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46話

「誰も来ませんね」

「まあ、それが一番だからな……」

 そして俺達は、キッチンのテーブルに着きながら、武器を構えていたのだが……誰も来なかった。

 ニーナさんは退屈そうにすら見える。いや、表情に変化は無いのだが。

「『正規軍』とやらはまだここを嗅ぎつけていない、という事でしょうか?」

「どうだろうな。ルナさんは一応、『出張中』の看板を出している訳だけれど……そうそう、騙される相手だとも思えないし」

 俺がため息を吐くと、ニーナさんはふと、気づいたように俺を見た。

「眞太郎様。どうして『正規軍』が『そうそう騙される相手だとも思えない』と?」

「……え?」

 ニーナさんの言葉に自分の言葉を振り返ってみれば、成程、確かに、おかしいような気もする。

「そう、だよな。俺達が今知っている『正規軍』の情報は……」

「ジニア様に貢がされて殺害された。ルナ様を勧誘して殺害された。他には、ルナ様を狙っているということ、それから、オルガ様をより強く狙っている、ということ、でしょうか?」

 それだけだ。

 特に、前2つの情報を聞く限りでは、かなり……その、間の抜けた相手なのではないか、とすら思えるのだが……いや。

「いや、分かった。違う。俺達が相手の強さを高く見積もっている理由は……『オルガさんが殴り殺して解決しようとしていない』からだ」




 オルガさんの解決方法の1つが、『ぶち壊す』だ。

 ピュライの『翼ある者の為の第一協会』の屋上は破壊されたし、ゲートも破壊された。古代遺跡の壁も破壊された。バニエラの巨大ボットも破壊された。その他にも、結構大胆に色々破壊して、しかしそれでうまく収めてしまっている。それがオルガさんの印象である。

 ……だが、オルガさんは『正規軍』とやらに狙われているというにもかかわらず、その『正規軍』を全滅させようというようには動いていないように見える。

 それは、ジニアさんもサムさんも、ルナさんも同じように見える。

「つまり、『正規軍』っていうのは相当大きな組織で……尚且つ、かなり強い組織なんだろうな」

「成程。でしょうね。私達ですら、ジニア様の元で武装を整えることができました。『正規軍』がこの程度の武装を手に入れられない訳は無いでしょうし……トラペザリアは武装の強さの上に、サイボーグとしての強さも積み重ねられますからね」

 ここで俺は思い出す。

 オルガさんに聞いた、このトラペザリアという世界について。

 ……一度、シェルターの外の生物が死滅した。大きな戦争があった。

 そう、確かに聞いたのだ。

 そしてオルガさんも戦っていた、という言葉から考えれば……そう昔のことでもないはずだ。

「トラペザリアは……全員が本気で戦ったら、簡単に滅ぶんだろうな」

 過剰な威力の武器。1人が簡単に1000人を殺せてしまう世界。

 トラペザリアはそういう世界なのかもしれない。

 恐らく、ABC条約のような規定も無いか……あっても、『囚人のジレンマ』の如く、全員が規定を裏切りにかかっているために意味を成していないのだろうと思われる。

「オルガさんは強いけど、それはトラペザリア全体がそうだ、ってことなのかもな」

「……だとすれば私達はとても難しい任務を受けてしまいましたね」

 ニーナさんは銃の引き金を確認しながら、そう言って目を伏せた。

 ……俺達には、『異世界間よろずギルド』としての強みがある。

 だが、それすら通用しないような相手と戦うことになるのだろうし……その時、殺すことを躊躇ったら、それこそ俺達が殺されるのだろう。

 嫌な世界だな。

 ……そう言いかけて、口をつぐんだ。

『ここは人様に勧められる世界じゃあないが、私は好きなんだ』と言っていたオルガさんの事を思い出したので。




「あー、しんど」

 しばらく銃を構えていたところ、床下からルナさんが現れた。

「終わったんですか?」

「いーえ?流石の私でもそりゃ無理よ。とりあえず今、一段落、ってところね。ま、今日は半徹するつもりだけど」

 ルナさん肩を回してボキボキ、と音をさせてから大きく伸びをした。

 それからケトルにボトルの液体を注ぎ込み、電熱器具らしいものの上に乗せてから、椅子に座りこんだ。

「はー、もー、オルガのパーツってほら、アンティークのレベルでオンボロだからねー、もう、整備が大変で大変で」

 ……ルナさんの言葉を聞いて、ふと、闇市でオルガさんとサムさんが話していた内容や、ルナさんとの会話を思い出す。

「そういえば、オルガさんってパーツ交換をしたがらない、んですよね」

 以前、オルガさんは「破損してもパーツ交換すれば問題ない」というような事を言っていたような記憶があるのだが……トラペザリアに来てから、『新しいパーツに換えないのか』と聞かれてはその都度否定している。

 そして現に、ルナさんはオルガさんのパーツを『アンティークレベルでオンボロ』と評しているのだ。

「ああ……そっか、シンタロー君もニーナちゃんも、そこら辺は知らない訳ね」

 ルナさんは眉根を潜めつつ、困ったような顔をして……1つ、頷いた。

「うん、まあ、オルガ自身が話す訳じゃないから、詳しく話さないけど。……あいつのパーツ、大半があいつのパーツじゃないのよ」

「それはどういうことですか?パーツが遠隔操作されているという事でしょうか?」

 ニーナさんが問うと、ルナさんは緩やかに首を横に振って、湯気を立て始めたケトルに近づき、パチン、と電熱器具のスイッチを切った。

「中古、って言ったら言い方悪いけどね。要は、死んだ仲間のパーツ集めて使ってんのよ、あいつ」




 それ以上、何も聞けなかった。

 ルナさん自身はそれ以上話そうとしなかったし、俺達としても聞き出す気にはなれなかった。

 ルナさんが淹れてくれたお茶(ハーフリアルフードの、やや不思議な味がする代物)を交代で飲みながら、交代で警戒も続ける。

 ……この状態であと2日、3日、だ。

 来るか分からない敵を警戒し続けるために精神力は削られていくし、その中でオルガさんの過去についてあれこれ詮索したり憶測したりする余裕はないだろう。

 ただ……ルナさんから聞いた『オルガさんは死んだ仲間のパーツを使っている』という話のおかげで、より一層、警護しなければ、という思いが強まった。

 そういう意味では、聞けて良かったと思う。




 ルナさんは30分程休憩して、また『手術室』へと戻っていった。

 睡眠時間を削ってでも次の行程を終わらせるつもりらしい。

 尚、睡眠時間が減ることによって集中力が落ちたりする心配はないそうだ。

「そうねー、5日以上稼働しっぱなしにしてたら流石にヘタるでしょうけど。私は脳味噌も弄ってるからねー」とは、ルナさんの談である。流石はサイボーグ、ということか。


 ルナさんが再び居なくなってからも俺達は銃を手に警戒を続けた。

 時折、外から爆音が響いたり、悲鳴が聞こえたりもするのだが、それは全くの別件で起きている事件らしく、ルナさんの工房に入ってくる人は誰も居なかった。トラペザリアでは爆音も悲鳴も環境音のようなものらしい。


 そのまま警戒を続け、夜になった。

 夜の間はニーナさんが警戒していてくれることになったので、俺は仮眠を取らせてもらった。

 ニーナさん曰く「バッテリーの充電はあと5日分程は問題ありません」ということだった。こういう時、アンドロイドというものは便利だな、と思う。

 ただ、やはりというか、ニーナさんは高性能すぎる代償として、アンドロイドの体とはいえ、時々はスリープしなければ負荷がかかりすぎるらしい。なので、昼間の間、1時間程度スリープしてもらって、その間は俺が1人で警戒を続ける、ということになった。

 ……ちなみに、バニエラのアンドロイドは夢に近しいものを見るらしい。

 つまり、アンドロイドが起動中に得た視覚情報聴覚情報、その他ありとあらゆる情報を全て整理し直し、圧縮をかけ、記憶データとして保存するための行程をスリープ中に行うのだという。

 その間、データの切れ端が混ざり合いながらとぎれとぎれに見えるのだとか。それがニーナさんにとっての『夢』であるらしい。

 人間が夢を見るのは記憶や気持ちの整理の為らしいし、ある意味では同じシステムだ。実際、バニエラのアンドロイドは人間を忠実に再現し、かつ人間より高性能にすることをコンセプトに開発されていたらしい。

 つくづく、バニエラは『異世界』なんだな、と思わされる。




「では眞太郎様、私はこれより60分間のスリープモードに入ります。状況によっては自動起動のタイミングが最大で60秒程前後することもありますのでご了承ください」

「別に300秒ぐらい寝過ごしてくれてもいいんだが……」

「いいえ。そのようなわけには。もし60分間の間に敵襲があった場合、もしくはそれらしい兆候が見られた場合にはスリープモードを解除してください。私のパーソナルネームを呼んで頂くか、体を50mm以上動かして頂ければスリープモードは解除されます。では失礼します」

 ニーナさんは流れるようにそう言うと、目を閉じてスリープモードに入った。


 ……元々ニーナさんは口数が多い訳ではない。事務的な内容では流れるように喋るが……つまり、必要なこと以外を喋ることは非常に少ない。だから、ニーナさんがスリープしてしまっても、外部音としてはほとんど何ら変わりがない。

 だが、2人の内1人が欠ける、ということで、それだけでなんとなく不安になる。

 小さな物音でも、不必要な程に警戒してしまう。

 俺は幾度となく玄関に向かい、その度に異常が無い事を確かめては安堵に胸をなでおろした。

 ……あまりにも警戒しすぎるあまり、玄関に『テレポートの魔道具』のテレポート地点を設定してしまった。つまり、その程度には俺の神経がささくれ立っていた、という事だろう。

 ニーナさんの事だから、有事の際には瞬時に起きて、すぐに臨戦態勢に入ってくれるのだろう。だが、不安な物は不安なのだ。

 ……人の気配、というか、そういうものが隣にあるのとないのとで大きく違うのだな、と思わされる。




 ニーナさんがスリープモードに入って45分程度過ぎたころ。

 ……ふと、玄関の方で物音がした気がした。

「ニーナさん」

 何も無かったら申し訳ないな、と思いつつも、何かあったら困るのでニーナさんを起こす。

「はい」

 ニーナさんは当然のように瞬時に目覚め、ライフル銃を構えた。

 そのまま2人で警戒していると、玄関の方から機械的な甲高い音が響き……。

 ギュイイン、と、けたたましい音を立てながら、金属板のドアから、回転鋸の刃が現れた。

「来る!」

「来ますね!」

 俺達が銃を構え、武器を構え、それぞれ臨戦態勢になったところで、バゴン!と凄まじい音が響き、玄関のドアが吹き飛ばされた。


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