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オデュッセウスに胃薬を! 3

 その世界は、地平線まで続く草花で埋め尽くされていた。

 冥界の楽園・エリュシオン。死後、善行を積んだ魂や、英雄の魂が行きつく場所。ある女魔術師によって管理され、住人は平穏な日々を送っている。


 ハーデス一行にとっては、初見といってもいいぐらいの土地だった。昔はそれなりの頻度で出入りしていたのだが、ご存知の事情により最近では足を踏み入れていない。


「ねえ、まだー?」


「まだです、旦那様。もう少し頑張ってください」


「もう我、歩けないよ……」


 出発して十分も経たない間に、ハーデスは根を上げていた。

 もちろん彼以外のメンバーはキビキビと先に進んでいる。嫁のペルセポネなんて先頭を仕切っているぐらいだ。


「それに日差しが……ああ、蒸発しちゃうよ」


「ヴァンパイアじゃないんですから、ちゃんとしてくださいっ! そもそも日差しに弱いのはケルベロスの方じゃありません? ねえ?」


「そうッスねえ。俺、いま目を開けるだけでも限界ッスよ」


「もやしっ子ばっかりですね……」


 ずっと地下で暮らしてるんだから、少しは多めに見て欲しい。

 その点についてはペルセポネも同じだろうに、彼女は少しもひるんだ様子を見せなかった。むしろ生き生きとしているぐらいで、その白い肌も眩しいぐらいの美しさを放っている。


「ところでオデュッセウスさん、一番最初に会うのは誰なんですか?」


「メラネオス様ですね。ヘレネ様も一緒でしょうから、お二人とも誘う予定です」


「お、ヘレネちゃんですか。いいですねー、一度でいいから会ってみたかったんですよ!」


 スキップしながら足を運んでいく辺り、言葉には少しの嘘もないらしい。


 絶世の美女・ヘレネ。叙事詩イリアスにて語られる大戦、トロイア戦争の原因ともなった美女だ。

 彼女はメラネオスの妻だったのだが、トロイアの王子である美男子、パリスにとってトロイアに攫われてしまう。メラネオスは彼女の返還をトロイアに求めたが、拒否され戦争に――というわけだ。


 そのヘレネ、美女というだけあって神の血を引いている。血縁上はハーデスの姪であり、ペルセポネにとっては腹違いの姉妹だ。つまり父親はゼウスである。


「そういえばメラネオスさんってどういう方なんです? 私、会ったことないんですけど」


「メラネオス様は、そうですね……兄のアガメムノン様と比べると、物静かなお方ですよ。ご自身の才覚を隠している、という雰囲気もありますかね」


「お兄さんがいますからねー」


 メラネオスの兄、アガメムノンはギリシャの盟主、王の中の王、とも呼ばれた有力者だ。

 その弟である彼もまた、ヘレネと結婚したことで大国の主となった男。兄弟の有能ぶりには、優劣をつけられるほどの差はないんだろう。


 ふとペルセポネは、へばり切っている夫を一瞥する。


「――旦那様も才能を隠すタイプですね! ええ!」


「な、なんだか憐みが籠ってるような……」


「お気になさらず! さあ、ゴーゴーですよ!」


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