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頑張れお兄ちゃん! 1
「……何の用だい?」
来客と向き合うハーデスは、誰から見ても機嫌が悪かった。
意気消沈したまま頷くのは、弟の一人ポセイドン。神々の王、ゼウスに近いポジションの神で、地上や海の支配権を与えられている大物である。
ハーデスは、当然ながら嫌っていた。
ポセイドンの方もあまり兄とは関わっていない。神々が集まるオリュンポスにおいても、ハーデスははぶられることが大半だったし。
「本日は、その、兄上にお願いしたいことが……」
肝心のポセイドンは、何やら問題を抱えている様子。
ケルベロスとペルセポネは完全に外野だった。後者については、クッキー食べる? と愛犬に差し出す始末。
もちろん断らない。ケルベロスは弱点の一つに、甘い食べ物があることだし。
音楽を聞いたら眠ったりと、番犬としては案外ガバガバなのである。
「で、何?」
「……兄上に頼みたいのは、私の愛人であるメデューサについてでして」
「む、あの蛇の子かい?」
はい、と頷くポセイドンには、まだまだ元気が戻っていなかった。