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僅かに動いている草原島の上を歩いているルミルフル達は、特に足元の違和感などは無く普通に歩けている。
前を見ると、セシリアが時々ルミルフル達を気にしながらも、どんどん先に進んでいく。
サール達は草原島に生えている草が珍しいのか、下を見てはしゃぎながらも歩みを進めている。
ヴィアンは少し怯えてはいるものの、それは浮いている島の上を歩いている恐怖心で怯えているだけだろうとルミルフルは判断する。
そうして歩いて行くと、少し先にボロボロの家とそれより少し小さい普通の家が見えてくる。
その近くには、先程会ったクラーラとイルゼが誰かと座って話している姿が見える。
歩いて近づいて行くと、彼女達が真剣な表情で話しているのが窺える。
腹を割って話す様に言ったけど、すぐに実行するなんてね。
よほど相手の事を信頼していないと、中々出来る事じゃないわ。
ルミルフルがそう思っていると、
「バルドゥ、いますか?」
やや小さい普通の家の扉の前で、セシリアが家の中にいるであろう者に声を掛ける。
すると、
「す、少し待っていて下さい!今油で汚れていますので、それを落としてからいきます!」
中から慌てた声と共に、金属のぶつかる音と何やら片づけをしている物音が聞こえてくる。
やがて音が鳴り止むと、
「お待たせしましたセシリア様。…そちらの方達は?」
バルドゥが家の中から扉を開けて外に顔を出すと、セシリアの後ろにいるルミルフル達に気が付いてそうセシリアに問う。
そう聞かれたセシリアは、
「こちらはルミルフルさんと子供達です………。そういえば、この子達のお名前はどうされました?」
バルドゥの質問に答えようとして、子供達の名前が決まっているのかルミルフルに質問をした。
それを聞いたルミルフルは、セシリアの言葉を聞いてサール達を自分の前に来るように指示を出す。
指示を聞いたサール達はセシリアとバルドゥの前に並ぶと、
「ほら、自己紹介しなさい」
ルミルフルがサール達にそう言う。
「サール!」
「ソルです!」
「ヴィアンシエル…です。ヴィアン…と呼んで欲しいです」
ルミルフルに促されて3人が順番に自己紹介をする。
そんな微笑ましい光景を見ていたセシリアとバルドゥは、子供達の様子を優しい目を向けた後、
「私はセシリアです。この塔の管理と維持、それと家事などをしています。何か困り事がありましたら、お声を掛けて下さい」
「私はバルドゥと言います。種族はゴブリンですけど、襲う事は無いので安心して下さい。この草原島で生活しています。今はあちらの女性達のサポートをしています」
セシリアは優雅に頭を下げて自己紹介をし、バルドゥは紳士の様にあまり動き過ぎない様に自己紹介をした。
その様子を少し驚いた様子で見ているルミルフル。
その視線に気がついたバルドゥは、少し苦笑をした後に、
「意外に思いますよね。ゴブリンとは普通、人を襲い殺し略奪するのが多いです。ですが本当に人を襲うつもりは無いので、安心して気軽に挨拶などをしてくれたら嬉しいです」
そう言う。
それを聞いたルミルフルは、
「ご、ごめんなさい。まさか世間一般ではモンスターであるゴブリンと、ここまでしっかりと話しが出来るとは思っていなくて。ゴブリンとか人の言葉を話す事が出来るのは知ってるけど、まさか好意的な言葉がゴブリンから聞けるなんて思っていなくて」
バルドゥに向かって頭を下げて謝罪をする。
それを聞いたバルドゥは、
「頭を上げて下さい。そう言われるのは当然ですから、ただこの塔にいる者達は皆良い人達なので、彼らには普通に反応してあげてください」
そう言ってルミルフルにお願いをする。
それを聞いたルミルフルは、えぇと返事をしながら頭を上げる。
すると、
「腕に自信があるルミルフルさんですが、おそらくバルドゥと戦うと良い勝負になるんではないでしょうか?」
セシリアが挑発する様にそう言った。
セシリアの言葉を聞いたバルドゥはマズいと察し、
「そ、そんな事ないですよ!私なんて普通のモンスターですから!噂では、エルヴァン様と戦い素晴らしい剣技を披露したと聞きました。そんな方と私が良い勝負になんかなりませんよ!」
慌ててそう言い、ルミルフルの意思を戦いから外そうと試みる。
だがバルドゥの努力空しく、
「それは、いったいどういう事でしょうかぁ?」
ルミルフルは笑顔でセシリアとバルドゥを見る。
自分の事を見てくる瞳が笑っていない事に気がつく。
すると、
「お姉ちゃんが強いに決まってるよ!」
「強いです!」
サールとソルが、ルミルフルの方が強いと抗議の言葉をセシリアに言う。
それを聞いたルミルフルは怒気を和らげ、それを見ていたバルドゥとヴィアンは静かに安堵の息を吐く。
サールとソルに詰め寄られているセシリアは、ふふっと笑った後、
「そうですね。ルミルフルさんの方が強いですね。私が間違っていました。ごめんね」
サールとソルにそう謝罪をする。
その言葉を聞いたサールとソルは、満足そうな顔をしてセシリアの言葉を受け入れる。
2人のそんな姿を見たルミルフルは、彼女達の期待に応えられる様にしようと心に誓う。
そうしてバルドゥに挨拶をしたルミルフル達が次に向かった場所は、
「おやセシリア、どうしたのだ?お前がわざわざ歩いてここまで来るなんて珍しい」
ケンタウロスのアレクシアの場所だった。
いつも突然現れるセシリアが珍しくゆっくりと歩いて来る事に驚いてそう声を掛けると、
「今日はこちらの方達を紹介する為に来たんです。それと、私が普段歩いていない様な事を言うのは止めて下さい」
セシリアは心外ですと言いたい様な声を出す。
それを聞いたアレクシアは、
「おぉ?小さい子供じゃないか」
セシリアの後ろにいたサール達に気がつくと、鍛えてあるのだが細く美しい脚を曲げて地に下半身のお腹を当てて背を低くすると、
「……おぉ~!可愛らしい顔をしているな」
サール達の顔を見て嬉しそうな声を出す。
そんなアレクシアを見てサールが一言、
「おっきい!」
そう言い放った。
どこがとは…言ってはいない。
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