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56話

 廃坑前で残り5人の術師達を見張りつつ、アレーネさんを待つこと10分。

「お待たせ。じゃあ、次の人、いきましょうか」

 にっこりと微笑みながらアレーネさんが帰ってきた。

 ……あれ?

「あれ、あの、アレーネさん、さっき連れて行った1人は……」

 つまり、アレーネさんが尋問していたはずの1人は、一体。

「……さあ?」

 だが、アレーネさんはそう言って妖しく微笑むばかりであった。




 そのままアレーネさんは、次の1人を連れて廃坑の中へ入っていき、そしてまた10分程度経つと『1人で』帰ってきて……を繰り返した。

 一体、廃坑の中では何が行われているのか。

 考えるのも恐ろしいので考えないことにしよう。恐らく、幸福に生きる為のコツは、不幸の気配に立ち入らない事だ。

 つまり、怖い物には関わらない事、である。




「終わったわよ」

 そしてアレーネさんは戻ってきた。

「案の定、彼ら、『翼ある者の為の第一協会』の残党だったみたいね」

 ……ちなみに、戻ってきたのはアレーネさんだけである。

 6人の術師達は……まだ、廃坑の中、だろうか。

「ええと、ってことは、目的はやっぱり異世界の侵略?」

「そうね。……ただ、元の『翼ある者の為の第一協会』はピュライの発展の為、っていう大義名分を掲げていたけれど、残党にはそれすら残っていないみたいだわ。異世界を侵略して、自分達の利益にしようとしているらしいわよ」

 ペタルとアレーネさんが深刻そうな顔で頷き合った。

 ……そういえば、2人は『翼ある者の為の第一協会』と何かの因縁があるのだったか。

「基地の場所は分かった?」

「いいえ。残念ながら、ピュライではない世界に本部がある、という程度しか分からなかったわ。……グラフィオにあるアジトの位置は分かったけれど、どうも、彼らも末端でしかなかったみたいだから、あまり期待はできないわ」

 流石に、ここですぐ敵の本拠地が分かる程、上手くはいかないか。

 まあ、とりあえず、手掛かりになるかもしれない情報が1つ、手に入ったのだから、そこから芋づるできることを祈ろう。




「ところで、さっきの人達、なんでリディアさんを追っかけてたのかなー?」

「ああ、それなら話は簡単だったわ。『世界渡り』に似た効果を持つ魔道具と……リディア嬢が所持している魔道具の類が欲しかったみたいね。リディア嬢?あなた、すごい効果の道具を持っているんじゃないかしら?」

 アレーネさんが話を振ると、リディアさんは大きく頷いた。

「あー、それなら確かに、最近変なの拾ったわー。えーと……」

 そして、鞄の中をごそごそやり始めた。

「あ、これじゃない。こっちでもない。……あれー?どーこしまったっけ?」

 ぽいぽい、と、鞄の中に入っていたらしい道具の類や、明らかにガラクタだろうと思われるものが放り投げられて、そのあたりに積まれていく。

 ……その内、それらは明らかに鞄の容積よりもおおきく積みあがっていった。

 俺達はその様子を、唖然としながら見ているしかない。

「えーと、これ……あ!あったあっ!これっ!これよ、見て!ね!」

 そしてそんなびっくり映像を横に、リディアさんは何かを俺達の目の前に突きつけた。

「これは……短剣?」

 それは、古びてはいるが、装飾的な鞘に収まったナイフ、のように見える。

 刃渡りは15cm無い程度だろうか。短剣と言うにはかなり小ぶりだ。

「ふっふっふ、これを只の短剣だと思っちゃあ大間違い!……括目せよー!そりゃー!」

 だが、リディアさんが短剣を抜くと。

「きゃっ!?」

「伸びた!伸びた伸びたー!」

 そこには、半透明に光る、実体のない刃が長く伸びていた。その刃渡りは、1mか、その程度。

「勿論切れまっせー、そーれそーれ」

 さらに、リディアさんが実体のない刃を振るうと、近くにあった岩がすぱり、と斬れた。

 断面は滑らかすぎる程に滑らかである。

 ……これは、恐ろしい。

「……ってな具合な代物!やー、なんでも切れるから便利で便利で」

 リディアさんが剣を鞘にしまうと、剣は元通り、全長で20cm強のサイズになってしまった。

 確かに、これは欲しい、かもしれない。

 なんというか、便利である以上に、こう、浪漫が。浪漫が。

「うーん……ピュライの古代の魔道具、かなあ?」

「もしこれの仕組みを解析できたら、強力な武器を量産できるでしょうね」

 成程、これなら確かに、リディアさんが狙われる理由もわかる。


「……?」

 そして、そんな俺達から少し離れて、イゼルがリディアさんの鞄を覗き込んでいた。

「あの、これ、底が見えない……?」

「あっ、イゼルちゃん!駄目駄目!それ、うっかり中に入ると出てこられなくなるからねー!」

 リディアさんの言葉に、イゼルは驚いて、ぴゃっ、と飛びあがるとすぐに鞄から離れた。

「そういえば、すごい鞄だねー……こんなにものが入るんでしょ?」

 そう。さっきの剣で霞んでいたが、この鞄も相当に不思議な代物だ。

 なんといっても、鞄から取り出されたものは、鞄の容積をゆうに超えて余りある。

 しかも、鞄の『底が見えない』上に、『中に入ると出てこられなくなる』。

 ……これは一体、何なんだ?

「この鞄ねー、これも便利よ?なんてったって、物がいっくらでも入る!なのに、軽い!やー、正直、家の中の物も全部この鞄に入れて持ち歩いた方がいいかもなー、とは思ってるんだけど」

 ……ふと、思う。

 人がどこかへ侵略しに行く、となれば、一番のネックは、食料他、侵略者の為の物資の運搬なのではないだろうか。

 運搬、輸送ルートというものが案外馬鹿にならないということは、俺の頭ですらなんとなく想像がつく。

 だが、そこに、『凄まじい容量、かつ、重量は限りなく小さい』という、夢のような鞄があったなら。

 ……さぞ、侵略が、捗るのだろうなあ、と。

 そう、思う訳である。




 誰にも見られない内に、リディアさんの鞄に急いで物を詰め直して、俺達は廃坑前を出発した。

 向かう先は、アレーネさんが手に入れた情報による、『翼ある者の為の第一協会』グラフィオ基地である。


 俺達がたどり着いたのは、『廃墟街』とでもいうべき一画だった。

 錆びたパイプ。崩れた壁。植物に侵食されて割れ砕けた石畳。

 寂れて錆びて、人の気配をほとんど感じない。

 時折、明らかに立て付けの悪そうなドアが開閉する音が聞こえたりしているから、人が全く住んでいない訳ではないのだろうが……人の気配より、静寂が勝る空間であった。

「ここかー……あー、確かに、妙な連中が集まるにはうってつけなカンジよねー」

 そして、俺達の目の前には、パイプに埋もれるようにして存在するドア。

 アレーネさんが術師達から聞き出した情報によれば、ここがグラフィオにおける『翼ある者の為の第一協会』の基地であるらしい。

「……じゃあ、入るよ!」

 俺達は意を決して、建物の中へと突入した。




 ……が。

「あーん、拍子抜けだよー!拍子抜けだよー!私のバイオリンが出番くれって泣いてるよー!」

 泉がそう言う気持ちも分かる。

「誰も居ないね……」

 基地の中には、誰も居なかった。


「もしかしたら、さっきの6人とサイボーグ1人だけでメンバー全員だったのかな?」

「或いは、出かけているだけかもしれないわ。警戒は怠らないでね」

 俺達は人が居ないことを訝りつつも、基地の中を探索し始めた。

 基地の中は、外観から予想できる通りの内装をしていた。

 つまり、生活空間としては居心地が悪いであろう、という程度に荒れている。

 ……だが、人が居たことが分かる程度には、生活の痕跡もまた、残っていた。

 やはりここは本拠地ではなく、一時的な基地、アジト、といった扱いだったのだろう。

 こんな状態だから、手掛かりがあるか、怪しいところだったが。


「……あら」

 だが、数分の後、アレーネさんが感嘆の声を上げた。

「見つかったわ」

 アレーネさんの手には、俺には読めない文字で記された1枚のメモがあった。

「侵略中の世界のリストよ」


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