こっち来ないでください! 5
「わ、我にいい考えがあるよ! 我よりもっと公正なルールが!」
「はぁ!? 誰も公正なんて求めてないわよ! アタシに有利なルールを出しなさい、アタシに有利な!」
「む、無茶苦茶だ……!」
もはや追いつかれたも同然の状態。割と至近距離で会話する兄妹は、いつか城の外へと出ていた。
普段なら起こらない、ハーデスの外出。
タルタロスへの移動と、立て続けに起こった事態へ人々の視線が集まる。
「おお、ハーデス様!」
一番最初に反応したのは、裁判官の一人アイアコスだった。
有象無象のモブ達は、冥界王の名前を聞いて竦み上がっている。……真実を知ることが出来れば、その恐怖はどれだけ軽減されることか。
「あ、あら」
慌てているのはヘラも一緒。
体裁だけは取り繕おうと、彼女は急に上品な振る舞いへ戻っていく。
まあ、それが強引なものであることは明白だった。実際、こめかみに青筋が走っているし。
「……おお、これはヘラ様。お久しゅうございます」
「え、ええ、久しぶりねアイアコス。元気だった?」
「この通り。ハーデス様はとてもお優しい方ですし、尽くす意味もあるというものです」
「……だ、そうッスよ?」
ハーデスの心には、重く響くだけだった。
一方、アイアコスとヘラの間には重い空気が漂っている。……当然か。アイアコスはゼウスが浮気をした結果生まれた子供であり、例によってヘラから虐げられた経歴を持つ。
「じゃ、じゃあ私はこれで。お兄様、ちゃんとルールを、カンガエテオイテネ?」
「なんでカタコトなのさ……」
ハーデスの疑問に答えることなく、ヘラは来た道を戻っていく。