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28話

 アレーネさんの分かりやすい要約を聞いて、泉は俄然やる気が湧いたらしい。

「分かった!私、協力する!そのパソコン、ぶん殴ろー!」

 だが、ペタルは思案顔である。多分、俺も思案顔だ。

「……でも、そんなこと、できるかな。私達、何故か魔法が使えなくて……」

 ペタルの心配はその通りだ。

 ペタルの魔法が使えず、泉の歌が効く相手ではなかったせいで、俺達はあのレーザービームを放つ球体に追いかけ回されていたのだから。

「魔法?……魔法、ですか」

「うん。使おうと思ったら、『ERROR』って出てきちゃって……」

 女性は少し考えるように動きを止めた後、俺達に少し待つように言ってから部屋を出て行き、そして5分程度で戻ってきた。

「これをつけてみてください」

 女性が手に持っていたのは、小さな金属製の部品がついたベルトのようなものだった。

「ええと……これでいいのかな」

 ペタルが手首にそのベルトを着けると、一瞬『ERROR』の文字がさっき同様に浮かび……すぐに掻き消えた。

「これは偽造パーミッション装置です。この街ではマスターコンピュータの許可が無いヘクセレイ回路やW系回路が起動すると、最も近くにあるボットによって相殺、中和されます。ですが、これを取り付けてあればボットをジャミングできます。あなたの言う『魔法』がボットに相殺されたのなら、これで対処できる可能性が高いです」

 試しに、ということで、ペタルが杖を構えて……ぽん、と、銀色の花を宙に咲かせた。

「あ、今度は大丈夫みたい」

 立て続けに、ぽん、ぽん、と銀色の花が宙に浮かび、くるくると宙を舞ってから散って消えた。

「……ということは、眞太郎もこれを貰っておいた方がいいかもしれないね。さっき、『ぺったんリング』の銃、起動してなかったみたいだし」

 そうだ。俺もさっき、疑似コイルガンを撃った時、鉄釘が発射されなかった。

 ……だが、俺の場合、そもそも『ERROR』の表示が無かったのだが……。

「数には余裕がありますから、どうぞ」

 嫌な予感がしつつも、女性から『偽造パーミッション装置』を受け取って手首につける。

 そして、女性に許可を得て、廃材に向かって疑似コイルガンを撃ち……。

「……あれ?眞太郎、それ……」

「……発射されない」

 だが、頑として疑似コイルガンは沈黙を守っていた。




「この世界がたまたま、ってことは、なさそう、だよね……私の魔道具は使えてるから」

「もしかして壊れちゃってるのー?」

 ……思い出す。

 最後にこの疑似コイルガンを使ったのは、ピュライの『翼ある者の為の第一協会』でペタルの兄と戦闘になった時だ。

 そしてその時、この疑似コイルガンに使われている『ぺったんリング』を意図的に暴発させることで、無理矢理鉄釘を引き寄せさせた。

 ……まさか。

「ペタル、魔道具って……暴発させたら、壊れるか?」

「……壊れることも、ある、よね……複数個同時にやったりしたら、当然……え、まさか眞太郎、お兄様と交戦した時って、え、まさか、まさかだよね!?」

 交戦時の詳細は特に話していなかったのだが、ここで改めて話すことになった。

 つまり、俺と疑似コイルガンとで相手を挟む位置にあったので、その状態で『マグネテス』で『ぺったんリング』を全力で起動させて……以前、エンブレッサさんから聞いていた『暴発狙い』をやった、と。

「……眞太郎」

 説明したあと、ペタルの泣きそうな顔と目が合った。

「二度と、それ、しないでね……」

「……分かった……」

 後で聞いたところ、暴発の具合によっては全ての鉄釘が弾かれ……つまり、俺の体に向かって飛んでいた可能性もあったらしい。

 あの状況下で概ね俺が意図したように『ぺったんリング』が暴発したのは、奇跡的であった、とも。

 ……頼まれなくても二度とやらない。


「では、そちらの方は今、武器をお持ちでない。間違いありませんか」

「……間違いありません」

「そうですか。なら、こちらの武器をお貸しします。場合によっては譲渡してもかまいません」

 ということで、俺はこの世界の武器を貸してもらう事になった。

 武器の1つも無いと、俺は魔法を使えるわけでもなく、サイボーグでも小人でもない只の人間である。

 ……今後気を付けよう。




 そうして俺は、光線銃を貸してもらうことになった。

 長銃の分類に入るのだろう。長い銃身を持っている光線銃だ。片手では……撃てなくもないが、狙いを定めることはできないな。疑似コイルガンとは大分勝手が違う。

 一番の違いは銃身の長さだが、それは特に問題なさそうだ。要は狙って撃てばいい。技術が無いのは疑似コイルガンでも同じだったのだから大して変わりはない。

 俺の行動として一番変わるのは……銃弾を一々装填し直す必要が無い、という事だろう。

 光線銃はエネルギーバレル……電池のようなもの、を入れておけば、それ1つで数十発は撃つことができる。

 疑似コイルガンは鉄釘を一々銃身に突っ込む必要があったので、連射はかなり難しかったのだが、この銃ではそれが可能だ。

 ……一気に高性能になったな……。




 アレーネさんは自前の武器で何とかする、ということだったが、泉は俺同様に武器を貸してもらうことになった。コンピュータ相手に泉の歌が効くとは思いにくいので。

 ……ただし、泉はその身長15cmという体躯が災いして、まともに使える武器が碌に無かった。

 仕方ないので、泉は『熱源ジャミングパッチ』を借りることになった。

 これは、ボット(レーザービームを飛ばしてきた球体もこのボット、というものらしい)の索敵から逃れるためのもの、らしい。

 体躯の小さな泉なら、ボットのセンサーを誤魔化しやすいのだそうだ。相手に認識されなければ、その分自由に動きやすい、と。

 泉はペタル程、電子機器と相性が悪い訳ではない。マスターコンピュータとやらの修復をする上で何か行動してもらうこともあるかもしれない、ということだった。

 ……泉は他に、刃渡り8cm程度の小さな(泉にとっては身長の半分以上もある)剣を持っている。

 このナイフは、女性が使っていない工具箱から探してくれたものだった。俺達で言うところのカッターナイフのようなものらしい。もっと細身で、刃を折って使うようなものではなく、刃の交換はその都度一枚丸ごと交換、ということらしいが。

「見て見てシンタロー!かっこいいでしょ!」

『剣』を装備した泉が自慢げに胸を張る。

 ……一寸法師、という単語が頭の端をよぎったが、素直に「かっこいい」と言っておいた。




「ところであなたのお名前を伺っていなかったわ。教えてもらえるかしら?」

 全員がそれぞれ装備を確認したところで、アレーネさんが女性に尋ねた。

 そういえば、俺達も名乗っていない。名乗るどころではなかったので仕方ないが。

「私の名前、ですか……」

 女性は少し沈黙した後、答えた。

「私の事はノエルとお呼び下さい」

「そっかー。よろしくねー、ノエル!私、фηoζН!」

「……申し訳ありませんが、もう一度……」

「фηoζН!」

「……?」

 ……女性改めノエルさんも、やっぱり泉の本名は聞き取れないらしい……。




 それから俺達もそれぞれ名乗ったところで、今日は休憩、という事にさせてもらって、俺達は一度、ディアモニスに戻ることにした。

 ……理由は簡単だ。

 一つ目の理由は、食料がここには十分に無いらしい、ということ。

 食料供給はやはりマスターコンピュータによって管理されているらしく、余剰が無いのだそうだ。

 ……ここでもトラペザリア同様、ディアモニスの食料が高く売れそうだな……。


 一度戻るにあたって、イゼルの元へ向かった。

 イゼルはドラゴンの大きな体を丸めて、小型飛行機の隣ですやすや眠っていた。

「……ドラゴンのままでいると、負担が大きいから。申し訳ない事しちゃったな」

 今までは『世界渡り』できない状況だったので、この世界から脱出する唯一の手段であるイゼルドラゴンを元の姿に戻すわけにはいかなかったのだ。

「イゼル、お疲れ様。もう戻っても大丈夫だよ。ついでに怪我もきっちり治そうか」

「きゅ!」

 イゼルドラゴンに向かってペタルが話しかけると、ペタルドラゴンは嬉し気に一声鳴いて……その場でくるり、と、一回転。

「がう」

 そして狼の姿になって、ペタルの足に体を擦りつけた。

「……イゼル、狼でいるのは疲れないの?」

「がう!」

 念のため、服も持ってきていたのだが、イゼルはどうやらこのままでいいらしい。

 もしかしたら、イゼルは獣人の姿でいる方が疲れるのかもしれないな。




 ペタルがイゼルの治療を終えると、俺達は一度、ディアモニスへ戻ることにした。

 ……ノエルさんは俺達が別の世界へ行ってしまう事に若干の不安を感じている様子だったが、こちらも一度乗り掛かった舟だ。助けてもらった恩義もあるし、ここで逃げ出すつもりは無い。

 それに……恐らく、マスターコンピュータのシステムエラー、とやらが無くなれば……『世界の破れ目』も改善されるのではないだろうか。

 そしてそれは、ソラリウムの日照りの原因解消へと繋がるはずだ。

 問題は密接に絡んでいる。ならまとめて解決してしまった方が分かりやすくていい、というのが……オルガさんの、意見だった。

「まあ、恐らくその世界なら私も問題なく活動できるだろうな!」

 ディアモニスに戻って、留守番していたオルガさんに今までのいきさつを説明すると、大変乗り気な様子でノエルさんの手伝いへの参加表明をしてきた。

「要は、ピュライと似たエネルギーを用いている世界だろう?私はピュライとは相性が悪くないからな!多分いける!それにソラリウムで何もしていないからな!少しは働かせてもらうぞ!」

 ……と、まあ、ディアモニスに戻ってきた2つ目の理由は、オルガさんを連れてくるためだったわけだ。

 どう考えても、アラネウム最高火力はオルガさんだ。

 最も戦闘慣れしているのもオルガさんだ。

 そして、コンピュータに一番詳しいのも多分、オルガさんだ。ここは多分、と付くが。

「……オルガ、今回の任務は、破壊任務じゃないのよ?」

「ああ、分かってるぞ!だが、マスターコンピュータまでの道程で出てくるボットは壊していいんだろう!?」

「……オルガ、破壊は最小限よ?」

「仕方ないな!必要最小限にしよう!『必要最小限』に!ははは、任せておけ!」

「あの、オルガさん。魔法の方が汎用性があるから……私に任せてくれても、いいんだよ……?」

 ……何かとてつもない安心感と不安感を同時に感じつつ、俺達は存分に食事と睡眠を摂ることにした。

 まさか連日、こうも色々とやる羽目になるとは思っていなかったが……やることになったからには、ベストを尽くしたい。俺だって人並みに正義感があるのだから。


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