迷惑千万な女神たち 8
「……えっと、このことについては忘れるってことで、どう?」
「駄目です!」
「そうよー」
開いた口が塞がらないとはこのことで、ハーデスさらなる絶望の底に沈んでいく。
ケルベロスは静かに欠伸をするだけだ。女神同士の争い、首を突っ込む気は毛頭ない。自殺行為だし。
「――でもちょっと待って。ハーデスちゃんが審査員なのは、私に不利じゃない?」
「っ!」
ハーデスの表情が一変する。
そう確かにその通りだ、考えるまでもない。
「じゃ、じゃあ誰に審査を頼むんです?」
「んー、そうねえ、ここはヘパイストス様かアレスちゃんに――」
「旦那と愛人ですよね、それ! 何をどう考えたってイカサマなんですが!?」
「えー、いいじゃない。私の美貌に免じて許してー」
「許しませんっ!」
火花を散らしながら、いっそう強く睨みあう二人。
もう仲裁は諦めた方がいいんじゃないだろうか? どっちも譲る気配はないし。
「仕方ありません、こうなったら腕っ節で勝負です。それだったら私が絶対勝てます」
「私が絶対に負けるじゃないー。だからここは公平に、美しさで勝負しましょう。女神だったら、当然ノってくれるわよねー?」
「う、うぐぅ……また断り辛い条件ですね」
「でしょでしょ? そうと決まれば始めましょ。審査員は――」
「ちょーっと待ちやがりなさーい!」
爆音を鳴り響かせ、言い訳の余地もない勢いで扉を粉砕する某女神。
「アプロディテと勝負ですって!? このヘラ様を混ぜないたぁ、いい度胸じゃない!」
「うわぁ……」
今すぐにでも逃げ出したい男性勢二名。
諦めを含めた声が、揃って口から漏れていた。