ようこそタルタロスへ! 10
「なんか、マイペースなお父さんだったね」
「そうッスね。あーでも、久々にみんなと会いたいッスわ……ヘラ様のところにいけば、会えるんでしょうけどね」
「まあヒュドラとかラドンとか、きっちりコレクションされてるしねえ……」
そしていずれも、ヘラクレスに倒されている。
原因としては、ヘラがヘラクレスに恨みを持っていることだろう。ヒュドラなんて、彼を殺すためにヘラが育てたと言われている。
オルトロスとラドンは、ヘラクレスが冒険を繰り広げる中、目的地での番人として立ちはだかった魔獣だ。
「ヘラクレスって、ゼウス様の再来って感じッスよね。神になったときも、ヘラ様の娘を嫁にもらったんでしょ?」
「そうそう、ヘベちゃんをね。……やっぱりヘラ、ツンデレなのかな?」
「本人の前では禁句ッスね」
「いや、本人の前じゃなくとも禁句かもよ……?」
確かにヘラは、極めて高い情報収集能力を持つ。ゼウスの浮気調査にしか発揮されないが、例外がないとも言い切れない。
口にして恐ろしくなったのか、ハーデスはキョロキョロと辺りを見回す。
「まったく、何を怖れとるんじゃ。長男なんじゃから、もっと堂々としておれ」
「そうですよ旦那様。……まあ、ヘラ様より生まれたのは後なわけですけど」
「べ、別に関係ないよ! ほ、ほら、ヘラは我の姉であり妹なわけだし!」
「苦しいですねー」
しかし、間違っているわけでもない。
クロノスから吐き出された瞬間を、ハーデスたちの間では二度目の誕生とされている。生まれた順に飲み込まれたため、二度目を基準にするなら、ハーデスはヘラの兄という立場だ。
「だとすると、長男という地位を手放すことになりますけど?」
「うっ」
「いやですよねえ。旦那様、何かと長男であることにこだわってますし」
「だって、ゼウスが仲間外れにするんだもん……我だってオリュンポス十二神に数えられたいよ」
「属性が違いますからね。まあ、私がいるからいいじゃないですかっ」
「せ、セポネ……」
ここぞとばかりに、妻としての役割を果たす彼女であった。