125頁
リーゼロッテ先生の言葉を聞いた俺は彼女の覚悟に何も言う事は出来ず、ただ無事を祈って送り出す事にした。
生徒達が帰って来ると、勝っていたのに無効になってしまった結果に文句が凄く、いつも皆を落ち着かせる側のアーレス君ですら、今回は怒っていた。
レナーテさんは、学院に抗議に行こうとして友達に押さえつけられていた…。
そんな生徒達に、
「皆さんの悔しい気持ち、しっかりと私が受け止めて晴らして見せますからね」
まさかのやる気満々のリーゼロッテ先生が、そう言って生徒達を静めていた。
しかし、リーゼロッテ先生の実力は知っているが大丈夫なのだろうか?
ゾルゼ先生だってこの学院の講師という事は実力はあるだろうし、そこに加えてパプを使用してステータスの底上げをしている。
彼女の事は信頼しているが、心配はしてしまうな。
そう思っている内にリーゼロッテ先生は呼び出されてしまい、俺とクラスの皆はただ応援の言葉を送るだけになってしまった。
そうして少しだけ奴隷の皆さんが練習場を均した地に、リーゼロッテ先生とゾルゼ先生が立ったのだが…。
「………私は悪くない私はわるくないわたしはわるくないワタシハワルクナイ……」
もう色々とアウトなゾルゼ先生を見て、学院側はどうやって弁明するつもりなのだろうかと率直に疑問に思ってしまった。
見た感じは足元がフラフラとしており、帝都で夜に見た出来上がった酔っ払いの様だ。
立っているのもやっとの状態で、更に何かを呟いている姿は不気味さしか感じない。
誰がどう見ても普通の状態の人ではないよなと、俺は周りの人の表情を確認しながらそう思っていると、やはり親御さん達は顔を顰めて練習場を見ている。
その目はまるで、ゴミを見ている目と同じだ。
そんな視線にそこまでの表情をするかと思いつつも、今はリーゼロッテ先生の事だと考えて視線を練習場へと戻す。
その瞬間、開始の合図である鐘が鳴った。
「ワ、ワガガテテテキヲキリサケッッ!!ウィンドストームッッッ!!!」
開幕、ゾルゼ先生が魔法を使って攻撃を仕掛ける!
リーゼロッテ先生を取り囲むように展開される無数と言って良い風の刃に、彼女は何もしないでただ立ち尽くすのみ。
何もしない彼女にどうしたのだろうと思っていると、リーゼロッテ先生はただ目を瞑って立っているだけだ。
だが、彼女は眼を一気に見開くと、
「アースウォールッ!!」
自身の足の下から大地を隆起させて高く上へと昇る。
彼女の周りを飛んでいた風の刃より上へ辿り着くと、それと同時に隆起した大地に風の刃が攻撃を仕掛けた。
しかし、リーゼロッテ先生の魔法の精度が上なのか、風の刃が激しく隆起した大地に攻撃をしているのにダメージを負っている様には見えない。
すると、
「燃え盛る炎、荒れ狂う奔流、吹き荒れる風、奔る稲妻」
今までに、生徒達からもリーゼロッテ先生からも聞いた事が無い詠唱が聞こえてくる。
しかも、生徒に教える時に彼女は基本的に一節詠唱か無詠唱が出来る程の実力者なのに、そんな彼女が今回の詠唱は四節詠唱、明らかに今までの初級や中級魔法では無いと理解する。
「マジックレイン・サーキットッ!」
リーゼロッテ先生が魔法名を告げると、彼女の前に4つの魔法陣の様な物が浮かび上がる。
それぞれに色が付いており赤色の魔法陣は右肩の辺りに、青色の魔法陣は右足の膝辺りに、黄色の魔法陣は左肩の辺り、緑色の魔法陣は左足の膝辺りに浮かび上がっている。
その光景を見た俺は、「UFO」の世界には存在しておらず全く見た事が無かった俺は、彼女の姿に目を奪われる。
何なんだあの魔法は…。
俺がそう思っていると、リーゼロッテ先生は結構な高さがあるアースウォールの頂上から跳んだ!
何か手を打っているとは思うが、それでもあの高さから普通の人が跳躍するのは危険だと思ってしまう。
リーゼロッテ先生が跳んだ姿を見て、生徒達からも短い悲鳴の様な息遣いが聞こえて、彼女がどれだけ危険な事をしたのか改めて認識させられる。
そうしている内に、リーゼロッテ先生が空中を滑空している速度が落ちていき、完全に空中で停止した。
「UFO」が開発されて数年後にサービスの開始を始めたゲームに、空を飛ぶ事が出来る魔法?技術が存在していると聞いた事はあるが、「UFO」ではそんな魔法などは存在しない。
つまり、あれはこの世界の魔法で良いのだろう……けど…。
「嘘……。先生が浮いてる…」
「あれ、今賢者様が研究しようとしている空を飛ぶ魔法じゃない?」
生徒達のそんな言葉を聞いて、この世界でも珍しい魔法だということを察した。
それにしても、賢者とは何だ?
クラスなのか、それとも職業名なのか?
俺がそう思っていると、
「ナ、ナナナんナンダリーゼロッテッッ!?!?」
ゾルゼ先生が発狂した様に、甲高い叫び声でリーゼロッテ先生に問う。
しかし、その言葉を聞いたリーゼロッテ先生は嫌そうに顔を歪めた後、
「貴方に名前を呼ぶ事を許可した覚えはありませんッ!」
声を荒げて腕を伸ばすと、右肩の近くに浮かび上がった赤い魔法陣が更に赤く輝くと、そこから大きめのファイアーボールが四発撃ち出された。
弾速は速く、ゾルゼ先生の近くに着弾する。
着弾した地点を見ると、僅かにだが地面が抉られて焦げている光景が見える。
「ゾルゼ先生、今まで私の大事な生徒達を侮辱した事、謝罪をして下さるのなら今のを当てるだけにしますよ」
上空からそう言ったリーゼロッテ先生の言葉。
それは、ゾルゼ先生が今までリーゼロッテ先生の生徒達を侮辱した謝罪を求める言葉だった。
しかしゾルゼ先生が謝罪しても魔法を当てるというのは、すでに彼女は我慢が限界を突破しているという事だろう。
俺がそう思っていると、
「シャザイ?ソンナモノスルリユウガナイッッ!!」
ゾルゼ先生がそう怒号を発した瞬間、リーゼロッテ先生が腕を前に伸ばした。
瞬間、ゾルゼ先生にファイアーランス、ウォーターバレット、エアスラッシュ、ライトニングが降り注いだ。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!
感想を書いてくださった方、ありがとうございます!
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。