は彼女のうなじ部分を軽く撫でると、カルラは少し身を下げて俺が乗りやすい様にしてくれる。
「ありがとうカルラ。またよろしく頼む」
俺がそう言って彼女の背中に乗ると、カルラが俺の体重など関係ないかの様に立ち上がる。
俺はそんな彼女の体をまた撫でて、また怒られない様に程々にしておき、
「それでは皆さん、またお会いできる日まで」
俺がそう言う。
その言葉に、生徒達は少し唖然としながら返答をしてくれた。
俺はその言葉を聞き、
「カルラ、出発だ」
カルラにそう指示を出した。
カルラは俺の指示を聞いて翼を広げ、一気に加速し空に飛びどんどん上空へと駆け上る。
「確か、エルヴァン達の馬車が来た方角は向こうだったな。カルラ、向こうの方角にあまりスピードを出し過ぎない程度に飛んでくれ」
俺がカルラに見えるように、やや前のめりになって帝都の方角を指差すと、彼女はそれに答えてくれて翼を動かした。
ヴァルダがカルラに乗り空に飛び立って少しした後、
「行ってしまいましたね」
「…それよりも、あれってグリフォンじゃない?」
生徒達はヴァルダが去って行った空を見上げながら、そんな事を言う。
「でもグリフォンって、生息地が不明で生きている間に会えるのも無理だって聞いた事があるけど…」
「なんか、ヴァルダ先生の手つきとか話し方とか明らかに異性に対しての反応に見えたんだけど…」
「グールのパウルさんと契約しているのは、まだ理解できますよ?数は少ないですけど、召喚士の人がモンスターと契約するのは当然ですし、グールなどの低級モンスターを契約するのが基本だと聞いた事もあります。でも……」
そんな風に生徒達が言い合っていると、
「あれだけの数の魔導書を持っていて、低級でありながら並外れた力や速さを持つグールを従えているんですよ?あの人の力は、たった数週間では計り知れないという事でしょうね」
レナーテが生徒達にそう言う。
空を見上げて苦笑をする様に、何とも言えない表情をしているレナーテの言葉に、周りの生徒達も同意してしまう。
「もしかしてヴァルダ先生、亜人の人達が好みなのかな?」
「確かにありえそうだよね。………ってなると、私達を助けてくれたのも亜人の人達を差別しないからって理由だったかもね」
「という事は、私達が亜人の人達を傷つけたり差別したら、敵対しちゃう感じかな?勿論そんな事するつもりは無いけど」
「……はっきりとは言えないけど、あの様子から見るにあり得る話だよね。…ヴァルダ先生と敵対するのは、絶対に避けたい道だよ」
女子生徒同士でそんな話をしていて、周りの生徒達はヴァルダと戦う事を想像してしまう。
あまりに考えたくない事に、生徒達は何が起きても亜人達を差別する様な事は避けようと心に誓う。
「さて、ヴァルダ先生も行ってしまった事ですし、教室に戻りましょうか。今日からヴァルダ先生がいませんが、厳しさを変えるつもりは無いですからね。皆さんにはもっと成長してもらわないと」
リーゼロッテがそう言うと、生徒達は返事をしてレベルデン王国に戻っていた。
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