頑張れお兄ちゃん! 7
ケルベロスはそれとなく、部屋から立ち去ろうと腰を上げる。
しかしその尻尾をヘラが掴んだ。必死に振り解こうとするとするケルベロスだが、彼女の握力が思いのほか強い。さすがアルテミスを叩きのめした女神である。
「だ、駄目に決まってるでしょ!? 我とペルセポネの可愛い番犬だよ!?」
「はあ? 何で駄目なのよ。ヘラクレスなんかには連れて行くのを許可したじゃない」
「いや、あれは色々と条件付きで……」
「じゃあ、私も条件を出してやろうじゃないの」
嫌な予感しかしない。
そうねえ、とヘラは腕を組んで思案する。ハーデスは逃げるために『姿隠しの兜』をかぶろうとするが、やっぱり重すぎてバランスを崩していた。
それを目にしたヘラは、一言。
「アンタも老いたわねえ。お父様と争ったティターノマキアでは大活躍だったじゃない」
「あ、あの頃と今は違うんだよ……ティターン神族の武器なんて、持てっこないって……」
自分の兜すら被れないんだから、当り前である。
ティターノマキアとは、ゼウスを始めとする神々が、父・クロノスを頂点とするティターン神族との争いを指す。ハーデスは子の戦いで、敵の武器を奪うという大活躍をするのだが――
「昔のアンタが今のアンタを見たらどう思うか……」
「やっぱりこうなったかあ、ぐらいじゃない?」
「いや、間違いなく失望すんじゃない? 当時は私、アンタはきちんと長男してたように見えてたんだけど」
「そ、そう?」
満更でもないようで、ハーデスは嬉しそうに頬を緩ませている。
「――ともあれ、ケルベロスは貰ってくわよ」
「いや駄目だって!」
ちっ、と露骨な舌打ちが聞こえていた。