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魔法学院練習場に入ると、他のクラスの人達も集まってきており大きな歓声とは言わないが、自分達の子供達の登場に声を出す貴族達の姿が目に入る。
それにしても、結構人が観戦に来るんだな。
貴族だから、こういう事には参加するとは思っていなかったのだが、考えを少し改めないといけない様だ。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ先生、整列をしないといけないのでこちらに」
リーゼロッテ先生にそう声を掛けられた。
運動会も選手入場みたいに整列するもんな。
俺はリーゼロッテ先生の言葉にそんな事を思い出しながら、
「分かりました」
彼女の案内に従って移動する。
そうしてクラスごとに整列をすると、何やら観客席の上段から立ち上がった男性が見える。
遠目からでも分かる佇まい、魔法学院の上の立場の人だろう。
俺がそう思っていると、その男性が口を動かして何かをしゃべっている…。
しかし、俺からの位置が遠い所為もあって何を言っているのかは聞き取れない。
俺は臨時の講師としてリーゼロッテ先生の横に立っているのだが、俺の隣にいるリーゼロッテ先生は聞き取れているのだろうか?
少し男性が話し続けた後、何やら手を挙げて火魔法を打ち上げる。
その瞬間、歓声が沸き上がる。
湧き上がると言っても、少し大きな声と拍手の音が聞こえる程度だ。
生徒達も大きな声を出す程度で、貴族である事を心がけているのだろう。
まぁそれは、G組の生徒達を見ていたら分かる事か。
彼らも魔法の練習をしていても、卑怯な手を提案しても受け入れてもらえなかった。
そう思っているうちに、クラス対抗戦が始まったようだ。
すると、
「今日でG組の愚か者共の顔を見なくなると考えると、とても清々しい気分ですねぇ~。ヒッヒヒ」
…何かヤバい奴が声を掛けてきた。
顔は知っているのだが、目が見開いており普通の思考をしている人には見えない…。
俺がそう思っていると、
「そうならない様に、私達は出来る限りの事をしてきました。失礼します」
リーゼロッテ先生がそう言って生徒達の元へと行ってしまう。
え、待ってリーゼロッテ先生!
こんな悪い方向に進化したモンスターみたいな男と2人にしないで!
俺がそう思っていると、
「お前の様な自信たっぷりの男の鼻を折るのは、さぞ愉快で楽しいんでしょうねぇ~。私のクラスの皆が、他クラスの者達を壊していく様も、楽しみますけどねぇ~」
そう言ってくるF組担当の教師、名前はゾ…ゾンビ?
いや、ゾンゼ?
俺がそう思っていると、
「ゾルゼ先生、僕達に渡したい物があると聞いたのですが、何でしょうか?」
F組の生徒が、ゾンゼでは無くゾルゼ先生を呼びに来た。
それを聞いたゾルゼ先生は生徒にすぐに行くと言った後、俺の事を見て気味悪く笑って去って行った。
…あそこまで様子がおかしいのは、見過ごしても良い事なのだろうか?
俺は少し警戒心を持ちつつも、今はG組の生徒達の事を優先しようと決めてリーゼロッテ先生の後を追う殊にした。
リーゼロッテ先生の元に行くと初戦はC組対D組らしく、他のクラスは観戦や体を温めておく時間らしい。
G組の皆は、少し体を解した後に実力の観戦をすると言って一度練習場を後にした。
彼らにリーゼロッテ先生が付いて行くので、俺は初戦の観戦をするために練習場へと残った。
クラス対抗戦の戦いは、クラス全員での小規模な戦争という感じだ。
相手のクラスの者達を戦闘続行不可能にした方が勝ちという、シンプルで分かりやすい。
生徒達に危険は無いらしく、何でも特別な回復系の魔法で致命傷は免れると、リーゼロッテ先生に教えて貰った。
C組とD組の戦いは接戦であったが、やはりクラスの順位が高いC組の勝利で終わった。
C組は火魔法と風魔法を使う者が多く、連携して戦う戦法の確認した。
C組という事で、もしかしたら2種類の属性魔法を使えるかもしれないから確定とは言えないが、ある程度の情報収集は出来た。
次にE組とF組の戦いが始まる。
会う度にF組を馬鹿にしてきたG組の連中の成長ぶり、しっかりと見ないといけないな。
俺はそう思って戦いを見ていると、先程のC組やD組とは確かに実力に少し差があるのを感じる。
しかし自信たっぷりに言っていただけある、足りない技術を連携で補っているのは凄いと素直に思う。
だが、あれならこちらが勝てる自信が十分にある。
そう思っているうちにF組が勝ち、負けてしまったE組の生徒達は悔しそうな顔をしたりしている。
さて、A組は準決勝まで出て来ないから次はうちのクラスだな。
俺がそう思っていると、少し緊張して表情が固い生徒達が帰って来た。
相手は今まで通りだったら格上のB組。
流石に戦う直前に緊張してしまうのは仕方がない事だろう。
俺はそう思いつつ、
「試合後のケアは俺がしっかりとします。全力で戦って、勝って来てください」
生徒達にそう言って送り出す。
生徒達は各々返事をすると、試合会場の練習場へと向かって行った。
生徒が全員行くと、最後にリーゼロッテ先生がやって来て、
「どうだったでしょうか、他のクラスは?」
そう聞いてきた。
その表情は戦場に向かった生徒達を心配している表情だ。
俺はそんな彼女に、
「心配なのは分かります。…でも、彼らは貴女の教え子ですよ。信じて待ちましょう」
そう言って試合が見える位置に移動を開始する。
すると、
「そうですよね。私が、皆さんの勝利を信じないと」
後ろでリーゼロッテ先生の呟きが聞こえて、すぐに俺の後ろに付いて来る。
さて、どこまで属性魔法を抑えて戦えるかな?
俺はそう思いながら、試合がしっかりと見える場所に立つ。
その隣にリーゼロッテ先生も立ち、真っ直ぐと生徒達の事を見る。
そして、
ゴォォォォンッッ!!
強い鐘の音が響いた瞬間、
「アースウォールッッ!!!」
最初に予定した通り、B組の攻撃を防ぐ壁をすぐに作り出すアンスガー君。
彼が一番土魔法のアースウォールを作るのが上手いからな。
俺がそう思っている内に、激しい衝突音と衝撃が伝わって来る。
やはり、一撃で決めようと一気に魔法を放ってきたな。
俺はそう思いつつ、教え子達の晴れ舞台をしっかり見ようと意識を戦いに集中させる。
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