11頁
何か騒がしい…。
俺がそう思って目を開けると、何やら外が騒がしい事に気が付く。
何かあったのだろうか?
俺がそう思っていると、
「もう無理だ。諦めるしかない」
男性のそんな言葉が聞こえて、俺は非常事態が起きている事を認識する。
俺は装備を確認してから扉を開いて外に出ると、井戸がある少し開けた場所に村の人達が集まっているのが見える。
俺もそこに歩いて行き、何が起きたのか確認しようとする。
すると、何やら焦げた匂いがする。
周りを見ても火を使っている人などいないし、どういう事だろうと思っていると、
「あ、ビステルさん」
アシルさんが俺に気づいて声を掛けてくれる。
「おはようございます。何やら騒がしいですが、どうかしましたか?」
俺が挨拶をしつつそう聞いてみると、
「昨日話したこの村から少し奥の村が襲われたらしいんだ。生き残った人が助けを求めて来たんだが、もう…ダメそうなんだ」
アシルさんがそう言って、顔をしかめる。
俺はその言葉を聞いて、襲った相手が誰なのかを聞こうと、
「その人はまだ息がありますか?」
悔しそうにしているアシルさんにそう質問する。
すると、
「あ、あぁ。だけどどうし…」
アシルさんが俺の質問に答えてくれて、更に俺に何か聞いて来ようとする。
だが、アシルさんの言葉を聞く前に俺は人の間をすり抜けて生き残った人を探す。
すると肩や背中にボロボロの矢が刺さり、右腕が焼き焦げて赤黒くなっている男性がうつ伏せで横たわっている。
見ると、背中には斬られたであろう傷も見えて、息をしているのが奇跡に近い様に見える。
人生で初めて見る他人の死に少し怖気づいてしまうが、立ち止まってはいられない。
俺は出来るだけ冷静な態度をしながら男性に近づき、
「村を襲ったのは誰だ?野盗か?モンスターか?」
そう質問する。
ここまで重傷な人に長い質問をしても、答えるのが辛いと判断して簡単な質問をする。
すると、男性は虚空を見つめながら、
「ゴ、ゴブリ…」
そう言い、続きの言葉を発する事は無かった。
俺は男性の光の無い瞳をそっと閉じさせて黙祷する。
少しして、俺は目を開けるとすぐに立ち上がって彼が来た村を目指す為に、村長を探す。
すると、少し離れた所で村の人達に柵の強度を高める様に指示を出す村長を見つけた。
村長だけあって、村の事を考えて指示を出すのが速い。
俺がそう思いながら、
「すみません村長、彼が住んでいた村はどの方角にありますか?」
村長に声を掛ける。
すると、
「そ、それは向こうの方角ではありますが…。まさか行くつもりですか!?」
村長は森のある方向を指差して方角を教えてくれるが、慌てた様子で俺にそんな質問をしてくる。
「当たり前です。彼の村を襲ったのはゴブリンだと言いました。ゴブリンの習性は詳しいつもりです。奴らは単体では弱いですが、群れになるととても厄介な相手です。守りに入るのではなく、攻めなくては奴らに攻められて彼の村の様になるのは確実です。そのなる前に、俺が行きます」
俺がそう言うと、村長は何故か悔しそうな顔をして、
「そんな危険な事を頼む訳にはいきません…。ビステルさんは早くここからお逃げ下さい。村の事は村の者達で覚悟を決めます」
そう言った。
つまり、俺を逃がした後自分達はゴブリン達と戦うという事だろう。
装備も満足に揃えられない村が、ゴブリン達に勝てるとは思わない。
見ると怯えている人と覚悟を決めた人、別れを言う人や最後まで一緒だと言い合う人。
村の人達はすでに色々な意味で、覚悟を決めたという事だろう。
そういう事なら仕方ない。
「じゃあ、俺はこの村に一泊させてもらった恩を、自己満足でお返しします」
俺はこれ以上の話し合いは意味が無いと判断して、村長が指差した方角に向かって走り出す!
「お、お待ち下さ…」
後ろで村長の止める声が聞こえたが、俺はそんな声を無視して村を飛び出す!
走りながら後ろを見ても、俺の事を追いかけては来ない事を確認して俺は一度立ち止まり、
「クラスチェンジ・召喚士」
職業を召喚士に変更して、本の中の世界を開く。
ここで強いモンスターを召喚しても、それは戦力の確認にはならないよな。
やっぱり、相手がゴブリンなら同じ俺が契約しているゴブリンで個体の力を確認した方が良いだろう。
俺はそう考えて、
「召喚、バルドゥ」
俺の契約しているゴブリンを召喚する。
「お呼びでしょうかヴァルダ様」
バルドゥは俺にそう言うと、膝を付いて頭を垂れる。
「今からゴブリン達との戦闘が起きる。お前の力を俺に見せてくれ」
「はッ!」
バルドゥは短く返事をすると、立ち上がって辺りを警戒しながら歩き出す。
「方角は向こうだ。ただし、ゴブリン達が襲った村が向こうだから、巣の場所は把握していない」
俺がおおよその方角を指差しながらバルドゥにそう伝えると、
「普段は森や洞窟を棲み処にしています。しかしここは森ですが人里が近すぎるのでその可能性は低いです」
バルドゥが俺にそう教えてくれる。
そう言えば、洞窟があるとアシルさんが言っていたな。
「近くで洞窟があると言う情報を聞いた。村の方を見ていなかった場合はそちらに行くとしよう」
俺がバルドゥにそう言うと、バルドゥは短く返事をする。
そうして少し警戒しながら森を歩いていると、何かが焼けている匂いがする。
すると、
「…これは肉の焦げた匂いです…。数は…十数人でしょう」
バルドゥが俺に情報を伝えてくれる。
「急ぐ!」
「はッ!」
俺とバルドゥはそう言うと走り出し、どんどん匂いが強くなっていくのを感じる。
そうして森の木々の間から赤いモノが見えてきて、少し開けた空間に出た瞬間、それが燃えている家だという事に気が付いた。
家と森は少し離れている事と今現在は風がない事が幸いで、山火事にはなっていない。
そして、家以外を見て俺はこの村で起きた惨い行いに、俺はここがゲームの世界とは違う事を改めて、再認識させられた。
焼け焦げた人の死体、食い散らかされた人の肉。
どれも表情は苦痛と絶望に塗られている。
その陰惨な光景に、
「虫唾が走ります」
バルドゥが、俺と同じ感想を呟いた。
読んで下さった皆様、ありがとうございます!
評価して下さった方、ありがとうございます!
ブックマークして下さった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをして下さると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告して下さると嬉しいです。
よろしくお願いします。