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セシリアの悲しい報告の翌日、遂にクラス対抗戦の日になった。

俺も今日は早めに起きて、遅れない様にしようと思い朝にシェーファに起こしてくれる様にお願いしておいて正解だった。

寝起きにシェーファの顔を見れたのも、運が良いのかもしれないな。

そんなシェーファ含め塔の皆に聞かれたら幻滅されそうな事を考えつつ支度を終わらせ、俺は自室を出て食堂に向かった。

まだ朝早いせいか人はおらず、先に起きているセシリアとシェーファが優雅にお茶をしているのが見える。

だがセシリアが俺に気が付くと、手に持っていたカップを受け皿の上に乗せて立ち上がり俺に頭を下げる。

シェーファもセシリアの視線で俺に気づき、セシリアと同じように頭を下げてきた。

俺はそんな2人に手で合図を送り、食事を取るために厨房に繋がっているカウンターへ行き、まだ出来て間もない朝食を持ち近くの席に座る。

朝食は洋食風で、卵をスクランブルエッグ状に焼いたものと何の肉かはわからないがソーセージとベーコンが焼かれた物、それにパンだ。

俺はそれを1人で黙々と食べて、すぐに平らげて食器を片付ける。

さてと、準備はできてるしお腹もいっぱいだし忘れ物とか大丈夫だよな?

俺はそう思いながら荷物を最終チェックした後、


「帰還」


外の世界へ戻ってきた。

さて、早めに魔法学院に行って生徒達の顔を見に行こう。

俺がそう思って人気が少ない裏通りから賑わっている表通りに歩き出すと、


「おぉ…」


いつもより賑わっている様々な人達が見えた。

店の人達もいつもより声を出して客引きをしていて、今日は生徒だけでは無く大人も大勢見える。

その傍に制服を着た生徒がいるという事は、クラス対抗戦を観戦しに来た親なのだろう。

元の世界で言うところの運動会とか授業参観みたいなものなのかな。

俺がそう思って歩いていると、


「あ、ヴァルダ先生。おはようございます」


ブノア君が俺に気が付いて挨拶をしてくれる。


「おはようございますブノア君。…今日はいつもより賑わっていますね」


俺がそう言って少し周りに視線を送ると、ブノア君は少し笑ってから、


「それはそうですよ。魔法学院のクラス対抗戦は、様々な意味があるんです。単純な魔法の技術のお披露目もありますが、権力がある貴族の方達との交流もできますから、ご子息ご息女の婚約者を見定める事もあるって聞きますからね。今日は帝都から騎士団の上層の方達も来ていますから、生徒達も騎士団などの将来が安定している所に勤めたいので、生徒達もいつもより本気です。あ、あと魔法を教えた先生の評価も上がるので、先生達もより一層熱が入りますからね」


そう説明をしてくれる。

なるほど、だから魔法学院にいた時に遠目から見えた先生らしき人達は、クラス対抗戦に近づくにつれて顔が怖くなっていったのか。

俺がそう思っていると、


「先生とは、このクラス対抗戦が終わったらお別れなんですか?」


彼が俺の事を見ながらそう聞いてきた。

俺はその言葉を聞いて、


「そうですね。リーゼロッテ先生との約束は、今日のクラス対抗戦で君達を優勝させる事ですから。その後は帝都に戻る予定です」


そう答える。

そういえば、もう帝都を飛び出して二週間は経過しているのか。

ブルクハルトさん達は大丈夫だったろうか?

エルヴァンとアンリは怪我などをしていないだろうか?

俺がそう思って心配をしていると、


「…帝都はあまり良い話を聞きませんけど、本当なんですか?」


ブノア君がそう聞いてくる。

俺はその言葉を聞き、


「ブノア君が普段、帝都についてどんな話を聞いているのか分かりませんが、あながち間違ってはいないですね」


俺はそう答えるしかなかった。


「そんな所に行って、先生は何がしたいんですか?」


俺の答えに、更にそう聞いてくるブノア君。

俺はその問いに、


「困っている人を、助けたいと思っている」


すぐに答えた。

だが、自分で言っていて少し違和感を感じた。

…困っている人を助けたいのでは、おそらく無いんだろうな。

もっと俺個人の我儘で、自由に何かをしたいと思っているんだろう。

それに単純に金が欲しいという理由もある。

だから、こんな違和感を感じるんだ。

俺がそう思っていると、


「…だから、僕達の事も助けてくれたんですね。ありがとうございます、ヴァルダ先生」


ブノア君が俺にお礼の言葉を言ってくる。

俺はその言葉に、短く返事をした。

ブノア君と魔法学院にやって来るといつもは無い馬車が見えて、そこから身なりが綺麗な大人が出てくる。

それも1つや2つでは無く、帝都の大通りを通っていたぐらいの量の馬車が並んでいる。

魔法学院に通っている生徒の親族なのだろう。

俺がそう思っていると、


「あぁもう!何でお父さんもお母さんも来るのよぉ!」


何やら怒っている様な声が、とても良く聞く声が聞こえてきた……。


「何でってそれは、可愛い娘の晴れ舞台だからなぁ!なぁ母さん」

「そうねお父さん。リーゼロッテは、何をそんなに怒っているのかしら?」

「私の晴れ舞台じゃなくて、私の教え子達の晴れ舞台なのッ!!」


あぁ、やはりそうだよね…。

声でよく分かるもん…。

俺がそう思っていると、


「何か、あれを見たら緊張が解れた気がします…」


ブノア君が、気まずそうというか何とも言えない表情で俺の事を見てきた。

…ブノア君の言いたい事も、凄く分かってしまう。

穏やかに笑っておられるご両親と、そのご両親に手をブンブン振りながら怒るリーゼロッテ先生。


「ブノア君と同じ様に、他の皆さんもあの光景を見て緊張が解れてくれる様に、そっとしておきましょう」


俺がそう言って歩き始めると、


「先生、完全に見なかった事にするつもりですよね」


ブノア君がそんな事を言ってくる…。


「そんな事ないですよ。えぇ、全然面倒そうだとか思っていないです」


俺は少し離れた後ろから聞こえてくるリーゼロッテ先生の怒った声を聞きながら、ブノア君にそう言って旧校舎を目指した。

その後、旧校舎に集まってくる生徒皆の表情が、苦笑いというか頬が引き攣った表情をしていたのを見て、皆があの光景を見てきたのを察した。


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