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47話

「正規軍だ!反逆者ルナ・ラジオに……なっ!?」

 吹き飛んだドアの向こうから声がしたと思ったら、じゅ、と音がして声が途切れた。

「ルナ様のトラップが作動したようですね」

 ルナさんが1人でここに居られるのは、この工房がトラップハウスと化しているからだという。

 今の音は恐らく、レーザービームだ。

 招かれざる客を焼き切る為に設置されたセキュリティシステムは、どうやら正常に作動したらしい。

「シールド類も展開したようですね」

 そして玄関の向こうから爆音が響く中、室内にルミナス・バイオレットの光が駆け巡る。

 部屋の各部にシャッターが下り、壁はエネルギー・シールド(つまりバリアーだ、と説明された)を展開する。

 俺達の目の前にも、俺達を守るようにシールドとシャッターが展開されていた。このシールドは対サイボーグ電磁波等を軽減してくれる、らしい。つまり、どちらかと言えば室内の機器を守り、正常にセキュリティシステムが作動するようにしておくための物だ。

 サイボーグではない俺には関係無いが、アンドロイドであるニーナさんに関係が無いとは言い切れない。このシールドは素直にありがたい。




 爆音と銃声が響く中、俺達はひたすら応戦していた。

 ルナさんのセキュリティシステムは高度なものだが、俺達にできることはできる限りやっておいた方が良い。

『投降せよ!投降せよ!投降せよ!』

 機械的な声が響く。声帯まで機械化しているサイボーグは珍しくないらしい。

 声と同時に、シャッターがメコリ、と凹む。

 相当な強度のあるものらしいが、それが凹む程度の衝撃が加えられた、ということだ。ぞっとする。

 だが、ひるんでいる余裕はない。

 俺達は玄関の方へ向けてシャッターの隙間から発砲した。

 ニーナさんはライフル銃のような銃で瞬時に狙いをつけて的確に急所を撃ち抜く。(サイボーグの急所は頭部というよりは頸椎あたりであるらしい。)

 ニーナさんの銃撃は速く、それでいて正確だ。到底、人間にできる所業ではない。

 俺はニーナさんのような正確無比の急所狙いなどできそうにないし、拳銃で銃弾をばら撒くにしても効率が悪い。

 ……だが、俺の手元には武器がある。

 そう、爆弾と……『ピュライの魔道具』。

 即ち、テレポートの魔道具である。




 俺はさっき、テレポート先を玄関前に設定した。

 そしてこの『テレポート』、別に、術者自身がテレポートしなくてもいいのだ。むしろ、移動させるものや距離が小さいほど消費魔力は少なくて済む。

 だから俺は……。

「5、4、3、2、よし!」

 爆弾は起動させてから5秒で爆発する。

 だから、起動させてカウントダウンが2を切ったあたりで……爆弾を投げながら、『テレポート』。

 直後に、玄関の方……正規軍のサイボーグたちが押し寄せてきているその場所真っ只中で、爆音。

 思わず口笛を吹いてしまう。

 爆弾はそこまで威力が高いものではない。つまり、『町1つを吹き飛ばす』とか、そういう規模ではない、という、『トラペザリア基準で威力が高くない』という意味だが。

 ……だから、普通なら、サイボーグ相手には威嚇程度にしか使えないだろう、と。

 余程至近距離で爆発させない限り、致命傷を与えることはできない。そして、戦闘用に改造されたサイボーグなら、投げ込まれた爆弾を回避するくらいの身体能力はある、と。

 ……つまり、だ。

 裏を返せば、『至近距離で』『回避の時間を与えずに』爆発させれば、この爆弾でもサイボーグと戦える、ということになる。

 威嚇程度の爆弾、ということで価格も安かった分、たっぷりと買い込んである。

「次は3つ同時に行くか」

 シャッターが次々と凹まされていく中、俺は爆弾3つを同時に起動させた。




 そのまま防衛を続けて少しすると、急に静かになった。

「……撤退した、か?」

「そのようですね。各モニターに敵の姿はありません」

 工房の各部を映すモニターには、ボコボコになったシャッターやボロボロになった壁といった景色が映っている。しかし、そこに敵の姿は無い。

「通信らしい電波を傍聴したのですが、一時撤退の命令が出たようです」

「ニーナさん、そんなことも……」

 ニーナさんは耳のあたりに手を添えつつそんなことを言う。

 つくづく、この人(人ではなくアンドロイドなのだが)は高性能だ。


「しかしこちらのセキュリティシステムも一部が破損したようですね。弾薬の消費はそれほどでもありませんでしたが……眞太郎様、バッテリーパックは」

「ああ、半分減りました」

 答えると、ニーナさんの表情が若干曇った。

「それは……心配ですね」


 テレポートの魔道具は使うために魔力を必要とする。

 そして俺は俺自身が魔力を碌に持っていない為、バニエラの『バッテリーパック』をピュライの魔道具の動力として持ってきていたのだが……もう、半分のバッテリーパックを使い切ってしまっている。

「眞太郎様、一度バニエラへ向かわれますか?」

 ニーナさんに問われて、考える。

 ……『世界渡り』でバニエラに向かい、そこでバッテリーパックを調達して、戻ってくる。

『世界渡り』のブローチの魔力はフル充填してあるから、バニエラへ向かう事はできる。

 だが、その後帰りの分の魔力はバッテリーパックから供給する必要がある。

 そしてそのバッテリーパックは今持っている分では足りないから、バニエラですぐにバッテリーパックを調達できなかった場合……長く、こちらを空けることになりかねない。

 そして、ニーナさんはバニエラのアンドロイドだが、バニエラでのニーナさんの立場は『エラーの起きた処分すべきアンドロイド』である。つまり、ニーナさんをバニエラへ連れていくことはできない。

 つまり、俺1人で土地勘のないバニエラでバッテリーパックを調達する、ということになるだろう。

 ……それはリスクが高すぎる。

「いや、これでギリギリまで粘って……それでだめだったら、『世界渡り』で逃げましょう。『世界渡り』分の魔力は逃げるために取っておきたい」

 何せ、敵は撤退したと見せかけながらすぐに襲ってくるかもしれないのだ。ここで場所を空けるのはあまりにもリスクが高いし、俺達の切り札『世界渡り』による逃亡をすぐに使えない状況になるのもリスクが高い。

「分かりました。……眞太郎様」

 ニーナさんはいつも通りの無表情で頷くと……胸部を。

「に、ニーナさん?」

「私はアンドロイドですので」

 胸部を、開いた。それこそ、ぱかり、と。蓋を開く要領で。

 ……いや、アンドロイドなんだが。アンドロイドなんだが……複雑な気分になる。申し訳ないような、というか、なんというか。

「眞太郎様、私の胸部にはバッテリーが予備電源用を含めて2つ入っています。もし何かあった場合は、私の胸部をこのように開いてバッテリーをお使いください」

 ニーナさんの指先が、胸部の内部に収まっている2つの箱のようなものに触れた。

 アレがバッテリー、ということなのだろうが。

「なんか嫌ですねそれ……」

「そうですか?ですが念のため、説明を」

 ニーナさんは丁寧に、ニーナさんの内部の説明をしてくれたが……使わなくていい事を祈るばかりだ。ああ。




 結局、その日はそれきり、敵襲は無かった。

「あー、もしかしたら偵察、あわよくば殺害、ぐらいのつもりだったのかもねー」

 ルナさんは幾分やつれた顔でそんなことを言いながら、お茶のカップを傾けた。

「あれで偵察、ですか……」

「そーね。一応、モニターで見てたけど、あれ量産機だったもの」

 ニーナさんはライフルを構えて外を警戒しながら、俺は携帯食料を食べながら、それぞれ顔を見合わせて、ややげんなりする。

 ……あれが量産機?

 確かに数は多かった。多かったが……。

「次に来るときは多分、滅茶苦茶強いのが1体、とか、そういうかんじだと思うわ。……うん、まあ、逃げてね、そん時は。時間稼いでくれたら嬉しいけど、多分、勝てはしないと思うから……」

 さらに、ルナさんはそんなことを言う。

「勝てない、とは」

 ニーナさんがルナさんに問うと、ルナさんは肩を竦めた。

「いや、だってさあ、オルガがアンティークなのよ?最新型のボディ使ってるサイボーグの性能とか、もう、明らかじゃない?……少なくとも、アンドロイドと生身の2人にはキッツイと思うわー」

 おや、俺達の体の事はバレていたか。

 そんな思いでルナさんを見たら、「ふふん」と胸を張りながら、機械の右目を示した。

「ジニアのところの『生身隠蔽スーツ』、あれ、製造者私だから。当然、私の目はそれを見破る機能ぐらいついてるのよ」

 ああ、成程……。

「……ま、とにかく、あんまり深く考えずに爆弾撒いて、適当に撤退して頂戴ね。ニーナちゃんとシンタロー君に何かあったらオルガ、自害しかねないし」

 ルナさんはそう言って肩を竦めた。

 ……俺達は。

「眞太郎様、どうやって『世界渡り』の為、オルガ様の元へ向かうかが難関になるかもしれませんね。テレポートの設定を変更しておいた方が良いのでは」

 俺達は、『世界渡り』で逃げられる。

 だが、俺とニーナさんはともかく……ルナさんとオルガさんは、当然、俺達が2人の元へ向かわないと、一緒に『世界渡り』できない。

 そして、オルガさんより強い、というサイボーグが襲ってきたら……その余裕があるかどうか。

「……本当に、時間稼ぎ、が必要かも、な……」

 テレポートの設定を『手術室』内に変更しておいた方がいいかもしれない、と思いつつ、俺はぼんやりと、まだ見ぬ敵襲にむけて頭の中でシミュレートを始めた。




 夜の間、俺はまた仮眠を取り、ニーナさんが警戒を続けてくれた。

 そして昼になったらまたニーナさんがスリープモードに入って、俺が警戒する。

 ……そうして警戒を続けたのだが……。

「来ませんね」

「来ませんね」

 ニーナさんがたっぷりスリープモードで夢を見て目覚めても、さらにそれから数時間が経過しても、敵襲は無かった。

「このままオルガさんの調整まで終わればよいのですが」

 それはその通りなのだが、これが嵐の前の静けさに思えて仕方がない。

 警戒し続けるという事は、その分の消耗を伴う。

 額に滲んでいる嫌な汗を拭いつつ、俺は幾度目になるか数えきれない爆弾の確認を行った。


 そして更にそれから1時間程度。

 モニターに映る外の様子は、夕陽に染まっている。夕方だ。

「……静かですね」

 流れる空気は、どこか穏やかですらある。

 静かで、喧噪すら遠い。

 ……いや、待て。

「おかしい……静かすぎる」

 街の喧騒すら、無いのだ。

 喧嘩の声も銃声も爆発音も、何も外から聞こえない。

「……これは何かあったのでしょうか」

 俺達2人がそれぞれの武器を手に、警戒を強めた。


 その時だった。

「眞太郎様、東から」

 ニーナさんの言葉が途切れた。




 振り返った俺の目には、破壊された壁と……頭部を大きく破損して吹き飛ばされるニーナさんが、映っていた。


次回更新は17日を予定しています。

場合によっては途中で更新される可能性もありますが、更新されたとしても1回程度になるものと思われます。ご了承ください。

追記:18日になりました。

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