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55話

 ピュライの魔法のようなものが飛んできた、と思ったら、すぐにそれらは銀光を纏った花弁によって相殺される。

 ペタルが巻き起こした花嵐が一気に視界を奪う中、駆け出したのはイゼルだ。

 狼の姿に転じたイゼルは四肢で地を蹴り、ほんの一呼吸の間に敵の首筋に噛みつき、立て続けに隣の敵に飛びかかって押し倒す。

 ……恐らく、サイボーグ以外はピュライの術師だと考えていいだろう。

 白兵戦が得意な連中には見えない。

「全員寝ちゃえー!」

 ならば早速、とばかりに、泉がバイオリンを奏で始めた。

 緩やかな曲調の旋律が空気に乗って広がっていく……が、サイボーグはおろか、ピュライの術師達も眠らず、攻撃を続けてきた。

「あっもしかして耳栓してるっ!?やだーっ!」

 泉対策をしてきたのだとしたら、あまりにもピンポイントなのだが……耳栓の理由はすぐに分かった。

 ピュライの術師の1人が、爆弾のようなものを取りだして、放った。

 ……途端、頭の中を掻き回されるような、凄まじい音が響く。

「っ!」

 怪音によって動きを止められた俺達に、すかさず魔法が飛んでくる。

 だが。

「るさいうるさいうーるさああああああい!」

 泉の声がやけにクリアに聞こえたな、と思った途端、音は止んでいた。

 見れば、術師が投げた爆弾の周りに、水が纏わりついている。泉が止めてくれたらしい。

「ペタル!こいつら私じゃ駄目!おねがーい!」

「分かった!取り巻きは私に任せて!アンティシアントス、コンファイン!」

 そして泉に代わって、ペタルが魔法を発動させる。

 敵の足下から、1人につき1つずつ、巨大な銀色の花が現れた。

 そしてそれらの花は咲いてすぐ、ぱくり、と花弁を閉じてしまう。花は蕾の中に術師たちを閉じ込めて、そのまま開かなくなった。


 ……その様子を見ていたサイボーグが、俺達に向かってくる。

 途中でイゼルが立ち向かうが、力が圧倒的に違うのだろう。イゼルは弾き飛ばされてしまった。

 弾き飛ばされたイゼルは空中で半回転して体勢を立て直して着地、すぐにサイボーグを追う。

「足止めは任せて頂戴」

 俺達……の後ろに居るリディアさんを狙っているのであろうサイボーグはスピードを緩めずに突っ込んできたが……途中で、見えない糸に絡めとられたように、びたり、と動きを止めた。

 幾ら硬い装甲と高い攻撃力、そして凄まじいスピードを持った相手だとしても、完全に動きが止まってしまえばできることは多い。

 早速、追いついたイゼルがサイボーグの足に噛みついて、正確に装甲と装甲の継ぎ目、関節部分から牙を食いこませる。

 バギリ、ボギリ、と鈍い音を立てて、サイボーグの足は火花を放った。

 それでもイゼルは食いついた脚から離れない。

 ……サイボーグも、食いつかれっぱなしという訳ではなかった。

 動けないながらも抵抗して、右腕に組み込まれた銃から銃弾を立て続けに放った。

 足下に居るイゼルは、格好の的となった訳だが……銃弾はイゼルの直前で、ぽしゃん、と音を立てて止まった。

「はいはーい、ストップストップー!」

 イゼルとサイボーグの間には、薄い水の壁が出来上がっていた。

 水の壁は撃ち込まれた銃弾全ての『流れ』を止めて、宙に縫い留め続けている。

 泉の作った防御壁に守られたイゼルは、そのまま咢に力を込め……遂に、サイボーグの片足を剪断することに成功した。


 片足を失ったサイボーグは、同時にアレーネさんの拘束を抜け出したらしかった。

 その場から動くことは最早諦めたらしかったが、素早く右腕を構えて……。

「リディアさん!」

「ふぇっ!?」

 狙いは勿論、リディアさんだ。

 それは読めていたから、俺はリディアさんを巻き込んで、テレポート。

 サイボーグの背後にテレポートすると同時に、レーザービームが放たれて、さっきまで俺達が居た場所を素通りしていった。

 急に消えた俺達にサイボーグが反応する前に、再びアレーネさんがサイボーグを拘束する。

 イゼルがその場を離脱し、泉が防壁を張る。

 そして俺は拳銃の弾を至近距離からサイボーグの頸椎に撃ちこんだ。




 ガギン、と硬い音が響く。

 俺が撃ちこんだ銃弾がサイボーグの頸椎に飛び込んで、脳に向かって数度、サイボーグの中で跳弾したらしい。

 念のため、もう数発分、ゼロ距離で銃弾を撃ちこんだ。

 尤も、その必要は無かったかもしれない。

 最初の一発で、サイボーグはほぼ戦闘不能になっていたのだから。

「やりました!」

「じゃあ……花、解く、よ!みんな、お願い!3、2、1!」

 サイボーグの機能停止を確認してそう声をかけると、ペタルがピュライの術師たちの拘束を解き、それと同時にがくり、と倒れて膝をついた。消耗の激しい技だったらしい。

 ふわり、と銀色の花が開くのを見て、俺はすかさず、一番近くに居た術師のこめかみに銃口を突きつけた。

「動くな。杖を捨てて、ゆっくり両手を挙げろ」

 解放された直後、命を盾に取られた術師は、びくり、と体を強張らせながらも恐る恐る杖を地面に捨て、両手を挙げた。

 ……横目で見れば、アレーネさんは細身のナイフを突きつけて術師をハンズアップさせ、イゼルはさっさと術師に飛びかかって気絶させてしまったらしい。泉はというと、金魚鉢を逆さにしたような水玉を術師の頭に被せて、溺れさせている。えげつない。

 そして。

「ははははは!形勢逆転!どーんなもんじゃーっ!」

 気づけば、リディアさんもいつの間にか戦闘に参加していた。

 リディアさんは大ぶりな銃をごりごりと術師の頭に押し付けながら、実に嬉しそうに笑っていた。

 ……肝が据わっているというか、何と言うか。




 リディアさんの肝はさておき、俺達は1人ずつ、ピュライの術師たちを拘束していった。

 さっさと担当した術師を気絶させてしまったイゼルが全員の間を回って、杖を没収し、魔道具を没収し、手足をロープで固く縛って地面に転がしていく。

 そうして全ての術師を完全に拘束し終えて、俺達は一息ついた。

「やっぱり人数が多いと楽ですね」

「ああ、サイボーグの処理かしら」

 何よりも思ったのは、前回よりもずっと、サイボーグの処理が楽だった、ということだ。

 恐らく、前回トラペザリアで戦ったサイボーグよりも、今回戦ったサイボーグの方が数段弱かったのだが、それでも……あまりにもスムーズだった。

 サイボーグが前回より弱かったとしても、他にピュライの術師も複数居たのだ。

 その割にこの手際。この速さ。そして安定感。

 これが、複数人で一緒に戦う、ということか。

「私もアレーネさんも泉も、サポート向きだからかもね。逆に、この3人だけで戦ったら今みたいにはいかないよ」

 ペタルがそう言いながら、杖を支えにしながら地面から立ち上がった。さっきの技で消耗した分も、立てるまでには回復したらしい。

「そうね。人数が多くても、連携がとれないと何の意味も無いわ。イゼルや眞太郎君の攻撃が無かったら何にもならなかったでしょうね。……皆、良くやってくれたわね。いい連携だったわよ」

 アレーネさんが笑ってそう締めくくると、突如、拍手が響いた。

 拍手の主はリディアさんだ。

「やー、すごかった!なーんだもー、あー、こんなに強いんならもっと早くアレーネさん達に出会えてたらもっと色々楽に……」

 リディアさんは若干遠い目をしている。……もしかしたら、この連中だけではなく、他の連中にこうやって追い回されたこともあるのかもしれない。


「……ところで、この転がってる人達、どーするの?煮る?焼く?みぐるみ剥ぐ?」

「いいえ、聞きたいことを聞くのよ」

 リディアさんの物騒な質問に対して、アレーネさんが答えた。

 ……そう。俺達がこの術師達を殺さなかったのは、情報が欲しかったからだ。

「雑草を抜くなら、根まで全て抜かなきゃ、ね?」

 アレーネさんはそう言って、艶やかな笑みを唇に乗せた。




 さて。

 俺達は往来のど真ん中でいきなり戦闘をはじめてしまったのだが、周囲への被害はほとんど無かった。

 勿論、そうするように戦ったからなのだが。

 ……だから、という訳でもないのだろうが、街の人達からの反応は暖かく熱いものであった。

「いやあ、おねーちゃん達、凄いね!」

「綺麗どころばっかりなのにこんなに強いとはな!」

「あの連中、最近この辺りをうろついてて不安だったのよ。ありがとうね」

「あ、お嬢ちゃん!これ持ってって頂戴な!甘くておいしいわよ!」

 ……こんな具合に、口々に賞賛やら礼やらを述べてくれ、しまいにはお菓子の類までくれる始末である。

 人の温かさは、ソラリウムのそれに似ているかもしれない。

「ところでその連中、どうするんだい?警邏隊に連れてく?」

「運ぶんならうちの台車貸してやるよ!」

 ……人々の豪快さは、トラペザリアっぽい。




 貸してもらった台車で術師達6人とサイボーグの残骸を運ぶ。

 運ぶ先は、リディアさんおすすめの場所、ということだ。

「昔は石炭掘ってたけど掘りつくして、今は廃坑になってるとこがあるから!尋問にも拷問にも最適!人目もないし、アクセスも良好!てなわけでそこに運びましょー」

 台車を全員で押したり引いたりしながら、リディアさんが示す方へと運んでいく。

 ……とても不思議な光景だが、仕方あるまい。


 到着した先は、確かに、これから少々人目を憚りたい俺達にとって最適な場所だった。

 廃坑、というだけあって、近くには人も居ない。

 坑道の中に入らなくても、入り口付近だけで十分に事を済ませられそうだ。

「じゃあ、皆。他の5人をよろしくね」

 さて、これから尋問か、と思っていたら、アレーネさんがそう言った。

「え、アレーネさんは」

「私はこの人に聞きたいことを聞いてくるわ」

 見れば、アレーネさんはいつの間にか、台車から術師を1人降ろしていた。

「1人で大丈夫なんですか?」

 アレーネさんの言葉を聞く限り、アレーネさんはこの術師と1対1で尋問する、ということなのだろうが、何かあった時のことを考えると、少し不安だ。

 だが。

「シンタロー、悪いことは言わないからこっちで待ってよう」

 泉が、がしり、と俺の肩を掴んで止めた。

 ……。

「うん、アレーネさんなら大丈夫。任せて平気だから……眞太郎、心配しなくて大丈夫だよ」

 ペタルが、どこか虚ろな目をしている。

「行ってくるわね。10分くらいで戻るわ」

 そして、アレーネさんは心なしかわくわくとしたような笑みを浮かべつつ、術師を引きずっていった。

 ……俺とイゼルは思わず顔を見合わせる。

 アレーネさんは……一体、何をするんだろうな……。

「はー、なんか、こー……アレーネさんみたいなダウナー系の美人さんが尋問って、なんかエロいなー!うはは」

 ……リディアさんはちょっと黙っていてください。


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