プロローグ
昔々、あるところにメルギスという悪い神様がいました。
口からは火を吐いて大地を燃やし、翼を羽ばたかせ冷たい風で木々を凍らせて、声を唸らせ辺り一面に稲妻を落としました。
あまりにも大暴れするので他の神様は困り果てていました。
ある日のことです。一人の勇敢な若者が一番偉い神様、ガリアスの元へやってきました。
若者の名はケストルと言いました。
「私が悪い神様をやっつけますので、どうか神様を倒す剣をください」
「あぁ、いいとも。ただし六つの試練を乗り越えたならその願いを叶えてやろう」
「わかりました、どのような試練でも乗り越えてみせましょう」
意気揚々と答えたケストルにガリアスは六つの試練を言い渡しました。それはとても困難で乗り越えれるようなものではありませんでした。
「どれか一つでも乗り越えることが出来なければお前の命はないだろう」
ガリアスは剣の使い道を危惧して最初から剣を与えるつもりはありませんでした。
それでもケストルは自分の願いのために試練に旅立ちました。
試練を乗り越えるには一人の力ではどうしようもありません。そこで山を超えた先の神殿で火の神エルドに祈りを捧げました。
「どうか私に試練を乗り越える力をください」
祈りが届いたのか目の前に燃え盛る剣が現れました。これならばどんな試練も乗り越えれるだろうと剣を片手に歩き始めました。
一つ目の試練は大食らいの獣でした。燃え盛る剣で切り倒すと、残った皮を手に進みました。
二つ目の試練は冷たい山の牡鹿でした。獣の皮を着ていたため凍えることなく牡鹿の首を切り落としました。
三つ目の試練はホローホーホー鳥でした。悪夢に苦しみましたがケストルの体が燃え上がり悪夢に苦しむことはなくなりました。
四つ目の試練は影に潜む蟲達でした。剣の炎が照らしてくれたため恐れることはありませんでした。
五つ目の試練は渇いた海の鰐鮫でした。喉の渇きに苦しみましたが糸で鰐鮫を捕まえて切り倒しました。
六つ目の試練は生贄の森の世界樹でした。とても長い旅になりましたが燃え盛る剣で根本から焼き払いました。
こうして試練を乗り越えたケストルはガリアスの元に帰ってきました。
ガリアスは大変驚きましたが約束通り神様を倒す剣をケストルに与えました。
「ありがとうございます、これで悪い神様を倒すことが出来ます」
感謝をしながら剣を受け取ると早速に悪い神様の討伐に旅立とうとしました。
「待ちなさい、行くのであれば彼の者を連れていきなさい」
ケストルを呼び止めると火の神エルドが現れました。剣を悪いことに使わないように見張らせることにしたのです。
こうしてケストルとエルドの二人は悪い神様を倒すための旅に出ました。
森を抜け、川を越え、山を越え、谷を渡り、幾つもの季節が巡った末に凍てつき、燃え盛る大地にたどり着きました。
悪い神様メルギスは二人を見ると吠え立ててあちこちに稲妻が落ちました。これではすっかり近づけないので困ってしまいました。
「せめて弓があれば良いのだが」
「ならば燃え盛る剣を返してもらえれば弓を貸してやろう」
エルドの言うとおりにケストルは剣を返しました。するともう一つ剣を取り出して一本に繋げると瞬く間に弦が張られて立派な弓が出来上がりました。
これならばとケストルは弓を構えると神様を倒す剣を矢の代わりにして勢い良く放ち、見事にメルギスの胸へと突き刺さりました。
けたたましい叫び声とともにメルギスは土くれのように崩れ去りました。
二人はガリアスの元へ戻ると悪い神様を倒したことを報告しました。
このことに満足したガリアスはケストルにたくさんの褒美を与えました。
ケストルは生まれ故郷に戻り母親と一緒に裕福に暮らした。もし、まだ死んでいないのならば今もまだ生きている。
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これはね、おとぎ話なんだけれど昔に本当にあった物語。人と神様が織り成した英雄たちの神話。
誰かに、みんなに伝えたいからおとぎ話になって語られるの。
まだ眠くないならもう一つお話を読んであげるね。
どうしても伝えたい物語、ある英雄の神話物語。