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対抗戦が始まる鐘の音が聞こえると、それと同時に衝撃音が聞こえてくる。
早めに帰らないとな。
俺はそう思いつつ、対抗戦自体にはもう関心はないのかこれからの対処を話し始める3人の事を見る。
すると、
「ヒヒ…。しかし御二方、G組の生徒は少し骨が折れると私は認識していますよぉ。それに今日はあんなモノ達の親も観戦に来ているじゃないですかぁ。下手に後手に回れば、何かしらの抗議があるかもしれません。どうでしょうか?ここはG組の生徒達と親共の戦意を削ぐつもりで、少々手荒い行動をするというのは?」
ゾルゼ先生が、ニタニタと笑いながら2人に進言する。
…ふむ、何かしてくるつもりか。
内容によっては、今この場で対処しないとな。
俺がそう思ってゾルゼ先生の言葉に対して2人の言葉を待っていると、
「しかし、どうやってあの屑共を…。今、対抗戦はすでに始まってゾルゼ先生のクラスの子達も負傷しているかもしれません」
女性がそう言い、不安そうな表情をする。
それを聞いたゾルゼ先生は、
「御二方に、対抗戦の一時的休憩を取ってもらいたいのですよぉ。理由はそちらに任せます。その休憩の間に、私が生徒達にこれを飲ませます」
そう作戦を提案し、懐から少しだけ膨らんだ袋を取り出す。
男性と女性はその中身が気になっているのか、少し覗き込むように袋を見る。
その様子を見ていたゾルゼ先生は、ゆっくりと袋を開ける。
すると、
「これは、上物ですね」
「パプ、まさかここまで質が良い物を持っているとは…」
袋の中身を見た2人が、感心したようにそう言う。
そんな2人にゾルゼ先生は、
「一時休憩の時に、これを生徒達に飲ませますよぉ。今までは半分かその半分を飲ませていましたが、こうなった以上手段は選んでいられません。そうすれば、私の生徒達は魔力だけではなく身体能力も向上します。対抗戦の規定に、物理攻撃の禁止はないですからねぇ。泣き叫び、地に頭を付いて許しを請うまで痛めつける様に、生徒達に言っておきますよぉ」
そう言って袋の中に手を入れると、1錠ずつ2人に渡す。
これは、賄賂になるのだろうか?
俺がそう思っていると、
「あぁッ…、早く飲みたい…」
「そうですね。しかし、それは今日の夜のお楽しみにしておきましょうか」
男性と女性はそう言って、大事そうに錠剤を布に包んで懐に仕舞った。
そうして話は終わったようで、3人はバラバラに帰っていく姿を俺は見送った後、向こうがそこまでするのなら、こちらもやろうではないかと考え、リーゼロッテ先生の元に向かった。
少し早歩きでリーゼロッテ先生の元に辿り着くと、俺は首に下げていたアンジェの指輪を取る。
すると、
「っ!?…ヴァルダ先生でしたか、突然現れたので驚きましたよ」
リーゼロッテ先生が驚いた表情で俺にそう言ってきた。
俺は軽く彼女に謝罪をした後、
「リーゼロッテ先生が前に話してくださったF組の件、あれは事実の様です」
俺は先程得た情報を彼女に伝える。
それを聞いたリーゼロッテ先生は、悲しそうな表情をしてまだ一時休憩の指示が出ておらず、まだG組の皆と戦っているF組に目を向ける。
皆を馬鹿にしたクラスの人を心配しているのか、生徒想いの人なのは知っていたがそこまでとは…。
俺がそう思っていると、対抗戦開始の際に鳴らされた鐘の音が何度も聞こえた。
「中止の合図…とは違いますね。どうしたのでしょうか?」
鐘の音を聞いたリーゼロッテ先生が、そう呟きながらクラスの皆の方を見る。
俺はそんな呟きに、
「一時休憩の合図です。向こう…学園側がG組の優勝を何としてでも阻止しようと動き始めたんです。こちらもそれなりに準備をしないと、皆が立ち直れなくなるまで暴力を振るわれると思います」
そう答えて、すぐに移動を開始する。
つい先程までいた練習場の通路に行くと、クラスの皆が不思議そうな顔をして戻って来た。
さて、とりあえず俺は、
「クラスチェンジ・魔法使い」
スキルを使用して、魔法使いに変化させる。
とりあえず防御系と攻撃系、両方の補助魔法を使うとするか。
ゾルゼ先生の持っていたパプがどれだけ能力強化されるかはわからないが、俺の補助魔法で凌駕出来ると思っている。
「先生、どういう状況なんですか?」
生徒の1人が、リーゼロッテ先生にそう聞いているのを横目に杖を生徒達に向ける。
「とりあえず……、フルパワーアップ、マジックアーマー、アタックアーマー、ディスペルブレッシング、リフレクションブレッシング」
そうして、自分が出来る最大限の補助魔法を生徒達に与えると、
「な、何をしてるんですか先生!こんな事をしたら学院側が黙ってはいませんよ!」
レナーテさんが、瞳を鋭くして俺にそう言ってくる。
俺はその言葉を聞き、
「相手も同じ様に、非道な行為で力を付けてこの後の対抗戦に挑もうとしてるんですよ。短期間で、なおかつ仮の先生ではありますが、生徒の事を護ろうとするのは先生の役目です。俺がもっと補助魔法を習得していたら、もう少し良い状態で送り出せたんですが、俺にはそこまでしか出来ません」
俺がそう謝罪をすると、レナーテさんが気まずそうに視線を逸らしてリーゼロッテ先生を見る。
レナーテさんの視線を含め、俺の言葉を聞いたクラスの皆がリーゼロッテ先生に視線を送ると、
「ヴァルダ先生の言う通りです。先程までの対抗戦の様子を見ていて、違和感があったんです。最初に仕掛けてきたのはF組の生徒達でしたが、そこからは防戦一方でした。皆さんも戦っている間に違和感を感じたと思いますが、あの戦い方は時間を稼ぐ為の行動に見えました。最初からF組は、こうなる様に仕掛けていたんでしょう…。F組の策略を上回るのと皆さんが安全に戦い切る事を優先するなら、ヴァルダ先生の意見に私は従います」
彼女は真剣な表情で、レナーテさんを見た後にG組の皆の顔をしっかりと見回す。
そんなリーゼロッテ先生に、G組の生徒達は納得したのか少し苦笑をした。
「気をつけてくださいね。向こうはどんな方法を使ってでも勝ちに来ますから」
俺が皆にそう進言をすると、アーレス君が手を挙げて、
「先生、それは俺達も一緒です。本当は自分達だけの力で勝ちたかったんですけど、相手がそう来るなら俺達も同じ様にやりますよ」
そう言ってくれた。
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