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あの後リーゼロッテ先生の説明を聞いた感じだと、魔法を発動させるギリギリを維持した状態をいくつか作り、状況に応じて魔力を込めるだけで瞬間的に発動させる…という感じであった。
しかしこの状態を作るのには難点があるらしく、まず使う為には無詠唱で出来る事が必要だという事。
まずその段階になるのがこちらの世界の人達には大変な事なのに、更にそれを同時に複数も出来るようにならないといけない。
その状態に更に、魔法を瞬間的に発動させられる様にギリギリの状態を維持するのも大変だと聞いた。
「なるほど、確かにそれは大変な事ですね」
流石の俺も、そんな繊細な技術がいくつも必要なのを聞いて大変な事だとは理解できる。
俺はそう思いながら苦笑し、
「それと、クラスの皆さんが飛行魔法?というのに驚いていましたけど、あれはどうやって習得できたんですか?飛行魔法の魔導書なんて、俺は持っていませんから」
更に質問をする。
すると俺の問いを聞いたリーゼロッテ先生は、少し肩を竦めながら笑い、
「あれは風魔法でゆっくりと降りていただけですので、飛行魔法とかそんな凄いモノではないですよ」
そう答えを教えてくれた。
なるほど、ゆっくりとだった故に降りてきていたのか見えなかっただけか。
しかしそれでも、彼女がオリジナルで魔法を作り出した事に変わりは無い。
「これから、その技術を生徒達に教えるんですか?」
俺が少しゆっくりと声を出すと、彼女は俺の心中を察したのか、
「そうです。私の技術と知識をあの子達に教えるのが、私の仕事でありやるべき事だと思っていますから」
そう答えてくれた。
俺とリーゼロッテ先生の間に静かな時間が流れる。
聞こえるのは少し吹いている風が窓に当たったせいで鳴るガタガタ音と、生徒達の話し声だけだ。
すると、
「ヴァルダ先生、短い期間でしたが本当にありがとうございました」
リーゼロッテ先生が、頭を深々と下げてお礼の言葉を口にした。
俺はそんな彼女に、
「いえ、こちらこそ貴重な体験をさせていただきました。ありがとうございます」
彼女と同じ様に頭を下げる。
少しの間お互いに頭を下げ続けた後、ほとんど同じタイミングで頭を上げる。
「……これからヴァルダ先生は、どうするんですか?」
頭を上げて少ししんみりとした空気でいると、リーゼロッテ先生が俺の今後について聞いてきた。
俺はその言葉に、
「…そうですね、俺は帝都に戻ろうかと思っています。帝都でやらないといけない事がありますので。リーゼロッテ先生と同じですね」
そう返すと、リーゼロッテ先生は少し残念そうな表情をして、
「そうですか。それならば、私がここに残ってもらう様な事を言えませんね」
そう言ってくれた。
「お気持ちは凄く嬉しいですけど、そうですね。俺にもやりたい事があるので」
俺がそう言うと、リーゼロッテ先生は微笑をし、
「では、今日は皆さんでお祝いをしないといけないので、ヴァルダ先生も参加をお願いしますね。臨時とはいえ、ヴァルダさんもあの子達の先生なんですから」
そう言った。
その後、俺とリーゼロッテ先生は教室に入ってお疲れ様と言い、これから祝杯をするという事で移動する事になった。
リーゼロッテ先生が先導し、レベルデン王国の道を歩き進める。
俺は最後尾を歩き、少し疲れて歩みが遅くなっている生徒達を見ながら苦笑していると、
「ヴァルダ先生」
わざわざ生徒に囲まれる様に中心を歩いていたレナーテさんが、少し歩みを緩めて俺の近くまでやって来た。
「どうしたんです?」
俺は、隣までやって来たそんな彼女に問うと、
「…お世話になりました。貴方が来てくださったお陰で、私達は今こうやって笑い合いながら話が出来ています」
レナーテさんは感謝の言葉を発した。
「そこまで感謝されると気が引けますね…。リーゼロッテ先生を含めて皆を救った様に言ってくれますが、しっかりとお金を貰っての行動ですから」
俺がそう言って苦笑すると、
「それは仕方がないですよ。無償で良い事をしても、生活する事は出来ていけませんから」
レナーテさんが、少し微笑みながらそう言ってくれる。
レナーテさんの優しい笑顔を見たのは何回かあるが、それを更に優しくした笑みを向けられたのは初めてではないだろうか?
俺はそんな失礼な事を考えてしまい、慌ててそんな思考を止めて、
「そう言って貰えるのなら、お礼の言葉も素直に受け入れさせていただきます」
お礼の言葉を素直に聞き入れる。
すると、
「ヴァルダ先生は、今日でリーゼロッテ先生との契約は終わりなんでしょうか?」
レナーテさんが、少し聞き辛そうに質問をしてきた。
「そうですね。リーゼロッテ先生との契約は、クラス対抗戦までの期間でしたから」
俺が素直にレナーテさんの質問に答えると、彼女は少し沈黙し前で話していた仲間達を見つめた後、
「では、これから私と個人的な契約をしてくれませんか?給金は、ご相談させていただきますがなるべく良い値を考えさせていただきます」
そう提案をしてきた。
しかし、
「それは、辞退させていただきます。俺の力をそこまで評価してくれるのは嬉しいですが、俺もやりたい事があるので」
俺はレナーテさんの申し込みを断る。
確かにお金が入るのは喉から手が出る程の話しなのだが、それよりも先に不当な理由で奴隷になってしまった人達…亜人達を救いたいと思っている。
俺がそう思っていると、
「………そうですか。そこまではっきりと断られるのなら、無理強いは駄目ですよね。無理を言ってすみませんでした」
思っていたよりも、レナーテさんはあっさりと引き下がってくれた。
しかし、
「ですが、私達が先生の生徒であった事は忘れないで下さいね」
何故かそんな事を言ってきた。
言葉の真意は分からないが、
「忘れないですよ。とても良い経験をしました」
俺はレナーテさんの言葉に、感謝の意を込めてそう答えた。
その後、リーゼロッテ先生と前に言ったレストランに行き皆で祝杯を挙げた。
流石は貴族である皆だ、大騒ぎをするかと思っていたが皆静かに料理を噛み締めながら喜びを噛み締めていた。
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