ケルベロス、買い出しから戻る 8
「冥界は良いところだよ。みんなもおいで?」
「誰に向かって言ってるんスか……」
独り言だよ、といつもの暗い抑揚でハーデスは答えた。
しかし本当、冥界は割と良い場所だと思う。少なくとも人間が言うほど悪くない。まあ悪人は地獄行きなので、確かに悪い場所だが……ひょっとして地上で生きてる人間達って、みんな悪人なんだろうか?
「……そういえば、最近はみんな遊びに来てくれないよね。ヘラクレス君は随分前に来たのに」
「いや、俺あいつ苦手なんスけど」
「? どうして? 傷付けたりしない条件だったじゃないか……」
「そりゃあそうッスけどねえ」
番犬が捕まるだなんて、格好悪いったらありゃしない。
そう、ご存じヘラクレスの十二の難業だ。うちの一つに、ケルベロスを捕まえて来い、というものがある。このためヘラクレスは、ハーデスと面識がある英雄だ。
ケルベロスは当時、主人が脳筋野郎を突っぱねると思っていた。何てったって真面目な人である。さすがに愛犬を初対面の他人には渡すまい。
が。
「ハーデス様が許可するとは思わなかったッス……」
「だって、彼だって困ってるわけだし……もともとは十の難業で、文句言われたから増やされたんでしょ? 力になってあげたいなー、とは思うよ、うん」
「いやでも、ねえ」
やっぱり、番犬のプライドは許さない。