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57話

 ……今更、だが。

 俺は今まで、世界渡りした先で、『言語』に不自由したことは無かった。

 異世界でも言葉は通じたし、なんなら、文字を読むことすら、自然に行っていた。

 あまりにも自然に行えていたが為に、全く不思議に思わなかったくらいに。

 これは、『世界渡り』の効果であるらしい。つまり、実は俺は、『世界渡り』するたびに、その都度『作り替えられていた』と。

 ……『世界渡り』は、単に異世界へと移動するだけの魔法ではない。

 移動する時、移動先の世界に術者達を適合させるよう、術者達を『作り替える』。

 それこそが、『世界渡り』の真価なのだという。

 ……そして今。

 俺は、『読めない』文字列を見ていた。

「よめなーい」

 泉にも読めないらしい。

「……あの、なんて書いてあるの?」

 イゼルにも読めないらしい。

「んんー?……なんぞこれ?」

 リディアさんにも読めないらしい。

 つまり、『世界渡り』をしてきた俺達にも読めない文字列、ということになる。

 ……それが何故かは、すぐに分かった。

「ああ、これ、ピュライの古代文字だね」

 ペタルが紙切れを覗き込んで頷いた。

「そっか、ここはグラフィオだから、眞太郎達にはピュライの文字が読めないんだね」

 ……成程。つまり、俺達は『移動した先の異世界の文字』は読めるし、言語も分かるが、『移動した先以外の異世界の文字』は読めないのか。

 言葉については、恐らく共通して理解することができる、のだと思う。そうでなければ、今、ペタルと会話できているのがおかしい。

 だが、文字はそうもいかないのか。

 ……今後、覚えておいた方が良さそうだな。




「ね、ね、リストにはなんて書いてあるのー?」

「世界の名前が書いてあるわね。トラペザリア、ピュライ、グラフィオ。……それから、ドーマティオン、コジーナ、ディオドス、アポテーケ、ソフィタ。……行ったことのない世界の名前も多いわね」

 アレーネさんが読み上げる世界の中で、知っているのは3つだけ。トラペザリアとピュライとグラフィオだ。

 トラペザリアについてはなんとなく分かっていたことだし、グラフィオは現在進行形で解決中だ。

 ピュライについては……そもそも、敵の本拠地というか、出身地なのだから当然か。

「うーんと、ドーマティオン、コジーナ、ディオドス、アポテーケ、ソフィタ?その5つの世界って、行く方法あるの?」

 だが、問題は残り5つだろう。

「うーん……名前しか分からないから、ちょっと難しい、かな。もう少し、世界の情報が分かればなんとかなるかもしれないけれど……あとは、運次第、かも」

「運次第?」

 難しい顔をしているペタルに聞き返すと、ペタルは困ったような笑みを浮かべた。

「その世界からの依頼人が来るのが一番早いよね。『翼ある者の為の第一協会』が侵略しようとしている世界の人なら、それ絡みで困ることもあるかもしれないし、依頼に来てくれる可能性は高いと思うんだ。……勿論、運次第になるし、そもそも、依頼に来なきゃいけないくらい困る事なんて、無い方が良いんだけれど」

 ああ、そういうことか。

 確かに運次第だし……そんなことは、無ければ無い方がいい、かもしれない。

 いや、その世界の住人が気づかない内にその世界が侵略される、というのもかなり怖いが。

「んー?よー分からんけど、それは結構ありそうよねー。なんつったって、私自身!その『翼ある者の為の第一協会』とやらの連中に追っかけられて、あの喫茶店にたどり着いたわけだし!」

 だが、『運次第』についてはリディアさん自身がそう言う通り、そこそこ期待できそうな気がする。

「そうね。『翼ある者の為の第一協会』のアクション次第になるけれど、人が困る段階になれば、必ず、アラネウムに助けを求める人が居るでしょう。……それを待つのが得策かしら」

「或いは私の腕輪でランダムに、あっちへフラフラ、こっちへフラフラってのは」

「危険すぎるよー……」

 ……『運次第』については、リディアさん自身の『世界渡り』に似た効果を持つ腕輪がその通りだ。

 つまり、『行き先を決められない』。

「ところでリディアさんって、行った先の世界が肌に合わなくて大変なことになった事、無いのー?」

「えっ?そんなんなることあるの?」

 ……だが、リディアさんの反応を見、今までのリディアさんの話から推察するに……リディアさんの腕輪、『世界渡り』のように自由に行き先を決められる訳ではないが……リディアさんの肌に合う世界にしか連れて行かないのか、或いは、『作り替える』力が強いのかもしれない。それこそ、肌に合わない世界に合うように『作り替える』程度に。

 ……どちらにせよ、『あっちへフラフラこっちへフラフラ』なんてリスキーすぎるので、リディアさんの腕輪で異世界探索する気にはなれないが。




 それからもアジトの中を探索したのだが、それ以上の収穫は無かった。

 元々、グラフィオへの侵略はほとんど無かったみたいだし、どちらかと言えばグラフィオというよりは、リディアさん並びにリディアさんが持っている道具が目当てだったんだろうな。そう考えればこの収穫ぶりにも納得がいく。




 それから俺達は、リディアさんの自宅へと戻ることにした。

「ただいまー!」

「おお、お帰り!……ってのも変か?まあ、いいか!ははは」

「改造作業は無事、完了致しました。ご確認ください、リディア様」

 リディアさんの自宅では、無事、地下室の改造作業が終わっていた。

「セキュリティ強化の為、物理的な強度を高めました。バニエラのヘクセレイ回路によるシールドを全面に使用しています」

 地下室の壁は、天井と床も含めて、全てが奇妙な回路のような模様に光り輝いていた。

「これにより、物理強度は以前の64倍、魔法強度は16倍になりました。ピュライの刺客からの攻撃にもある程度対応できます。それから、防衛システムとして、オートマティック・レーザーガンを3台導入しています。侵入者に対して3方向から同時発射することで、確実に仕留められるようにプログラミングしました」

 そして、地下室の入り口付近に、目立たないように設置されたレーザーガン。

 物騒だ。物騒である。

「また、地下室の扉の開閉を司る認証システムについても改造させて頂きました。声認証によるパスワード入力と虹彩認証によるロック解除を組み込みましたので、後で登録をお願いします」

 ……なんというか。

 至れり尽くせりすぎて、怖い。

 ニーナさんは説明中、さも当然、とでも言いたげな真顔だし、オルガさんはそんなニーナさんを見てゲラゲラ笑っている。

 ニーナさんは本気、オルガさんはジョークというか悪乗りでこの魔改造を行ったらしい。

 そして、自宅の魔改造っぷりを見たリディアさんもまた、手の込んだ真面目なジョークに大笑いしていた。

「いい!すごくいい!わけわからん具合がすごくいい!無駄なハイスペックっぷり最高!」

 ニーナさんとイゼルは首をかしげ、オルガさんとリディアさんが大笑いし、泉はクスクス笑い、アレーネさんとペタルと俺は苦笑い。

 ……概ね、こんな具合にリディアさんの家の『宝物庫』ならびに『武器庫』、或いは『ガラクタ置き場』の強化は終了したのだった。




「さて。じゃあ、これで依頼は達成、かしらね」

 そして俺達は、リディアさんの依頼を達成したことになる。

 つまり、『妙な連中を何とかしてくれ』という。

 妙な連中もとい、『翼ある者の為の第一協会』のグラフィオ支部を壊滅させたのだから、とりあえずはこれで依頼達成だ。

 だが……リディアさんの身の安全が保障されたわけではない。

『翼ある者の為の第一協会』の残党の大元を叩けた訳ではないから、今後、またリディアさんの持つ道具を狙って誰かが来ないとも限らないのだ。

 これについては……定期的に様子を見に来るしかないだろうか。

 と、そう、思っていたのだが。

「あ、それなんだけども……ね、アレーネさん。私も『アラネウム』のメンバーに入れてもらえんでしょーか」


 リディアさんの申し出に、俺達は顔を見合わせた。

「……『世界渡り』みたいなことをできる人が1人、増える、んだよね」

「道具持ちみたいだから、そっちでも役に立つんじゃないか?」

「あー、もしかしてリディアさん、いろんな世界の道具を使える、って事なんじゃない?そしたら便利だよねー」

「リディア様をお守りするためには、一緒に居て頂いた方が都合が良いのではないでしょうか?」

「わ、また仲間が増えるの?嬉しい……!」

 ……それぞれがそれぞれに、リディアさん加入に賛成のようだった。

 確かに、リディアさんは冒険家を名乗っている訳だし、戦闘力はともかく、その場の判断力や行動力はあるだろう。道具で補えば、戦闘力も備わるはずだ。

「眞太郎、どうかな」

「いいと思う。リディアさんの腕輪は『世界渡り』みたいには使えないみたいだけれど、少なくとも、リディアさんが一緒に居れば、逃げるのには困らなくなる」

 そして何より、『世界渡り』とは違うシステムで異世界間の移動ができる、ということが大きい。

 ピュライの魔法で魔封じされない訳だから、トラペザリアでサイボーグと戦った時のような事があっても、逃げ道を確保することができるだろう。

「……そうね。なら」

 最後にアレーネさんが頷いて、微笑んだ。

「ようこそ、異世界間よろずギルドへ。歓迎するわ、リディア」




 こうしてメンバーが1人増え、俺達は(リディアさんも含めて)アラネウムへと戻ってきた。

 ……のだが。

「そういえば、リディアさんの部屋、どうしよっか?」

「……そうね、そろそろ部屋もいっぱいなのよね」

 こういう問題が、発生してしまったのであった。


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