兄に勝る弟などいないっ! 1
「伯父貴!」
「伯父上!」
ハーデスの目前に来るなり、二人は同じタイミングでテーブルを叩いた。見事な息の合わせっぷりである。
もちろん、本人たちの間には協力関係なんてない。兄弟なのにいがみあってばかりいる、ハーデスにとっては困った甥たちなのである。
片方は随分と体格のよい美丈夫だった。名は軍神アレス。戦いにおける狂気など、戦争のマイナス面を象徴する存在である。彼にとって地上で戦死者が出ることは喜びであり、冥界にとってお得意様の神だった。
アレスの横に立っているのは、彼に比べるとやや体格の細い青年。
穏やかで真面目そうな顔をした男だ。眼鏡をかけているところが、余計に争いごとから距離を置いているような雰囲気を与えている。
こちらはヘパイストス。アレスの兄に該当する鍛冶の神。見掛けによらず戦闘もこなせる神で、有名なトロイア戦争でも川の神を屈服させた実力者だ。
「ああもう……どうしたの?」
ハーデスにとって、やはり甥や姪は可愛いもの。子供がいないこともあって、普段であれば真摯な態度で迎えてやりたいところだった。
しかし、この二人が並んでいるとくれば事情は異なる。
アレスは、ヘパイストスの妻アプロディテの不倫相手なのだ。
「伯父上、この男になんとか言ってやってください。懲りもせずに、妻のことを追いかけ回しているのです」