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10話

 作ろうとしているものについてスマホで情報を拾って設計図に起こしたら、もう夕方になっていた。太陽も沈みかける時間である。

 この時間になると、喫茶アラネウムが営業時間を終えてバーアラネウムの準備を始める。

「ただいまー、っていうのも変かな」

 そして、ペタルは部屋に戻ってくる。

 ペタルは未成年(16歳らしい)なので、バーで働くわけにはいかないらしい。

 異世界人に関係があるのか、とも思ったが、ペタルの見た目は明らかに大人の女性のそれではない。西洋系の顔立ちにもかかわらず、割と童顔だ。バーに居たら犯罪の気配がしそうだ。実年齢以前に、見た目がアウト、というか。

 ……何にせよ、渡りに船、かもしれない。

 ペタルが居ないようならオルガさんを訪ねてみようと思っていたのだが、ペタルが居るならペタルの方がなんとなく話しやすいし、頼み事もしやすい。

「ペタル、ちょっと買い物に付き合ってほしいんだ」

「え?買い物?ディアモニスで?」

「ああ。ホームセンターまで、ちょっと」




 ペタルはというと、2つ返事で了承してくれた。

 俺の護衛のためではあるんだが、それ以上にホームセンターに行ってみたかったらしい。

「実は、ディアモニスはあんまりまだ見て回ってなくて」

 ホームセンターの中をきょろきょろしながらうろうろするペタルは、やや興奮気味である。

「すごいね。ピュライじゃ、こんなに大きなお店は中々無いし、こんなにたくさんの物が置いてあるなんて絶対に無いよ!」

 ピュライは魔法の世界だが、文明、というか、文化、というか……そういったものはこちらの世界より遅れ気味らしい。建造物も古典ゆかしきレンガ造りだったし、交通手段も馬車(や馬以外のよく分からない生き物が牽く乗り物)だった。

 科学が発達する代わりに魔法で補っている世界だし、何より『宗教』が文明の発達にキャップを掛けている、らしい。

 魔法があるからあらゆることを発展させる必要が無い。そして宗教があるから、そもそも発展させるのは禁忌、ということなのかもしれない。


「……ねえ、眞太郎、あの杖みたいなものは何?」

「あれはアンカーボルト。コンクリートっていう建材に埋めて、固定とか補強とかに使うものだ」

「ふうん。じゃあ、あのナミナミしてる板は?」

「いや、あれはトタン板。亜鉛でメッキしてある鉄の板。比較的軽くてそこそこ丈夫で腐食しにくいから、簡易建材に使われる」

「鉄に亜鉛?うわ、そんなの初めて見たなあ……腐食しにくくて軽くて丈夫……ミスリルみたい。あ、ねえ、眞太郎、あれは何?」

 ……その後、ペタルからの質問の数こそ減ったが、ペタルが目を輝かせてあたりを見回すことは止まなかった。

 異文化交流、というかんじがして、俺としても中々楽しかったが。


「眞太郎、それは何?」

 そして俺が目当ての物を見つけて手に取ると、ペタルは興味深そうにのぞき込んできた。

「すべすべしてて灰色……でも、あまり冷たくないんだね。金属じゃない、んだよね」

「ああ。これは塩ビ管、と一般的に言われるもので……ええと、合成樹脂、って言って分かるか?」

「うん。なんとなくは」

 ペタルは真剣な顔で頷いた。

 恐らくこの知識もペタルの勉強の成果なのだろう。

「塩化ビニール樹脂はそこそこ丈夫でそこそこ加工しやすくて、酸にもアルカリにも強くて電気は通さなくて……何より安い。工作の材料にはうってつけなんだよ」

「工作?眞太郎、何か作るの?」

 ペタルが不思議そうな顔で尋ねてきたが……あまり大きな声で喋りたい事でも無いので、そこは曖昧に笑ってごまかしておく。

「ディアモニス人の知恵、かな」




 それから他の材料や工具もいくつか購入して(ペタルが財布を出そうとしたが流石にそれは断った)、アラネウムへ戻って、すぐに工作を始めた。


『ぺったんリング』は、いわば電磁石だ。

 動力が電気ではなく魔力というよく分からないものである以外に違いはあまりない。

 簡単に実験してみたが、鉄以外の金属は引き寄せないようだった。(ペタルに聞いてみたところ、例外として魔法の金属の中には引き寄せられる物もあるらしいが)

 ……ということで、俺は『ぺったんリング』を使ったコイルガンを思いついた。


 コイルガンとは、簡単に言ってしまえば電磁石を使って弾を飛ばす銃だ。

 ただし、威力はそんなに高くない。

 ……というか、あまり威力が高いコイルガンを作ると、今度はかさばったり値がかさんだりして実用的ではないのだ。それに、一回撃つごとに充電しないといけないから、下手すると1分に1発撃つことすら難しい。

 だが、この『ぺったんリング』を使うなら話は別だろう。

 充電無しで俺の魔力の続く限り撃つことができる。高威力にしてもかさばらない。

 そして、コイルガンの用途にぺったんリングを使うならば、出力していなければならない時間はかなり短くていい。ほんの一瞬でいい。というか、一瞬でなければならない。

 つまり、俺の魔力の量でもそこそこの回数が使えるであろう、という算段になる。

 エンブレッサさんは、1分程度なら使えるだろう、と教えてくれた。

 ということは、60秒。6つのぺったんリングを使っても、10秒分は稼働できる、ということだ。

 そして、弾を撃つのに半秒も稼働させている必要は無い。こればかりはやってみないと分からないが、少なくとも20発は弾を打つことができるだろう。


 ……ということで、恐らくこの『ぺったんリングを用いた疑似コイルガン』が、俺が使える最も弾数の多い護身要具になるだろう、ということだ。

 魔法の力がほとんど無い俺が、魔法の力1本で自分の身を守れるとは思えない。

 俺の強みがあるとすれば、俺がこの世界の人間……ディアモニスの人間であって、ピュライの人間ではない、というところだろう。

 この世界の知識を利用することで効率化を図れるし、ピュライの人間の目くらましにもなるはずだ。

 ……できれば、こんなものを使わないといけないような事態にはなりたくないが。

 だが、これで少しは安心できるようになる、と思う。




 元々手先は器用な方だと思う。

 工作の類も割と得意だ。

 そして必要な情報はこのネット社会を探せばいくらでも落ちている。

 そもそも、今回の工作はそんなに難しいものじゃない。

 おかげで、俺はその日のうちに疑似コイルガンを作り終えた。


「これが、銃、になるんだよね?」

 ペタルは銃そのものの知識は持っていた。勿論コイルガンの、ではなく、火薬を使った普通の銃の、ではあるが。

「撃ってみようか」

 弾になる鉄釘をセットして、頭の中に一瞬だけ、『マグネテス』と思い浮かべる。(実はこの制御ができるようになるまで案外大変だった)

 すると、ほとんど音もなく飛び出した鉄釘が段ボールを貫通した。

「……うわ、本当に銃なんだ」

「射程がどれぐらいあるかも分からないし、威力はそんなに高くないが……まあ、護身用、を名乗れるレベルかつ、殺人用、に達しないレベルの代物にはなっていると思う」

 ……殺されかけておいてなんだが、俺は人を殺したいとは思わない。むしろ、殺したくはない。積極的に人を殺さない道を選択したいと思う。これはこの世界に生まれてこの世界で育った俺としては当然のことだ。

「うん。いいと思う。……私、人を殺すのはあんまり好きじゃないんだ。どうしても、よくて気絶とか骨折までにしちゃう。きっと殺した方が良い、っていう時にでも」

 だから、俺はこの……魔法の世界で、かつ、この世界よりは余程物騒な世界であろう異世界から来た少女の言葉に、どこかほっとしていた。




「そういえば眞太郎」

 そして、ペタルはふと、気づいたように疑似コイルガンを見つめて言った。

「これ……持ってたら、『ホウリツイハン』なんじゃない?」


 成程、ペタルはこの世界の事をよく勉強しているらしい。勉強内容が大分偏っている気がするが。

「あの、もし、眞太郎がこの銃を使う事でディアモニスの約束を破ることになるんだったら、あの」

「ああ、大丈夫だ」

 ……実は、法律違反と言えば法律違反である。

 殺傷力のある物を正当な理由なく持ち歩くことは禁じられている。だから、コイルガンは外に持ち出すとアウトだ。

 そういう意味では、この疑似コイルガンも同様にアウト。

 だが。

「これはディアモニスの人間にとっては只の『指輪が嵌った塩ビパイプがちょっと銃っぽい形に組み立てられているだけの何か』だ。職質されても問題ない」

「へ?……あ、ああ、そっか!ディアモニスの人はピュライの道具なんて見ても分からないもんね!そっか、そうだよね、私だって、眞太郎が何も言わなかったら、これが銃だなんて全然思わなかった……」

 そう。この疑似コイルガンは『見つかってもバレない』。

 ……やはりこの世界に生まれてこの世界で育った俺としては、真っ当な……或いは、『真っ当であると完璧に言い訳できるような』武器であることに大きな意味がある。

 勿論、『見つかってもバレない』、つまり罰せられないだけであって罪ではあるのだろうが、どうやら俺の許容のラインはこの辺りにあるらしかった。

 ……まあ、こんなもんだよな。




 そして翌日。

 朝食はアラネウムの店内で、というように事前の連絡があったので、部屋を出てアラネウムへ向かう。

 ……すると。

「あ、眞太郎、おはよう。……紹介するね。この子が、泉ちゃん。私が居ない時とか、私が着いていけない場所とかで眞太郎の護衛をするアラネウムのメンバーだよ」

 ……。

「あっ、あなたがシンタロー!わーい、よろしくね!私、泉!今日から頑張ってシンタローの護衛するよ!」

 ……俺は目をこすってみたが、依然としてそこに不思議な光景があった。

 まあ……魔法があったんだから、この程度は、珍しくない、んだろう、な……。

「よろしく、お願いします……?」

 挨拶すると、『泉ちゃん』は、「まかせてー!」と元気に返してくれた。

『ペタルの手の上から』。

 ……泉ちゃん。

 今日から俺の護衛をしてくれる人だ。

 ちなみに、彼女の身長は15センチ。

 彼女はいわゆる小人である。


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