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52話

 ……それからも色々聞いてみたのだが(ついには異世界人は来なかったか、というようなことまで直接的に聞いたのだが)、エンブレッサさん曰く、とくに無かった、とのこと。

 それこそ、盗難も無いし買い取りすらしていない、そもそもここ最近はめっきり閑古鳥、という状況らしい。

「……てゆーかねえ、ペタル?『光を集めて線にして飛ばす攻撃の魔道具』なんて私、聞いたこと無いわよ?聞いたかんじ、ポインターリングみたいな威力じゃないんでしょ?」

「うん、分厚い鉄板が吹き飛ぶぐらいかな……」

「それじゃあ、多分それ、古代の魔道具よ。一応、商売仲間にも聞いてみるけど……しょーじきなところ、遺跡に潜ってた奴探した方がいいかもしれないわよー?或いは、闇取引してる連中かしらねえ……どっちにしろ、危険な橋だと思うけど」

 ……俺達は顔を見合わせて肩を落とした。

 何にせよ、エンブレッサさんからはこれ以上の情報は得られそうにない。




「うーん、どうしようか……」

 エンブレッサさんの店を出て少し行った所にある喫茶店で休憩しながら、俺達は頭を抱えることになった。

「まあ、相手も後ろめたいことがあるなら、堂々と魔道具を買ったりはしにくいだろうな」

 勿論、エンブレッサさんの所で情報が得られるならそれが一番だったが……相手が俺達から隠れながら行動しているのならば、当然、表通りの店で買い物するようなヘマはしないだろうしな。

「って事はさー、アラネウムを知ってる奴らが犯人なのかなー?」

「ああ、『翼ある者の為の第一協会』の残党かも……」

 ……ならば余計に分かりづらいだろうな。

 相手は『世界渡り』の知識がある上に、俺達の存在をある程度知っているはずだし、ピュライ人である以上、痕跡を残さないようにうまく立ち回るくらいのことはやるはずだ。

「えーっとさー、古代遺跡ってどのぐらいの数があるのー?そんなに多くないなら1つ1つご近所さんに聞いてみたら分かるかもよー?」

「ええとね、100は下らない、かな……あと、古代遺跡って大体、町から離れた場所にあるから、聞き込みは当てにできないかも……」

 そして古代遺跡の方も恐らく駄目、と。

「え、じゃ、じゃあ、どうしよう……?」

「うーん……とりあえず、もう一回『翼ある者の為の第一協会』の跡地に行ってみようか。何か分かるかも」

 もしこれでも駄目なら、今度こそ打つ手なし、というところなのだが……どうなるか。




 そして俺達はやや懐かしい場所へやってきた。

「わ、建物が焦げてる……」

「ああ、あれはオルガさんが火炎放射した跡だよ」

 破損の激しい建物は、依然としてそこにあった。

 ……破損の原因は言わずもがな、俺達である。そしてその半分近くはオルガさんが原因らしい。屋上を吹き飛ばした俺も人の事は言えないが。

「……あの、人の匂いはしないよ。中には誰も居ないみたい」

 イゼルが鼻を動かしながらそう言う。やはり狼だけあって、ある程度鼻は利くらしい。

「とりあえず入ってみないー?中に何かあるかも!」

「そう、だね……眞太郎、一応、テレポートの準備はお願い」

「分かった」

 俺達は念のため、装備やら何やらの確認はきっちりして……建物内部に突入することになった。




「暗いね……良く見えない」

 建物の内部は薄暗い。

 入り口や、砕けて穴が開いた壁から差し込む外の光だけが光源だ。

 ……つまり、この建物、元々、窓が無い造りをしていたらしい。

 まあ、外に漏れたら厄介な事をしていたのだから、当然と言えば当然かもしれないが……多少、息苦しさを覚える。

「これじゃあ、壁に穴が無い階層の探索が難しそうだね……灯り、点けるよ。エフィス!」

 ペタルが杖の先から光の玉を生み出して、新たな光源とする。

 ふわり、と室内が照らされると、若干、閉塞感が緩和されたような気がした。

「うーん、1階は荒れてるだけかー」

 泉がちょろちょろと動き回って室内を見渡すが、開けた室内には特に何も無い。あるものは精々、瓦礫とか、散らばった書類とか、血痕とか……つまり、前回俺達が来た時のままのようだ。

「とりあえず先に進んでみようか」

 ペタルは部屋の奥、真正面に位置する階段を示す。

 とりあえずそうするしかなさそうなので、俺達は次の階層へと進むことにした。




「……うーん、人が出入りしたような痕跡はある、よね」

 2階、3階、と上がっていきながら部屋を検分していくが、『人が入った形跡』はあった。それも、比較的新しいであろうと思われるようなものが。

「足跡っぽいねー。埃の上にあるし、その上に積もった埃も少ないから、案外最近のかもー」

「……でも、『人が入った形跡』しかない、ね……」

 だが、逆に言えばそれだけ、ということでもある。

 少なくとも、ここから魔道具の出どころや行き先を知るのは難しいかもしれない。


「何も無いな」

「なーんもないねー……」

 そして到達した最上階。

 俺達は、屋上に空いた穴とバラバラになったゲートを見ながら、脱力感に苛まれていた。

 俺が吹き飛ばしたせいで、屋上には大穴が開いたままだ。そのせいか、床には雨が染み込み、果ては苔が生えるどころか、小さな花を咲かせる植物まで生えている始末だ。(後で聞いたところ、ピュライは植物が元気な世界らしい。)

 そして、相変わらずゲートは完全に破壊されつくしたままとなっている。

「……うん。このゲートは絶対に使えない。それは間違いなさそうだね」

 ペタルがゲートを確認して頷く。

 とりあえず、これは安心材料だろう。

 このゲートが未だに使える、という事であれば、ここから『翼ある者の為の第一協会』が異世界を侵略しかねないのだから。

「でも、だとすればどうやって……ブローチの他にも『世界渡り』の魔道具があったのかな……?」

 ペタルがそう呟きつつ首をかしげる一方、イゼルは……金色の目を輝かせながら、ふんふん、と辺りの匂いを嗅いでいた。

 ……そして。

「……ここ、ちょっと風の匂いがするよ?」

 建物の壁際に設置された太い柱の1本を示して、そう言ったのである。




 ならば、ということで柱を調べて5分。

「あった!」

 ペタルが声を上げつつ、柱に施された浮彫の一部を杖の先でつつく。

 すると。

「わ、わわわわっ!わーっ、な、なーにこれーっ!」

 柱の浮彫が融けるように消え、そこにはぽっかりと空いた空洞と、下へと伸びる梯子があった。




 梯子を下りていく。

「まだかなー、私そろそろ疲れてきたよー」

 泉が嘆くのも無理はない。

 ひたすらひたすら下りているが、終わりが見えない。

「これ、今何階ぐらいなんだろう……」

「感覚だと今1階ぐらい、なんだが……」

 そう。建物の最上階から梯子を伝って下りている訳だが……どう考えても、建物1階から最上階までの高さよりも長い距離に渡って梯子が下りているのだ。

「……ちょっと土の匂いがする……ここ、地面の下、なのかな?」

 イゼルが言う通り、恐らくここは地下なのだ。

『翼ある者の為の第一協会』が隠した地下室が、この下にあるに違いない。


 そしてひたすら梯子を下りていった先で、俺達は不思議な光景を見た。

「……これは……酷いね」

「うーん、どろぼーかなあ?」

 そこにあったのは、棚やガラスケースのようなもの。ただし、それらは全て空になっていたり、或いは床に倒れ、落ちて壊れていたりして……そして床には、壊れ砕けてしまった魔道具の欠片らしきものが幾つか、落ちている。

「とにかくここで何があったかは分からないけれど、多分ここには……たくさんの魔道具があったんだと思う。それが全部なくなってる、っていうことは……」

「ここにあった魔道具がトラペザリアに、っていうことか?」

 ペタルは沈んだ顔で頷いた。

「うん。その可能性が高そうだよね」




 何かの手掛かりになるかもしれない、ということで、床に落ちていた魔道具の欠片を拾い集め、俺達はアラネウムへ帰還することにした。

 これ以上ピュライに留まっていても、あまり情報を得られなさそうだし……逆にこれ以上の情報をピュライで得ようと思ったら、準備不足なのだ。

 どちらにせよアラネウムへ戻って、一度相談してみるべきだろう、ということになったので……俺達は再び『世界渡り』でディアモニスへ戻った。

 ……いや、もう一度あの梯子を上って外に出るのが面倒だった、とか、そういう訳ではない、と思う。多分。




「あら、お帰りなさい」

「ただい……あれ?」

 アラネウムに戻ると、アレーネさんが微笑みながら出迎えてくれた。

「その顔だとあまり成果は無かったのかしら?」

「うん。それはちょっと相談、っていうことにさせてもらうけれど……ええと、その人は『お客さん』?」

 ……そして、カウンター席には1人、見慣れない女性が座っていた。

 店内には、他に客は居ない。もしかして。

「ええ。異世界間よろずギルドへの依頼よ。……もしかしたら、トラペザリアの件ともつながりがあるかもしれないわ」

 アレーネさんはそう言って、より一層深く妖艶に微笑んだ。


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