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アンリに促されるまま、エルヴァンは歓声が聞こえてくる方角に向かって歩みを進める。
やがて見えてきたのは、横幅は広く見える建物だった。
高さは冒険者ギルドの方が上か。
エルヴァンはそう思っていると、建物の中から歓声が響き渡り外まで聞こえてくる。
「闘技場と言ったが、どのような物なのだ?」
エルヴァンがアンリにそう聞くと、アンリは建物の中から聞こえてきた歓声に驚いた表情をしたまま、
「何でも、捕まえてきたモンスターや奴隷、モンスター同士、奴隷同士で戦わせる場所らしいです。観客もいる様で、この歓声は客の声でしょう」
エルヴァンの質問に、自身が少し聞いて回り調べた事をエルヴァンに伝える。
アンリの言葉を聞いたエルヴァンは、その言葉を聞いて改めて建物を見る。
そして、
「少し見てみても良いだろうか?」
アンリにそう聞いていた。
自身の技術を高める事を目的としているエルヴァンは、戦いが行われている闘技場に入ってみたくなった。
エルヴァンがそう思っていると、アンリは少し嫌そうな顔をしつつも、
「少しだけですよ?僕的にはあまり抉られるとか引き千切られるのとか好きじゃないんですから」
エルヴァンの要求を飲む。
そんな2人が闘技場に入ると、観客の歓声でがうるさくてアンリは耳を塞ぐ。
エルヴァンは特に気にする様子は無く、黙々と歩き続ける。
そうして闘技場の廊下をくぐり抜けた先にあった光景は、円形に掘られた闘技場の姿だった。
地上から階段状に地下に掘ってある闘技場は、エルヴァンとアンリがいる階層が最上階であり、目を凝らせば闘技場の全貌が見渡す事が出来る。
そして最下層では、数人の人族がモンスターと戦っている姿がぼんやりと見える。
そして観客達は、階段状に掘られた地面に木材が敷かれており、簡易的なソファーに座って下の戦いを見ている。
モンスターと人との戦いに、その一挙手一投足に歓声を上げる。
その歓声に、アンリは顔を顰めて耳を塞ぐ手の力を強める。
エルヴァンは少し頭を動かして周りを見ると、空いているスペースを見つけるとそこへ向かう。
アンリもエルヴァンに付いて行き、エルヴァンが席に座るとその隣に座る。
エルヴァンは闘技場の最下層で戦っている者達を見て、アンリも耳は塞ぎながらもエルヴァンと同じ様に最下層の者達を見る。
「…モンスターとの戦い方があまりにも逃げ腰だ。武器は持っているが、どれも粗悪な物を使っているな」
エルヴァンがそんな感想を漏らすと、
「そ、そうですね。錆がありますし、刃こぼれも酷いです」
アンリが目を凝らしながらそう言う。
アンリはそう言いながら、隣に座っているエルヴァンに目を向ける。
そこには、最下層で戦いを繰り広げている人とモンスターを見つめている。
だが兜の隙間から見えるその目は、時間が過ぎて行く毎にワクワクした様な目からつまらなそうな眼に変わっていくのが見える。
少しすると、
「行こう」
エルヴァンはスッと立ち上がり、アンリにそう言ってからすぐに歩き始める。
アンリはこうなるだろうなと、少し予想していたお陰ですぐにエルヴァンの後ろを付いて歩き、2人は未だに響いている歓声から逃げる様に闘技場を後にした。
エルヴァンとアンリは互いに一言も話さず、黙々と街を歩き続ける。
やがて闘技場の歓声も聞こえなくなる程遠くまで来ると、
「すまないアンリ。私の我儘で入ってすぐに出てきてしまって」
エルヴァンはアンリに謝罪の言葉を口にする。
アンリはエルヴァンの謝罪の言葉を聞き、
「大丈夫ですよエルヴァン様。闘技場の様子を見て、エルヴァン様の期待していたものを見れた訳では無いのは、すぐに分かりましたから」
アンリはすでに見抜いていたエルヴァンの心情を気遣いそう答える。
そんな言葉を聞いたエルヴァンは、再度お礼の言葉を言う。
すると、
「あそこの者達は、人やモンスターが傷つく事を楽しんでいる。…純粋な戦いをする為に武器をあえてあまり良いものでは無い物を使っていると思っていたが、あれはそんなモノでは無かった」
エルヴァンがそう言う。
その言葉には、残念な気持ちが凄く込められている。
アンリはそんな残念そうなエルヴァンを見て、
「そうですね。確かに闘技場での戦いはエルヴァン様が求めている様なモノではありませんでした。でも、あそこだけが全てじゃないですよ!もっともっと色々な国に行けば、エルヴァン様が求めている純粋な力と技の戦いを出来る場所があると、僕は思います!」
励ましの言葉をエルヴァンの贈る。
アンリの言葉を聞いたエルヴァンは、
「そうだな」
一言呟くと、
「剣を、振るいたい」
純粋に、今したい事をアンリに伝える。
それを聞いたアンリは、
「じゃあ冒険者ギルドに行って、何か手頃の依頼が新しく入って来ているか確認しに行きましょう!」
エルヴァンの願いを叶えるためにそう言うと、少し早歩きになる。
そんなアンリを追う様にエルヴァンも歩みを少しだけ早め、街を歩いて行く。
そうして冒険者ギルドに到着した2人は、いつもの様に中に入ると周りの冒険者の視線などを気にせずに、受付へと歩く。
普通の冒険者ならば、依頼の紙が張り出されている掲示板に向かうのだが、文字が読めない2人は直接受付に行き依頼を受ける事しか出来ない。
短い期間ではあるが帝都の冒険者ギルドで受付をしている者達も、2人がそうする事は分かっているので注意する事も無く、また第一級冒険者に注意をして反感を買わない様に細心の注意を払いつつ、
「こんにちはエルヴァンさん、アンリさん」
ハキハキとそう挨拶をする。
「こんにちは!今日は来ない予定だったんですけど、気分が変わったので依頼を受けに来ました。何か僕達に出来る依頼は入っていますか?」
そんな受付嬢に、アンリは笑顔で挨拶をした後に用件を伝える。
アンリの言葉を聞いた受付嬢は、カウンターの上に綺麗にまとめて置かれている依頼書を手に取ると、依頼を探し始める。
少し時間が経過し難しそうな顔をした受付嬢が、
「ジーグへの、内偵依頼がありますけど…。どうしますか?」
アンリとエルヴァンを見ながらそう質問をした。
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