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ケルベロス、買い出しから戻る 2
結局。ケルベロスがいくら強引な方法を取っても、ハーデスは外に出ようとしなかった。
しかし諦めるのも気分が悪い。彼が部屋に引き籠ってから、もう数十年は経っている。冥界の業務についても、そろそろ問題が生じてくる頃だった。
「ハーデス様、裁判官の皆さんだって困ってるんスよ?」
「いいじゃん別に……我、冥界王なんだからさ。彼らだって優秀な人材なんだし、仕事は問題なくこなしてるでしょ?」
「そらそうッスけど……」
ハーデスの補佐官でもある彼らは生前、善政の王として名を馳せた人物ばかり。
王ミノス、その弟ラダマンティス。そしてアイアコス。いずれもハーデスにとっては弟ゼウスの子供――つまり甥に当たる。今日も彼らはせっせと、伯父のために死者を裁いていることだろう。
「でもいいんスか? 伯父としての面子丸潰れだと思うんスけど」
「べ、別に気にしてないし……だいたい彼ら、ゼウスから色々吹き込まれてるんじゃないの? あの時だってさあ……」
まったく、と溜め息混じりに語るのは、妻に関するいざこざである。