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青年の言葉を聞いて、俺はゲームとは違う厳しい現実を感じる。
装備が買えない。
「UFO」ではお金なんてモンスター狩りをしたらすぐに貯まると思うんだが…。
俺がそう思っていると、
「なにしろここは田舎なので、物の売買もあまりしないんですよ。村でも物々交換が基本ですからね」
青年が笑ってそう言う。
それでも、青年と門番をしていた男性の言い方だと、野盗や強盗が襲撃してきてもおかしくない事を言っていた。
そんな状況でも武器を買えないのは、そこまで貧困に悩んでいるのだろうか?
見た感じ、服などは普通だし警戒しているのか、俺の事をじっと見ている村の人達も食べる事に困ってはいなそうに見える。
俺がそう思って村を見渡していると、
「あ、ドニー!悪いけど見張りを少しだけ交代してくれ!」
青年が少し遠い位置にいる男性に声を掛ける。
見た感じは少し年上と言う感じだ。
「何で俺がそんな事しねえと行けねえんだよ!昨日もやったぞゴラァ!」
男性は気が荒いのか、声を張り上げて青年に返事をする。
「悪い!村長にお客なんだ!後で酒を出すからさ!」
青年がそう言うと、男性はチッと舌打ちをして俺達が来た道を歩いていく。
「…俺を案内してくれるためにわざわざすみません」
俺が謝罪をすると、青年は少し笑って、
「いやいや、あいつは気が短い方なんですけど、悪い奴じゃないんですよ」
そう言ってくる。
そうして青年と歩いていると、今まで見てきた家よりも少し大きい家の前で止まり、
「少し村長に説明してきますので、待ってて下さい」
青年はそう言うと、家の扉を開けて中に入る。
この建物の感じも、ゲームの中では無かった様な…。
俺がそう思って記憶を思い出していると、
「お待たせしました。どうぞ入って下さい」
青年が扉を開けてくれて中へと促してくる。
「失礼する」
俺がそう言って家の中に入ると、少し木と埃の匂いがする。
見ると、テーブルと椅子があり、そこに少し老いている男性と女性が座っている。
村長とその奥さんかな、座り方を見る感じだと。
俺がそう思っていると、
「どうぞお座り下さい」
男性が渋い声でそう言ってくる。
「…失礼します」
俺はそう返事をして椅子に座ると、
「じゃあ村長、俺は仕事に戻ります」
青年はそう言って家から出て行ってしまった。
仕方がない、自己紹介からするか。
青年がいたらある程度の説明をしてくれるかと思ったのだが、帰ってしまったのだから仕方がない。
「はじめまして、私はヴァルダ・ビステルと申します。旅をしており、辺境のド田舎から道に迷ってしまって…。ようやくこちらに辿り着く事が出来ました」
俺がそう挨拶をすると、
「いえいえ、ここも田舎なモノですから…。あまり好転されてはいないと思いますよ」
村長がそう言う。
確かに、ド田舎から田舎に来たってどうなんだ?
俺がそう思っていると、
「申し遅れました。私はブラム村の村長をしています、ベルントと申します。隣にいるのは家内のフリーデです」
村長と隣にいる女性が頭を下げる。
さて、村長ともなると村の人達よりもこの村の外の事を少しでも知っているはずだ。
一応辺境から来たという設定だから、怪しまれない可能性はある。
だが、あまりにも常識的ではない事を言うと危険だ。
…あまりコミュ力無いんだけどな。
俺はそう思いながら、
「色々と聞きたいんですけど…」
そう切り出した。
そうして俺は様々な質問をして、村長はそれに答えてくれた。
たまに村長でも分からない事があったが、それでも情報は無いよりマシだ。
ゲームでも敵の動きや攻撃方法が分からない時は、攻略法を見てしまう。
同じ情報収集だ。
そうして分かった事は、俺にとってある意味では絶望する程の衝撃があった。
この世界は「UFO」と同じ様な状況で、魔王アンシエルが存在していた。
そして魔族の軍団を率いて、戦争を繰り広げていたそうだ。
だがそれも、10年前に全てが終わった。
魔王アンシエルは討伐されて、魔族は捕まったり元魔族領に引き返したという事だ。
魔王アンシエルを倒したのは、傭兵として参加していた強者らしい。
詳しい事は村長も知らないらしい。
魔王アンシエルが死んだという事で戦争は終わったらしいが、そこからは人族の内政が激変した。
何でもそれまで大した事が無い制度だった奴隷制度が、一変して誰もが支配する、される制度に変わったらしい。
税を滞納した者を奴隷に、犯罪をした者を奴隷に、身寄りがない子供でさえ奴隷にする。
そして奴隷は安ければ、それこそ一食代くらいで済んでしまう程安く、消費する物として扱われているらしい。
そして更には、魔王アンシエルを倒したという人族の力を前面に出して、魔族や亜人を支配した。
人では無い魔族と亜人は、国という名の収容させる場所で監視されながら高い税を課せられているらしい。
お金を払う事が出来ない亜人や魔族達は、作り出した物や狩りで仕留めた肉を差し出している。
そして税を払えなかった者は、どうする事も出来ずに奴隷へと堕とさせる。
完全な身分制度が出来上がっている。
種族による身分の制度、人族の中での身分の制度。
どれを聞いても嫌な感情しか生まれない。
田舎の自分達は他種族との交流も無く、あまり奴隷制度に関わっていないから酷くは無いが、王都などの栄えている都では、目を背けたくなる程の酷い有り様らしい。
…人とは自分や周りと違う者を排除しようとする。
昔から知っていた事だ。
自分よりも劣っている存在には、何をしても許される。
優れている自分達が正しいと、誰もが思っている。
俺は村長の言葉を聞きながら、過去にされた暴力などを思い出す。
ここも、そんな世界なんだな。
ここは、俺が仲間と楽しんだ「UFO」の世界とは全く違う、そんな世界だ。
魔王アンシエルが存在していたら、俺は死んでも良いから挑戦してみたかった。
だがその存在はすでに無く、俺はこの世界で何をすればいいのか…。
俺はそう思った瞬間、自分の事を思い出す。
手酷い暴力に、助けを求めた事は何回もあった。
だが助けは無く、辛い思いをした記憶は今でも鮮明に思い出せる。
そして閃く。
俺は今ヴァルダ・ビステルなのだ。
なら、過去の俺と同じ思いをしている者達を、俺が出来るだけ救おうと。
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