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7話

 ということで、ペタルにペタルが気絶してしまってからの出来事を簡単に説明した。

 つまり、俺がペタルのブローチを使って、この世界に戻ってきた、ということについて。

「うーん……ありえない話じゃ、ない、のかな?」

「そうなのか」

 だが、意外にも、ペタルは不思議そうではあるが、『一応納得はできる』というような顔をしていた。


「基本的に、魔法は素養のある人が修練を積んで使うものだけれど、素質さえあれば、『魔道具』は使えるんだ」

 ペタルは言いながら、ブローチを外して見せてくれた。

「これも『魔道具』の1つ。魔法を自分で編まなくてもいいようにできてるんだ。……というか、『世界渡り』は失われた魔法だから……このブローチみたいに、古代文明の魔道具が無い限り、使えないんだけどね」

 ペタルの説明を要約すると、『魔道具』とは、『魔法を使うために必要な技術をある程度肩代わりしてくれる道具』のようなもの、らしい。

 ただし、あくまで『ある程度』しか肩代わりしてくれない上、魔法の材料……ペタルは『魔力』と言っていたが、それが無いと使う事ができないらしい。

「カップラーメンみたいなものか」

「かっぷ……?ごめん、眞太郎、それ、何?」

 あ、知らないんだ。

 カップラーメンを知らなかったらしいペタルにカップラーメンの説明をすると、ペタルは大きく頷いた。

「うん。そう。そんなかんじだよ!お湯を注ぐだけでできるけれど、お湯が無いと作れない。それから、カップヤキソバみたいに、『湯きり』の技術が必要になるようなものもある。うん、本当にそんなかんじ」

 そんなかんじらしい。


「……ということは、俺は魔道具を使えるんだから、魔法も使えるのか?」

 だが、これにはペタルも首を傾げた。

「どうだろう。こればっかりはやってみないと分からないよ。眞太郎はピュライの人じゃないから、ピュライの魔法を使うのは難しいかも。それから、相性もあるから、全部の魔道具を使える、って訳でもないと思うな」

 ……魔法を使えるかどうかは最初からあまり期待していなかったが、魔道具にも向き不向きがあるのか。

「例えば、私、『たっちぱねる』がうまく使えないんだ」

 ……。

「えっ」

「うん。自分の意思の通りに動かすために、すごく集中しなきゃできない。あと、あんまりパソコンと相性良くないみたいで……しょっちゅう、『ぶるーすくりーん』になっちゃうし、動いてくれないこともあるし……。オルガさんはディアモニスの精密機器はある程度使えるし、ピュライの魔道具も使えるものもあるけれど、当然、使えない物もあるよ」

 もしかして、ピュライの魔道具は、この世界の機械類にあたるんだろうか。

 電気が無いと動かない、というか、なんというか。

 ……そう考えると、分からなくも無い気がしてきた。

「アレーネさんは例外だけど、基本的には、その世界のものはその世界の人しか使えないのが普通なんだ。ピュライの物はピュライの物だから、今回眞太郎が『世界渡り』できたのは結構珍しいと思う」

 そういうものなのか。

 そう考えると……かなり危なかったな。いや、あそこでブローチを使えなかったとしても、時間稼ぎをしてペタルが起きるのを待って、という戦略をとっていたが……結果論だけで言えば、ペタルが目覚めるまでに大分掛かったのだし、俺がピュライの魔道具を使えない体質だったら2人とも死んでいた可能性が高い、か。

 ……うわ、危なかったな、ほんと……。


「じゃあ、俺が他の魔道具を使えるとは限らない、ってことか……」

「うーん、概ねそうだと思っておいた方が安全かもね。下手に使おうとしたら暴発、なんてこともあるし……」

 あるんだ……。

 嫌だな、使おうとした魔道具が爆発、とか。なんか二重の意味で。

「もし、『魔道具』を使えるなら、自分の身を守るくらいできるかもしれない、と思ったんだが、難しいか」

「あ……そう、だよね。うん……」

 ペタルは少し落ち込んだような顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

「うん。そうだね。眞太郎も、何かできた方がいい。……今回の私みたいなことが、オルガさんや泉ちゃんで無いとも限らないし……それに、眞太郎自身の気持ちが、きっと楽になるよね?」


 ペタルがにっこりと笑顔を浮かべてそう言って、俺はそこで、俺の中の感情の1つに気付いた。

 そうか、俺は多分、命の危機が怖いというだけでなく、自分で何もできないのが嫌なんだろうな。

 俺より年下の、俺より小さくて軽い女の子に守られる、というのも、なんとなく頂けない。

 成程、『俺の気持ちが楽になる』。その通りだ。

「任せて、眞太郎。私、魔法使いとしては未熟だけれど……眞太郎が魔道具を使う手伝いは、きっとたくさんできると思うよ」




 それからペタルは、一度自分の部屋に戻る、と言って、俺の部屋を出ていった。

 ちなみに、ペタルの部屋は喫茶アラネウムの隣にあるアパートの一室らしい。このアパートは、アラネウムのメンバーの宿舎として使われているとか。

 このアパートもまたアラネウムと同じように漆喰とレンガの壁に蔦が這うような、古めかしくも落ち着いて小洒落たアパートなのだが、案の定と言うべきか、アパートの所有者はアレーネさんらしい。

 ……アレーネさんから明確に聞いたわけではないが、話の流れから察するに、アレーネさんはこの世界の人間じゃないだろうに、不動産を複数所有している、というわけか。

 ……アレーネさん、何者なんだろう。




「お待たせ、眞太郎!」

 そして、戻ってきたペタルは、1本の長い杖のようなものと1つの箱を持っていた。

 杖の先端には大ぶりな水晶の結晶のようなものが取り付けてあり、もう片側の端からは金属線が伸びて、小さな台座のようなものに繋がっている。

「早速、試してみよう!」

 ペタルが箱のふたを開けると……中から、様々な石が出てきた。

 濁った赤の石、澄んだ青の石、中で稲光のような光が走る石、ピンク色の靄が閉じ込められている石……と、色も質感も様々だったが、それらは全て丸く、同じぐらいのサイズに揃えられていた。

 ……なんとなく、この石を眺めているだけでも楽しい。

「これはなんだ?」

「これはね、魔法使いの卵が自分の性質を知るために使う道具。自分が持っている魔力の質を知ることができるんだ。魔力の質が分かれば、少なくとも『暴発する』ような魔道具は見当がつくようになるはずだから、とりあえずこれで眞太郎の魔力を調べて、それから魔道具で実践してみよう!」

 なるほど、そういうテスターの類の道具なのか。

 魔法の世界の道具は見た目からしてファンタジックで綺麗だな。


「じゃあ、眞太郎はこっちの杖を持っていて。これからこっちの台座に、オノマを乗せていくよ」

「オノマ?」

「ピュライの魔法の構成要素だよ。ピュライの魔法をそれぞれ、極限まで小さく切り分けたもの。簡単な意味、簡単な属性を持つ、純粋な魔法の源なんだ」

 ……元素、みたいなものだろうか。

 ということは、俺はこれから、『相性の悪い元素』を探すわけだな。

 鉄と相性が悪い、とかならまだしも、もし炭素だの酸素だのみたいな、オーソドックスな奴と相性が悪かったら……致命的、なんだろうな。多分。

 まあ、こればかりは祈るしかないか。


「じゃあ、始めるね。最初は『アエル』からかな」

 ペタルは台座の上に、ごく薄い薄緑に透き通った石を置いた。

 すると、俺が持つ杖の先端、大ぶりな水晶の結晶のような透明な石の中に、薄緑の光が灯った。

「あっ、大丈夫みたい」

 ペタルはそれを見て、嬉しそうに顔をほころばせた。

「よかった。『アエル』が大丈夫なら、使える魔道具は結構多くなると思うよ。『アエル』は一番基本的なオノマの1つだから。そんなに強く結びつく訳じゃないみたいだけれど……うん、魔道具を使うだけなら問題なさそうだね」

 おお。

 ……つまり、さっきの元素で言うところの、炭素、とか、酸素、とかか。

 これは嬉しいな。


「じゃあ、次、いこうか。次は……うん、最初の内にやっちゃった方がいいよね。『ピュロ』」

 ペタルは赤く燃え上がるような色の石を台座に乗せた。

 すると今度は、杖の結晶の中に炎がチラチラと灯る。

「わ、すごい、すごいよ眞太郎!『ピュロ』も、魔道具を使うだけなら全然問題ないみたい!」

 2つ目もOKか。

 ということは、少なくとも、『アエル』と『ピュロ』を組み合わせた魔道具なら使える、ということなんだろうな。多分。


「じゃあ、次……うーん、『ピュロ』に適正があったから難しいかもしれないけど。『ヒュドル』」

 次にペタルが取り出したのは、薄青に透き通った石だった。

 ……そして、杖の先端は、内部に少し、水を湧かせた。

「えっ……これも大丈夫、みたい……」

 ……流石にここまで来ると、少し心配になってくる。

 ペタルの話じゃ、ピュライの人間でなければピュライの魔法とは相性があまり良くないんじゃなかったか。

 なのに今のところ、3つともOKみたいだし……この装置が壊れてる、って事は無いよな?




 それから、ペタルはとっかえひっかえ、台座の石を取り換えた。

 しかし、箱の中の石全てを試し終えて……1つも、『駄目なやつ』は無かった。

 つまり、俺はペタルの手持ちの限りにおいては全て、ピュライの魔法と相性が悪くなかった、ということになる。




「すごいね、眞太郎……もしかして眞太郎って、ピュライの人なのかな?」

 ペタルは真剣に悩んでいるようだったが、俺の記憶の限り、俺は生まれてこの方ずっとこの世界に居るから違うと思う。

「でも、よかった。これで眞太郎、ピュライの魔道具ならほとんど全部使えると思う」

「ということは、俺も自分の身くらいは守れるように」

「うん。多分、なると思う。少なくとも、オルガさんや泉ちゃんが助けに行く時間を稼ぐくらいは、絶対にできるよ」

 おおー。

 思わず顔がほころぶ。

 うん、これは素直に嬉しい。

 自分の安全をより強固にできる、ということでも嬉しいし、誰かの手を煩わせなくてもよくなる、ということも嬉しい。

 ……尤も、その『自分の身を守る手段』を手に入れるために、もう少し、ペタルのお世話になりそうだが。




「そういえば眞太郎、今日は暇なのかな」

「ああ、今日は授業も無いし、1日暇だ」

 突然の問いに答えると、ペタルはにっこり笑った。

「じゃあ、これから一緒に魔道具、買いに行こう?」


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