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ゾルゼ先生を襲った魔法の嵐が止み、リーゼロッテ先生は空中から地上へと降りてきた。
あまりの魔法の連射に俺も含めた、おそらく練習場にいた全ての人達が唖然としているだろう。
それにしても、4つの属性魔法を同時に発動させるなんて、俺からしたらあり得ない状況だ。
そう思っていると、魔法の衝撃で起こっていた僅かな土煙が晴れてゾルゼ先生のいた場所が見えた。
そこには、
「……ァ…ア゛ア゛アァァァッッッ!!」
服が半分ほど焼け焦げて無くなっており、火傷を負ってなおかつ無数の細かい切り傷が出来ているゾルゼ先生が見えた。
ライトニングの余波の所為か、体が上手く動かせていないで横に転がって叫び声をあげている。
足はウォーターバレットに撃ち抜かれたのか、動かすのも辛そうだ。
生徒達の力では多少の怪我で済むクラス対抗戦も、先生同士の対決ともなると大怪我になるんだな。
俺がそう思っていると、
「…これ以上は生死に関わります。G組が勝利で良いですよね?」
リーゼロッテ先生がゾルゼ先生にそう言い放った。
その言葉を聞いたゾルゼ先生は苦痛と怒りを孕んだ声を出すが、体を動かす事は出来ずに横たわったままだ。
誰が見ても、勝敗は決している。
それでも未だに対抗戦の終了の鐘が鳴らないという事は、上の人達がリーゼロッテ先生を勝たせる事を渋っているという事だろう。
ここまで実力の差を見せつけたのだ、誰がこの状況を見てゾルゼ先生が勝ったと思うのだろうか…。
俺がそう思っていると、対抗戦終了の鐘が鳴った。
これ以上引き延ばすのは、学園側の意図的な勝敗の決め方を怪しむ人が出ると予想したのだろう。
これで観客であるご家族がいない状態だったら、おそらくどちらかが死ぬまで鐘は鳴らされる事は無かったかも知れない。
鐘が鳴った瞬間は、クラスの皆はまだ自分達が優勝した事に実感が湧いて来なかったようだが、流石に少しすると実感が出てきたのか、友と笑顔で喜ぶ者、喜びすぎて抱きしめ合う者、安心と緊張が抜けた所為でゆっくりと座り込む者など、様々な反応で喜びを表現していた。
そんな生徒達を見た後に、練習場の通路に向かって歩いてくるリーゼロッテ先生の表情を見ると、安心した様な穏やかな表情をしていた。
それに気が付いた生徒達は、慌ててリーゼロッテ先生を迎える為に動き出した。
ゾルゼ先生の方は動けないはずなのだが、治療に来た人達が近づくと腕を払って何故か治療を断っている。
「……クラスチェンジ・錬金術師」
俺は生徒達を治療している人達と別の人達が、ゾルゼ先生の周りにいた事が気になり鑑定を試みる。
そして、彼らが持っている薬品を見たのだがそこには、
「……麻痺毒か」
しっかりと麻痺毒と書かれていた。
なるほど、リーゼロッテ先生を倒せなかった所為で始末されるのか。
学院側からすれば、ゾルゼ先生はもう必要がない存在だし、パプの使用や生徒に渡した事の責任を全て押し付けたいのだろうな。
……まぁ、助けても俺に利は無いし、亜人などを差別するような人だ。
俺には関係ない事だな。
俺はそう思いつつ、リーゼロッテ先生を迎える為に生徒達を後を追いかけ始める。
その後は学院からの邪魔も無く対抗戦の閉会式の様なモノが開催され、クラスを代表してアーレス君とレナーテさんが優勝を証明する短剣を受け取り、ご家族と生徒達の拍手で締め括られた。
と言っても、生徒達の方はG組が勝った事に不服そうな表情を隠そうともせず、拍手をしない者も少なくない。
しかしそれでも、優勝した事は覆し様が無い。
悔しそうな表情も、今のG組の皆からしたら今までの鬱憤を晴らす材料程度になるだろう。
俺がそう思っている内に閉会式の様なモノは終わり、俺達は旧校舎へと戻ってきていた。
しかしここで遂に、今までの緊張が解けたG組の皆は倒れる様に自分達の席に座ると、安心した表情で近くにいる仲間と改めて嬉しそうに笑い合っていた。
自分にはこうやって笑い合う仲間など「UFO」の中にしかいなかったし、その仲間達にも会える可能性が低い事を思い出してしまい、俺は一時的に教室を出て少し寂しい気持ちになる。
しかし今の俺は、笑い合う事が出来る家族がいるではないかと思い出し気持ちを切り替える。
すると、
「ヴァルダ先生、どうしましたか?」
遅れてやって来たリーゼロッテ先生が、俺の様子に心配している表情でそう聞いてきた。
俺はそんな彼女に、
「いえ、少し感傷に浸ってしまっていただけです。…それよりも、学院側との話し合いはどうでしたか?」
自身が周りからも手も心配される様な顔をしていたのかと少し恥ずかしくなり、彼女に質問を返す。
リーゼロッテ先生は対抗戦の閉会式が終わった後、学院側と話し合いをするという事で皆と一緒に旧校舎へと帰らずに本校舎へ向かったのだ。
「そうですね。私が当初予定していた希望を聞き入られなかった事は残念でしたが、それでも皆さんの今後に良い影響を与える事が出来るように交渉はさせてもらいました」
俺の問いを聞いたリーゼロッテ先生はそう言い、少しだけ声が聞こえる教室に目を向ける。
彼女のその言葉を聞いて、とりあえず俺がここに来た事で良い方向に向かってくれたのなら幸いだ。
俺はそう思い、
「そういえば、ゾルゼ先生との戦いで見せたあの魔法、えぇーと…」
少し気になっていたゾルゼ先生との戦いで見た、見たこともない魔法について聞いみようとするが名前を思い出せない。
「マジックレイン・サーキットですね?」
俺が言葉に詰まっていると、リーゼロッテ先生が教えてくれる。
「そう、それです。あんな魔法見た事が無くて驚きましたよ、何ですかあの魔法は?」
俺がリーゼロッテ先生の教えてくれた魔法に興味を示すと、彼女は少し自信がありそうに。
「生徒達に魔法を教える教師として、私は普段から魔法の練習や応用を欠かした事がありません。ヴァルダ先生から魔導書を受け取り魔法を覚える事が出来た故に、私はこの属性魔法を同時に発動させる方法を思いつきました」
そう答えた。
あぁ、この人は魔法と生徒達が好きで、努力を惜しまない人なのだと改めて思い知らされた。
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