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68話

 墓地は相変わらず、寂しい場所だった。いや、墓地というものがそもそもそういうものなのだろうが。

 朝日に照らされた墓石が白く光り、墓石の後ろに建てられた細い旗が緩やかにたなびく。

 静かで寂しく、そして穏やかな光景でもある。

「さて、こっちだったか?」

「ええ。その灰色の墓石を退かしてみて頂戴」

 だが、穏やかな光景の中で俺達は……。

「……なんか、その……お墓を荒らしてるみたいな気分になる、ね……」

 墓荒らしまがいの事をしていた。

「私は墓荒らしなんてしょっちゅーだしなー、抵抗ないなー」

「探検みたいで面白いよねー!えへへ」

 だが、気まずげなペタルとは対照的に、リディアさんは全く以てけろりとしていたし、泉はむしろわくわくとしている。

「お墓……の下、です、か……?」

 そして殊更に微妙な表情をしているのが、紫穂だ。

 ……まあ、幽霊だからな。

 墓の下に入るっていうのは……ちょっと、複雑な気持ちだろう。

「紫穂、貴方は外で待っていてもいいのよ?」

 だが、アレーネさんが紫穂に声をかけると、紫穂は首を横に振った。

「いいえ……大丈夫、です。私もアラネウムの一員……です」

「そう。……なら、具合が悪くなったらいつでも言って頂戴。無理はしないでね。別行動だって、アラネウムではよくある事なんだから」

 紫穂は既に、アレーネさんから例の糸巻きを受け取っている。

 紫穂自身が拠り所というものを求めている状態だったし、俺達も人員が増えることに異論は無いので、あっさりと紫穂のアラネウム入りは決定した。

 ……まあ、なんというか、紫穂の精神の不安定さを利用してアラネウムに引っ張りこんでしまった感は否めないが。

 だが、紫穂が紫穂の精神状態を落ち着かせてより強靭で穏やかな精神へと作り替えていくために、アラネウムが役に立つならそれはお互いにとって良いことのはずだ。

 ここはWIN-WINの関係だということにしておこう。




「よし、退かしたぞ!」

 ある墓石をオルガさんが退かすと、その下には魔法陣のような模様が描かれた床と壁……広い空間があった。

 ……この墓石、本来は魔法の仕掛けで動かすものだったらしい。だが、オルガさんの物理的な力の前ではこの程度の魔法的セキュリティなど無力である。


「じゃあ、進みましょうか」

 アレーネさんとオルガさんを戦闘に、俺達は墓石の下の空間へと下りていく。

 ひんやりと冷たい空気は、地下であるためか。或いは、魔法的な何かが働いた結果なのだろうか。

「なにもないねー」

「なんもないなー」

 泉とリディアさんが進みながら、そんな感想を漏らす。

 ……確かに、何も無い。

 床と壁と天井があり、それらに模様が描かれているだけだ。

「……おかしいわね。確かに、この辺りの地下から反応があるのだけれど」

 アレーネさんはというと、指先をゆるゆると動かしながら、そう言って眉を潜めている。

「多分、幻影の応用系の魔法と、セキュリティ用の魔法の複合魔法だと思うんだ。……どこかに、魔法を解く鍵があれば、地下への入り口が分かると思うんだけれど……」

 ペタルは、杖を床に刺しながら、そう言って少し困ったような顔をしている。

「地下?……うん、ちょっぴり、下の方から風の匂いがするよ」

 アレーネさんの後ろでは、イゼルが鼻を動かしながら床に顔を近づけている。

「水もあるみたいだねー」

 泉もイゼルの隣に来て、床を眺めている。

「よし、地下だな。任せろ!」

 そしてオルガさんがやってきて、拳を握りしめた。

 ……もう一度になるが。

 オルガさんの物理的な力の前ではこの程度の魔法的セキュリティなど、全くの無力である。




 さて。床に穴が開いた。詳しくは省く。とりあえずぽっかりと、床が抜けた。それだけだ。

「結構深いな」

 穴から下を覗き込むが、暗くて良く見えない。

 つまり、その程度の深さはある、という事になる。

「ちょっと照らしてみるね。エフィス、スタゴナ!」

 ペタルが杖の先を穴の上にかざすと、杖が光り輝き……光は雫となって、穴の中へ滴り落ちた。

 ぽたり、ぽたり、と、光が落ちていく。

「……わー、深いねー……」

 だが、滴り落ちた光は、穴の底へと落ちていき、見えなくなった。

「うーん、もう少し量、増やしてみるね」

 ペタルはそう言うと、杖からより大粒の滴を落としていく。

 ……すると、不思議なことが分かった。


「あれっ、あ、あの、途中で急に光が見えなくなるよ?」

 最初に気付いたのはイゼルだった。

 大粒になったとはいえ、小さな光の雫である。目で追うのも簡単ではないのだが、イゼルはそれでも、『それ』を発見した。

「途中で見えなくなる?どういう事だ?」

「あ、あのね、途中でカーテンの向こう側にいっちゃったみたいに見えなくなるよ。何だろう……」

 イゼルに言われて目を凝らすと、確かに、ある一点で急に光の雫が消えるように見える。

「え、マジで?……あっ、ほんとだったわ」

 遂にはリディアさんがよく分からない謎の発光体を投げ込んだが、それも同様に、途中で見えなくなった。


「多分、幻影系の魔法だと思う。途中に結界が張ってあるんじゃないかな」

 ペタルが簡単に解説してくれたところによると……どうやら、穴はひたすら深いのではなく、深いように見えるのは幻覚によるものだそうだ。

 穴の途中に闇系統の結界を張ることで、真っ暗で底が見えない穴に見せかけているのだとか。

「だから、下にはすぐ、『翼ある者の為の第一協会』が居ると思う。ここから中に入るのは罠にかかるようなものかも」

 ということで、俺達は悩む。

 ……結界が張ってあることで、穴の深さが誤魔化されているだけではなく、『本来あるはずの穴の底が見えない』状態になっている。

 つまり、穴の中……更なる地下に何があるのか、俺達には見えていない、ということだ。

 穴の中に罠が仕掛けてある可能性を考えると、穴の中には入りにくい。

 だが、『翼ある者の為の第一協会』をどうにかしない限り、ドーマティオンがどのように侵略されているのか確認することもできないし、『翼ある者の為の第一協会』がこれから何をしようとしているのかを知る為の手がかりも手に入らない。

 ……なので、俺達は考えた。

 考えに考え……そして、こう結論を出したのだ。

「オルガ、爆撃して頂戴」




「たーまやー」

 リディアさんが気の抜ける声を上げてはしゃいでいるが、行われていることは爆撃である。

 爆撃、である。

「ははは、爆薬積んどいて正解だったな!」

「流石オルガさーん!」

 オルガさんが体内に仕込んでおいた小型ミサイルだの、爆薬の類だのを起爆させつつ、穴の中に放り込んでいく。

 爆音が鈍く聞こえてくる他に、人の慌てる声らしきものが聞こえてきたり、と、かなり騒々しい。

「まるで悪役だよな……」

「まあ……こういう時にこういう手段を選べるのも、アラネウムの強み、だから……」

 俺はペタルと並んで、えげつない行為を眺めていた。

 何故なら他にやることが無かったからである。




「よし!じゃあ、行くか!」

 そして一頻り、爆撃が終わった後。

 輝く笑顔のオルガさんが先導して、俺達は穴の中へと降りていく。

 オルガさんとリディアさんはロープを伝って穴の中へと降りる。泉は小さくなって、リディアさんのポケットの中に潜り込んでいるらしい。

 イゼルは狼の姿になって、そのまま穴の中へ飛び込んでいった。闇の結界の先で臨機応変に体勢を立て直すつもりのようだ。

 ペタルは杖に腰かけながら緩やかに下降。アレーネさんは何故か、体1つで穴に飛び込んだはずなのに、ゆるゆるとした速度で穴の中へと落ちていく。

 俺はジェットパックでホバリングしながらゆっくりと降りていき、そんな俺達の後から、紫穂がふわふわついてきた。

 ……案外、皆、色々なことができるんだよな。

 やり方は違うが、『先の見えない穴の中へ降りる』という目的を達成する手段をそれぞれ持っている、ということになる。

 何だかんだ、全員が全員、そこそこ何でもできるからこその『よろずギルド』なんだろうな。




 そうしてイゼルを筆頭に、オルガさんと泉、リディアさん、と、ハイスピードで穴の中へ降りていったメンバーが結界の向こうへ消えていった。

 種が分かっていても、姿が見えなくなるとなんとなく不安だな。

「……あら?」

 そして、そんな俺の漠然とした不安を煽るように、アレーネさんが声を発した。

「おかしいわね、まさかオルガの爆撃でも……」

 更に不穏な台詞が続き、そして。

「ぴゃーっ!?」

 イゼルの悲鳴が、聞こえた。


「な、なんだこいつらは!」

「きゃああああああああああああ!でたあああああああああ!」

 更に、オルガさんと泉の声が聞こえ……最後に。

「ぎゃあああああああああああああああゾンビいいいいいいい!」

 リディアさんの声が、結界の向こうに何があるかを教えてくれた。

 ……つまるところ、見えない穴の底では、ゾンビが待ち構えている、らしい。


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