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アンスガー君の魔法でG組の生徒は攻撃を受けずに済み、更に壁からの奇襲を行うためにすでに動き出している。
レナーテさんとアーレス君が率いる成績が良い人達が素早く魔法で奇襲をし、アンスガー君の魔法の壁が崩れるまでの間に、他の生徒達は範囲魔法を使うために詠唱を開始する。
「出だしは好調ですね」
「はい、このまま押し切れれば良いのですが……。相手はB組です、そんな簡単に倒される人達では無いはずです」
俺とリーゼロッテ先生がそう話し、戦いをよく見る。
おそらくリーゼロッテ先生は生徒達の事で頭が一杯だろうが、俺は外部からの妨害が無いかを確認している。
今のところ、怪しい動きをしている者はいないな。
学院の上の人達は少し顔を顰めて試合を見ているし、相手のB組の担当の先生は驚いたような表情をしている。
俺はそんな様子を見て、とりあえずまだ妨害は出来ないだろうと判断して試合の観戦に移る。
アンスガー君のアースウォールの影から、左右に飛び出すレナーテさんの部隊とアーレス君の部隊。
「ライトニングッ!」
「ファイアボールッ!」
レナーテさん率いる速さ特化兼攻撃の雷魔法部隊が、B組の生徒達を1人1人的確に打ち倒していく。
反対にアーレス君が率いるB組の足場や周囲を燃やす混乱兼攻撃部隊は、B組の生徒達が想像していた以上に焦り混乱してくれた様で、簡単に攻撃を与える事が出来ている。
そのおかげでレナーテさんやアーレス君達を気にしないで、G組の補佐をしている皆は自身達が安全になれる様に水魔法で周囲のB組からの火を消し始めた。
B組は実戦練習が上手く出来ていないのだろう、ああいう状況になった際の解決策を相談していなかった様だ。
何人かの相手側の生徒がレナーテさん達に攻撃をしつつも、混乱している周りの仲間に怒号と言っても良い声量で指示を出すが、それは混乱している生徒達がすぐに実行する事が出来ていない。
混乱して叫び泣いている声と、叱咤する怒号が練習場を支配する。
「…これは勝てましたね。あそこまでの混乱状態は、なかなか落ち着くのが出来ないでしょう」
俺がそう言うと、
「はい。水魔法で消そうとしても、すぐにアーレス君達が追加の炎を燃やしてくれるので、混乱状態が続いています。その所為で、レナーテさん達の攻撃が見えておらず、回避する事もしていません」
リーゼロッテ先生が、俺の言葉に同意してくれる。
人数を最小限に控えた編成での攻撃、これなら次に戦う相手に手の内を明かさずに済みそうだ。
俺がそう思っている内に、アーレス君の火魔法が最後の生徒に当たり戦闘は終了した。
G組も数人の負傷者は出てしまっているが、次の試合に影響が出る生徒はいなそうで安心した。
…次に戦うのはA組、C組、F組のどれかだ。
B組は慢心と実戦経験があまり無い故に比較的簡単に戦う事が出来たが、A組は実戦経験もあり先程の戦いを見て対抗策を考えてくるだろう。
C組も同様に対抗策を考えているだろうし、同じ手は何度も通用しない。
そしてF組だが、ゾルゼ先生の様子を見るに油断してはいけない気がする。
あの人こそ、妨害工作をしてきてもおかしくない人だ。
そうして考えている内にG組の皆がこちら側へ帰って来る。
俺とリーゼロッテ先生はすぐに彼らの元に行き、リーゼロッテ先生はお疲れ様と生徒1人1人に声を掛け、俺はポーションを配って飲ませる。
学院側から支給されたポーションはあるのだが、信用が出来ない物を飲ませる訳にもいかないので、俺の手持ちを物を飲ませている。
ポーションを飲み干した生徒達は、戦いを見てどうだったかを聞いてきた、
俺はその事にしっかりと出来ている事を伝え、次の戦いではまた違う作戦を実行しないといけない事を伝える。
生徒達はそれを聞いて、素直に返事をしてくれる。
さて、どうするか…。
俺はそう思いつつ、
「リーゼロッテ先生、次の対戦相手は、どこのクラスなんですか?」
生徒の事を凄く心配して、色々と聞いているリーゼロッテ先生にそう聞くと、
「A組ですね。初戦では他のクラスとは戦いにならないという事でそのまま不戦勝でしたけど、次には出てくると思います」
彼女が俺の方を向いてそう考察を話してくれる。
A組か、冒険者ギルドでの実戦経験のお陰で先程の様な混乱状態にする方法は無しだな。
どれも的確に判断と対処をされてしまうだろう。
単純に魔法の戦いでも威力が高いだろうし、技術も凄いだろう。
…本当なら決勝で戦う様な相手だというのに、こんなにも早々に戦うなんてな…。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ先生、お願いがあります」
アーレス君が俺にそう話しかけてきた。
俺はそれを聞いて、
「俺で出来る事なら、聞きますよ」
俺がそう答えると、
「A組に勝てる戦い方があるのなら、教えてください」
彼はそう言って頭を下げてきた。
俺はその言葉を聞いて、アーレス君がどういうつもりで俺にそう切り出してきたのかを察する。
少し前まではどんなに強い敵にでも卑怯な手を使いたくないと言っていたが、先程の戦いに勝利し次のA組との戦いにも勝ちたいと思うようになっているのだろう。
俺はそう思い、
「では、少し集まってください」
アーレス君や近くで聞いていたレナーテさんを呼び、俺は周りにG組のクラス以外の人がいない事を確認し生徒達に話をし始める。
それを聞いていた生徒達は初めは凄く真剣な話を聞いていのだが、徐々に不安な表情に変化していった。
「せ、先生。それは、本当に僕達に出来る事なんでしょうか?レナーテさんやアーレスには出来るかもしれないですけど、僕も含めた数人は厳しい様な気がします」
俺が話を終えると、ブノア君が俺にそう質問をしてくる。
彼の近くにいた数人の生徒も、彼の言葉に不安そうな表情をしつつ頷いた。
俺はそんな彼らの見て、
「君達なら出来ると思って、俺は提案してるんですよ。大丈夫、A組が相手なら手の内を隠している暇は無いでしょうから、最初から全力で行ってきなさい」
そう言うと、彼らはリーゼロッテ先生の方を見る。
生徒達の視線をリーゼロッテ先生はしっかりと受け取り、力強く頷いた。
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