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エルヴァンとアンリが食事をすると、2人で帝都の街を散策し始める。
エルヴァンは特に見たいものや気になるものがないらしく普通に歩いているが、アンリはその反対に様々なものに興味を示し、何度も歩みを止める。
そんなアンリに声を掛ける事はせず、ただ黙って彼の様子を見ているエルヴァン。
傍から見たらアンリははしゃいでいる子供で、それを見守る父親がエルヴァンに見えるだろう。
しかし実際は、アンリの方が年上ではある。
成長が止まってしまっているアンリは、歳を取る事が無く精神的にも見た目通りの年齢だ。
エルヴァンは年下ではあるものの、基本的には言葉ではなく戦いという剣での会話をするタイプな故、あまりお喋りという訳では無い。
「エルヴァン様、このお店は面白そうですよ!」
ちなみに年上のアンリがエルヴァンの事を様付けで呼ぶ理由は、アンリがエルヴァンの事を尊敬し目標としているからだ。
「…私は別に気になりはしないのだが…」
アンリの言葉にエルヴァンがそう呟きつつ、アンリの元へと行ってみると、そのお店は特に看板がある訳でも無く知らない者からしたら民家に見えてしまう。
エルヴァンが手を振っているアンリに近づいてみると、窓から少しだけ中の様子が見える。
棚が何個も置かれており、棚には薬品の様な物がビッシリと隙間が無い様に置かれている。
エルヴァンはそんな店内を見ても、やはり興味が引かれる訳では無い。
すると、
「このお店、見た事が無い物も沢山ありますよ!…ヴァルダ様にお渡しすれば、何かの役に立てるかもしれません」
「それは重要な事だ。入ろう」
アンリが後半の言葉をエルヴァンに言った瞬間、エルヴァンは今までのどうでも良さそうな態度から一変し、店の扉を開いて中へと入って行く。
店内に入ると、少し薬品の混ざった匂いがするのに気がつくアンリとエルヴァン。
甘い匂いと刺激臭が混じり、思わず顔を顰めてしまう。
すると、
「いらっしゃい。…おや?最近この街に来た者達じゃないかい」
店の奥から腰が曲がった年老いた女性が出てきて、エルヴァンとアンリを見てそう言う。
「お婆さん、僕達の事知ってるの?」
アンリがお婆さんに首を傾げながらそう問うと、お婆さんはヒッヒッヒと笑い、
「この歳にもなれば、色々と情報通になったりするんだよ。店に来る客から、隣の店の者まで色んな者達が話してくれるのさ」
そう言って近くに置いてあった杖を持つと、
「それにあんた達2人は特徴的だからねぇ。可愛い女の子を連れている手練れの鎧男。人が多く出入りも激しい帝都でも、中々見ない組み合わせさ。女の子が奴隷なら何人かいると思うがねぇ」
エルヴァンとアンリを杖で指差しながらそう言う。
エルヴァンはその言葉に少しため息を吐き、
「アンリは大切な家族であり仲間だ。奴隷では無い」
そうお婆さんに言うと、
「気分を害したなら謝るよ」
そう言って軽く頭を下げる。
すると、
「あ、あのエルヴァン様?今の言葉も嬉しいのですが、まず僕の性別の訂正をして欲しかったのですが…」
アンリが顔を少し引き攣らせながら、エルヴァンにツッコミを入れる。
だがそんなツッコミを受けたエルヴァン本人は、
「些細な事だ」
と言い、特に気にした様子はない。
そんなエルヴァンの様子に、アンリはショックを受けた様に肩を落とす。
アンリのそんな様子を見て、エルヴァンは昨日の夕食時に見た周りの反応から、彼が女の子と周りの皆から思われているのは明白だと考える。
いつかしっかりと訂正出来る日が来ればいいが…。
エルヴァンがそう思っていると、
「そんな華奢な体に顔をして、男だって言うのかい?」
店のお婆さんがアンリを見ながらそう声を出す。
その声に反応したアンリは、
「そうですそうです!僕もいつかエルヴァン様の様な男の中の男になるのが目標なんです!」
お婆さんに詰め寄り興奮した様にそう言う。
あまりのアンリの勢いに、お婆さんは少し身を引きながら、
「いや、あんたはその恰好の方が良いんじゃないかい?心持ちを目指すのは良いけど、その顔に鎧男の体を想像したら、何か違うモンスターなんかと勘違いされそうだね」
アンリの顔をした体はエルヴァンの姿を想像してしまい、思わず言葉を漏らす。
お婆さんの言葉を聞いたエルヴァンも、アンリのそんな姿を想像して頭がずれそうになる。
想像してはいけないものだった様だ、それにヴァルダ様もそんなアンリの姿を見たいとは思わないだろう。
後で遠回しに今のままで良いのではないかと聞いてみようと思うエルヴァンだった。
そんな世間話も程々にエルヴァンとアンリは、お婆さんから離れて店に置かれている商品を見ていく。
どの薬品も見た事が無く、ヴァルダから受け取った回復薬などとは似ていない。
瓶は普通の形に何も装飾されておらず、中身の薬品が良く見えるようになっている。
だがエルヴァンとアンリはどの薬品を見ても何に使うのか、どのような効果があるのかが全く分からない。
2人が唸って薬品の棚を睨んでいると、
「別に毒なんか入っちゃいないよ」
店のカウンターで座っているお婆さんが、自身が売っている薬品を睨み付けている2人にそう声を掛けた。
「いやその事を気にしているのでは無い。どのような効果があるのか知りたいだけだ」
エルヴァンが棚から目を離してお婆さんにそう言うと、
「今あんた達が見ていたのは、匂い消しだよ。モンスター達は嗅覚が鋭いからね。不意を狙うなら自分たちの匂いを消しておかないとね」
お婆さんがそう説明をする。
その後、エルヴァン達はお婆さんの説明を聞き塔では無かった薬品を数点買い今度ヴァルダに出会った時に資料として渡そうと考えつつ買い物を終了し、店を出て街の散策に戻る。
街を歩いていると、エルヴァンは裏路地から表通りをこっそりと覗いている視線に気が付く。
しかしそこに敵意がない事を察すると、特に気にすることなくパタパタ走っているアンリの後を追いかける。
すると、エルヴァンの視界の端に気になる物が見えた。
自身が背負っている大剣と同じサイズの、並べられた装備が置かれている店が見えたのだ。
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