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93話

「戻って来い、って言ったって、具体的に私は何をすればいいのかな」

「そんなものは簡単だ。貴様自身が世界の運命を見ればいい」

 スフィク氏の言葉に、ペタルが黙り込んだ。

 ……ペタルは未来、運命を見ることを嫌がってピュライから出てきたはずだ。

 それをしろ、というのは……ペタルにとって、苦痛以外の何物でもないはずだ。

 そういった事情を知っているだけに、俺達は何も言えない。

 確かに、運命を見ることができるのであれば、そうしてもらうのが一番手っ取り早いのだろうが……ペタルが嫌がる事を無理にさせたくはないし、そもそも俺は、『運命』が決定づけられているとはどうにも思えないので納得しがたい部分もある。

「……それに、そうでなくとも貴様らは何か感づいているのだろう?」

 そして、そんな俺達の内心を知ってか知らずか、スフィク氏はそんなことを言ったのだった。




「感づいている?何のことだ」

 オルガさんが敢えて突っぱねるような言い方をしている理由が分かる。

 スフィク氏に安易にこちら側の情報を渡さないように、ということなのだろう。

 ……一応、スフィク氏はアラネウムのドアに選ばれてここに来ている。だが、そもそもドアの不調も考えられるし、やはり一度は敵だった相手を信用しきる気にもなれない。慎重になるに越したことは無いだろう。

「……まあ、私にタダで教える義理は無いだろうな」

 そのあたりはスフィク氏も分かっているのだろう。苦い顔をしながら思案し……そして、やがて1つ頷くと、こう持ち掛けてきた。

「ならば、私も情報を出そう」




「『翼ある者の為の第一協会』と一時組んでいた時に拾った」

 スフィク氏が懐から取り出したのは、一片の紙切れ、だろうか。

「施錠された部屋のドアの隙間に落ちていたものだ」

 促されて俺達はメモを確認する。

 千切れた紙は、そこに書かれていたであろう文字まで一緒に千切り取ってしまったらしい。文章は飛び飛びにしか読み取れなかった。


『先駆けとなるであろう』

『を生み出すことに成功』

『は再現性が得られず、』

『を量産するには至らな』

『の成功例となった人工』

『があったが、第二研究』

『た異界の魔道具を奪い』


『異界にて再発見。機密』

『細を知られないよう、』

『することが望まれる。』

『力が高いため回収の際』

『界にてアレーネと名乗』




「……これは一体……」

「私もこの紙片が破れる前に何が書かれていたのかは知らん。だが、『翼ある者の為の第一協会』が何らかの『兵器』か、それに準ずるものを探していたことは確かだろう」

 兵器、か。確かに、そこも気になる。

 だが、それ以上に俺達が気になるのは、最後の行だ。

「アレーネ、って……アレーネさん、どうしてここに名前が出てきたんだろう?」


 確かに、アレーネさんが『翼ある者の為の第一協会』に『回収予定』とされていたことは確かだ。

 けれど、まさかまたここで名前を見ることになるとは。

「詳しい事情は分からんが……アレーネ、というのは貴様らの仲間だったな?そいつは今、どこに居る」

 スフィク氏の言葉に、何と答えて良いものか、迷う。

 アレーネさんの不在を彼に伝えるべきなのか、それとも、隠すべきなのか。

「皆様。この際、スフィク・アリスエリア様にはこちらの事情をお伝えすべきではないでしょうか」

 迷っていたところ、ニーナさんがそう、提案してきた。

「そうは言ってもな……こいつがスパイの類じゃないっていう保証は無い訳だ。それに、本人にそのつもりが無くても、そう『使われる』ことだってあり得る」

「ええ。その通りです。オルガ様。……しかし、その危険を冒してでも、彼の協力を得るべきであると判断致します」

 オルガさんの意見も、ニーナさんの意見も、どちらにも理がある。

 ……決定打となったのは、ペタルだった。

「皆、話そう。……じゃなきゃ、アレーネさんの情報がこれ以上、手に入る保証が無いから」

 スフィク氏自身が裏切らなくても、利用される可能性は十分にある。

 リスクの大きさは計り知れない。もしかしたら、そのリスクは俺達自身だけでなく、今までかかわった人や……アレーネさんにまで及ぶ可能性だってある。

 だが、それでも俺達はリスクを負って、元々敵だった人から情報を得る。

 それほどまでに、俺達はアレーネさんの情報が欲しい。




「ああ、分かった。話そう。……ま、こいつが無暗に脱走したり連れ去られたりしないように見張っておけばいいだけの話だもんなあ。スパイをやりたくてもできない状況にしてやれば万事解決、ってわけだな!」

 そしてオルガさんもあっさりと折れたところで、ペタルがスフィク氏に近づいて、気合を入れるようにやや大きく息を吸った。

「話はまとまったか?」

「うん、お兄様。……アレーネ、という人は確かに、私達の仲間。アラネウムのリーダー。……アレーネさんは『翼ある者の為の第一協会』に『回収予定』ってされていて……関係あるか分からないけれど、今、不在なんだ。行き先も告げずに、どこかに行っちゃった」




「回収予定、か」

 スフィク氏は思案顔で、椅子の背もたれに体重を預けた。

「……となると、そのアレーネ、とやらが『異界の魔道具』を持って逃げた、と考えられるな」

「ええと……アレーネさんが、『翼ある者の為の第一協会』から魔道具を持って逃げて……『翼ある者の為の第一協会』はその魔道具を回収しようとしてる、っていうことかな」

 あり得ない話ではない。

 アレーネさんはそういえば、不思議な術を使っていた。

 ……よく、糸のようなものを使っていたことを覚えている。

 包帯代わりに使ったり、武器として使ったり、敵の位置を探るために使ったり……。

 様々な用途で使われていたアレが、アレーネさんが持って逃げて、それがもとで『翼ある者の為の第一協会』に狙われることになった魔道具、なのだろうか。




「ちょっと待ちなさいよ、シンタロウ。この分の前半部分は何を言っているの?私にも分かるように説明しなさい」

 ……フェイリンがしばらく紙切れを見つめていたと思ったら、そんなことを言い始めた。そんな無茶な。

 前半部分、というと……再現性が無い、とか、人工、とか、生み出すことに成功……とか、そういう部分である。

 ……確かに、気にはなる。だが、意味を拾おうとしても、とぎれとぎれでよく分からない。

「この文章……残りの部分が気になる、です、ね……」

 紫穂が眉間に皺をよせながら(本当にバニエラのアンドロイド素体は優秀だ)、文章を眺めている。

「とは言ってもなー、これ、残りはもー、推測するっきゃーないんでないの?」

 リディアさんも虫眼鏡で紙片を眺めているが、そこから分かることはとても少ないだろう。

 言う通り、推測するしかない、のだが。




 ……考えてみよう。

『翼ある者の為の第一協会』が『生み出すことに成功』ものが、『異界の魔道具』だったとする。

 すると、『再現性が得られず』『量産するには至らな』いものは当然、『異界の魔道具』ということになるのだが……そうすると、『の成功例となった人工』の部分でどうにもひっかかる。

 素直に素直に考えていけば、『成功例』とは、『生み出すことに成功』したもののことだろう。

 しかし、それは『人工』のなんとやらであり……『異界の魔道具』と、どうにも合致しないように思えるのだ。

 そもそも、『異界の魔道具』を『生み出す』だろうか?

『異界の』ものを『生み出す』?


 そして。

 何よりも、俺達が考えなければならないのは……『翼ある者の為の第一協会』が『回収予定』としていたものが、アレーネさん本人である、ということだ。

 あくまで、アレーネさんだったのだ。魔道具でもない、魔法でもなく……アレーネさん、だったのだ。

 そして何より、『アレーネと名乗』。

 普通に考えれば、『アレーネと名乗る』。或いは、『アレーネと名乗っている』、だろう。

 名乗る、ということは、『アレーネという名前は、アレーネさんの本名ではない』、という事だろうか。

 ……いや。或いは。




「……なあ」

 迷いながら、声を発する。

 思案顔で紙片を覗き込んだり、スフィク氏の様子を窺ったりしていたメンバーとスフィク氏は、皆、俺の方を見た。

 ……口の中が乾くような感覚を覚えつつ、俺は、立ててしまった仮説を口にする。

「『生み出すことに成功』したのは……もしかして、アレーネさん自身のこと、なんじゃないか?」


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