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こっち来ないでください! 3
「だ、旦那様が外に! やったぁ!」
「こらぁ! アタシから逃げんじゃねえわよ!」
それでも構わず、ハーデスは走る。ケルベロスも一緒だ。
ハーデスは自分の足できちんと走っている。愛犬の背中に乗ることも選択肢の一つだろうに、何故かその方法は選ばなかった。
「……俺に乗らないんスか?」
「い、いや、それは動物虐待かと思って」
「珍しくハーデス様からまともな台詞が出たッスね」
「そ、そう? って、仲良く話してるじゃ場合じゃないよ!」
後方。怒号を上げて、猛烈なスピードで追いかけてくる影がある。
ヘラだ。
「ごるああぁぁああ! 逃げてんじゃねえわよ! あとそこの犬! 捕まってアタシのペットになりなさい!」
「い、嫌ッスよ!」
ケルベロスはハーデスを咥えると、無理やり自分の背中に乗せる。
風を切るように走る、三つ頭の犬。趨勢は一気にハーデスへと傾いて――
「待てっつーの!」
「ちょ、ちょっと!? どうしてケルベロスより速いのさ!?」
「母の力よ!」
わけ分からん。