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94話

「……冗談だろ、と言いたいところだが……確かに、色々と辻褄は合うな」

「うん。アレーネさんが『量産を前提に作られた生命』なんだとしたら、フェイリンさんの水晶玉で見た『アレーネさんそっくりの死体』はきっと、アレーネさんと同じように作られた誰かだった、って考えられるよね」

「『翼ある者の為の第一協会』の『回収予定』にマスター・アレーネが含まれていた理由は、マスター・アレーネ自身が研究成果であったから、と考えれば、確かに辻褄が合いますね」

「うーん、もしかして、アレーネさんの出身の世界が分からないのって、そこに関係してるのかなー……」

 俺自身、今一つ信じがたい。

 少なくとも今、ディアモニスでは『人工生命』の開発は夢のまた夢、といったところだ。

『人工生命』なんて、SFでしか聞いたことが無い。

 まさかアレーネさんがそんな架空の存在だったなんて、考えづらい。

 だが、辻褄は合う。

 一度そう思ってしまったから、『アレーネさんは人工生命である』という考えから抜け出せなくなってしまっているだけかもしれないが……それでも、これ以上に辻褄が合う説明は、考えつかなかった。




「人工生命、ですか。……一体、どのような技術を用いたのでしょうか。『翼ある者の為の第一協会』がマスター・アレーネをわざわざ探す程ですから、ただのクローンなどではないように思えますが」

「バニエラにもそういうの、無いんですか」

 少々意外に思いつつ、ニーナさんに聞き返す。

「はい。生体部品は工業的に生産が可能ですし、労働力はアンドロイドで事足ります。わざわざ0から『生命』を生み出す意味はありませんので」

 成程、バニエラは確かに、科学力が発達した世界ではあったが……逆に、発達しているからこそ、『人工生命』なんて必要ないのか。

「あー、トラペザリアも似たようなものだな。生体部品は作ってるが、生命のレベルにまで持っていった例は無い。人なんてそこらへんにいくらでも落ちてるから、そいつらを拾ってきて改造した方が安上がりで速いんだ」

 トラペザリアも似たようなものらしい。

 ……バニエラよりも若干、理由が物騒ではあるが。

「ピュライには似た技術がある、かな」

 唯一、ピュライだけがそれに近しい技術を持っていたらしい。

「一応、ピュライには『人工精霊』を生み出す魔法があるんだ。古代魔法で、もうずっと昔に失われた魔法だし、生み出せるのも人間じゃなくて、あくまでも精霊だったけれど……」

「精霊……?」

「えーと、実体があるような、無いような……ちょっと不思議な存在、かな」

 だが、ピュライの技術についても、あくまで『人工精霊』止まりらしい。確かに、『人工生命』をそもそも生み出す必要が無い。(ゴーレムを生み出したり、使い魔を使役したりすればよい、とのこと。)


 ……まあ、つまるところ、技術がずっと進んでいるような世界でも『人工生命』を作るかはまた別の問題、ということなんだろう。

 よくよく考えれば、『人工生命』の価値は、普通の人間と大して変わらないように思える。

「……よく考えたら、けっこー、アレーネちゃんの価値ってわからんわなー……?何?『作った』てことに価値があんの?」

 リディアさんがぼやく通り、どうにも……ただ、『人工生命』を生み出す、ということには、それほど価値が無いように思える。

 少なくとも、ただ量産したいなら、それこそクローンでアレーネさんを増やせばいいのだから、既に目的は達成しているのだろうし……。

「ええと……アレーネさんは、何か、特別、だったのかな……?」

「特別、ねー……うーん、確かにアレーネさん、ちょっと特別な雰囲気だったけどなー、でも、普通の人だったよねー?」

「まあ、それは考えても仕方ないよ。……まだ、足りないパーツが多いから」

 恐らく、まだ何かあるのだろうが……これ以上推測を重ねる意味も無い。

「問題は……もしかしたら、アレーネさんがピュライの滅びの未来に関わってるかもしれない、っていうことだよね」




「『翼ある者の為の第一協会』がピュライを滅ぼすし、『翼ある者の為の第一協会』はアレーネを『生み出し』、『回収』しようとしている。……2つに関係が無いとは言えないな」

「むしろ、アレーネちゃんがこのタイミングで出かけちゃってる事考えたら、関係があるって考えた方がよっぽどふつーでないの?」

 恐らく、これから俺達は、『ピュライを守る』ことと同時に、『アレーネさんを助ける』ことも同時にすることになる。

 それらは『翼ある者の為の第一協会』を通じて繋がっており、恐らく、相互に、或いはどちらか一方が一方に働き合っているものだ。

「……ということは、ピュライにおける『翼ある者の為の第一協会』の支部を確認すべきでしょうか?」

「えー?うーん……あそこ、前に行ったときには、もうもぬけの殻だったよねー?じゃあ、他の所を探した方がいいんじゃないかなー?」

 俺達が追うべきは『翼ある者の為の第一協会』なのだろうが……ピュライの支部は俺達が壊滅させて以来、ずっともぬけの殻であるらしい。それは以前、確認済みだ。

「他の所……あっ、スフィクさん、何か知らない……かな?」

「生憎知らん。私とて、奴らと利害が一致したから組んでいただけだ。信用されていた訳じゃない。他の支部の場所など知る由も無い」

 そして、他の支部についての情報は無い。

「アレーネが居りゃあ、探せるんだけどな……くそ」

「コジーナの支部についても、放りっぱなしだしねー……」

 ……これはもう、ローラー作戦に移行するしかないだろうか。




 その時、何か軽い音が聞こえた。

「んっ?何の音ー?」

 音はカウンターの内側から聞こえた。泉がカウンターの内側に入ってごそごそ、と動くと……。

「あーっ!」

 ぴょこん、と勢いよく泉がカウンターの下から立ち上がった。

「見て!見て!なんか入ってるー!」

 泉の手には、あの黒い箱……アレーネさんからの手紙が入っていた、あの箱があった。

 そして箱の中には、手紙と……銀色に輝く金属でできた、糸巻き……糸を巻き取る為のそれが入っていた。

 アレーネさんのものだ。




「これ、アレーネの糸巻きじゃないか!」

「見覚えがあるよー!アレーネさん、これ使って色々探したりしてたよね!」

 アレーネさんは、糸を使って戦っていたし、糸のようなものを手繰って人や場所を辿ってもいた。

 つまり、この道具を使えば、探し物が可能だ、ということだろう。

 ……それから、アレーネさんは俺達に、不思議な糸を巻き付けた糸巻きを渡している。その糸をもし、アレーネさんもまた持っていたとしたら……。

「手紙の方は……『眞太郎君にあげる』だけ、です、ね……」

「眞太郎に、か。……まあ、妥当だろうなあ。どんな魔道具でも、眞太郎なら使えるだろう?」

 そしてアレーネさんは、俺にこの糸巻きを託してくれた。

 ならば、俺がやるべきことは1つだ。

「この糸巻きを使えば、アレーネさんの居場所が分かると思う」

 アレーネさんがこの糸巻きから繋がる糸を持っていたならば、アレーネさんを探すこともまた、可能なのだろうと思われる。




「これは……異界の魔道具か?」

「うん、ピュライの物ではなさそうだけれど……もしかしたら、この糸巻きが、アレーネさんが『翼ある者の為の第一協会』から奪ったもの、なのかもしれない」

 スフィク氏もペタルも、この糸巻きについての知識は何も持っていなかった。

 よって、当然ながら使い方が分かるわけがない。

「ええー……こう、普通、糸巻きって、糸巻くもんじゃーない?ん?違う?」

「だが、巻く糸が無いな」

 アレーネさんはドーマティオンで、『記憶の残滓』とやらを糸にして糸巻きにひっかけていた気がする。

 だが……あれ、何をどうやって、やっていたんだ?

「……マスター・アレーネは、マニュアルのようなものは同封して下さっていないのですか?」

「……無い、です……」

 ……まるで理屈が分からない!


「と、とにかく弄ってみればいいよ!ね、シンタロー!」

「と、とりあえず明日の朝までには何とかできるようにやってみるよ」

 何はともあれ、これは大きな前進になるだろう。

 アレーネさんを直接見つけることだってできるかもしれないし、『翼ある者の為の第一協会』の支部を見つけることもできるかもしれない。

 まずは、この道具を使えるようにならなければ。

「……ん?どうした?ペタル」

 オルガさんの声にそちらを向くと、ペタルが焦燥とも不安ともつかない表情をしていた。

 俺と目が合ったペタルは、若干気まずげに視線を落とし……もう一度顔を上げる。

 そして。

「アレーネさん……二度と戻らないつもりなんじゃ、ないかな」


 そう言ってペタルは再び、俺の手元へ視線を落とした。

 ……アレーネさんの糸巻き。アラネウムのメンバーの糸が、繋がっているのであろう道具。

 これは……『アラネウム』のリーダーが持つべきものだ。

 そしてそれが、俺に送られてきた。

『貸す』ではなく、『あげる』と、走り書きのメッセージを添えて。

 ……背筋が凍るような感覚を覚えた。


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