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ケルベロス、買い出しから戻る 9
「いいじゃないか。彼に乱暴されたわけじゃないんだし」
「そりゃあハーデス様、約束させたッスからねえ。ヘラクレスのやつも律儀に守ってくれたッスよ」
「良かったじゃないか……」
やれやれ、とテレビ画面に向き直るハーデス。愛犬の気持ちにコレっぽっちも気付かない辺り、自分の行いに疑問はないらしい。
この辺りは王様だな、とケルベロスは声に出さず感心する。ヘラクレスが大変な環境に置かれていたのも事実だし、協力してやるのは親族として当り前かもしれない。
人間界でも有名だろうが、ヘラクレスはゼウスが浮気をして作った子供だ。正妻であるヘラは、いつものように激怒。勝手にイロイロされたこともあり、彼の妻と子供を殺したりもしている。
その後、ヘラクレスが罪滅ぼしに受けたのが数々の難業だ。それらの功績もあり、彼は死後、神の座に迎えられたとか何とか。
「はあ、誰か来ないかな。せっかくだから皆でモン――」
「旦那様ー」
明るさに満ちた、一周して心配になるぐらい能天気な声。
――ハーデスの妻、ペルセポネがそこにいた。