序言 ギリシャ神話を知っていますか?
ギリシャ神話をご存じだろうか?
浮気者の大神ゼウスが支配する世界における、人間味がありすぎる神々と英雄のストーリー。芸術や思想など、多数のジャンルにもその影響が出ている神話だ。北欧、インド神話と並び、世界三大神話の一つでもある。
ギリシャ神話のストーリーはまず、ゼウスの祖父から始まる権力の奪い合いにある。
神々の王としてその座を確たるものにするゼウスだが、彼は最初から王として迎えられていた――わけではない。
ゼウスの父クロノスは、自身の子供達に王権を奪われると予言されていた。
それを警戒したクロノスは、生まれた子供たちを次々に飲み込んでしまう。ああ、別に神様なので消化されて死んだ、なんてことはないので安心してください。
で、肝心のゼウスも飲み込まれ――はしなかった。母の作戦により、彼は無事に外の世界で成長する。
成人したゼウスは父を倒し、兄妹達を救うべく立ち上がった。
首尾よく兄弟達をクロノスから解放すると、親子の間に戦争が起こる。十年に続く戦いだったが、ゼウスはこれに勝利。自身の王権を確立させた。
そこでゼウスは、世界の支配権を二人の兄と分けることにする。
一つは天界、もう一つは地上界、そして最後に死者の国である冥界。
この結果、ゼウスは天界を。
次男であるポセイドンは地上を。
長男であるハーデスは、冥界を引き当てた。
さらにゼウスは王権を支えるため、自身を含む十二柱の神を選出する。
神々の王・ゼウス
王妃・ヘラ
ゼウスの兄妹・ポセイドン
豊穣神・デメテル
家庭の守護神・ヘスティア
都市の守護神・アテナ
狂乱の軍神・アレス
文芸と牧畜の神・アポロン
狩猟と純血の女神・アルテミス
美の女神・アプロディテ
鍛冶の神・ペパイストス
旅と伝令の神・ヘルメス
以上、十二の神がゼウスの治世を支えることになりましたとさ。
そこにハーデスの名前はない。
……冥界の統治を引き当てた時点で、ハーデスは貧乏くじを引いた、と表現してもいいかもしれない。
地上界にしろ天界にしろ、そこは光の指す世界だ。神々が起こすトラブルの舞台ではあるけれど、冥界よりも明るいイメージがあるのは間違いない。
冥界は死者の国だ。そこは太陽の光がない、冷たい地下世界でもある。
長男のハーデスは神話上でも出番が少なく、兄弟でありながらゼウスの王権を支えた者として扱われることもない。
なので彼が捻くれてしまっても、少し多めに見てほしいというか。
この物語はそんなハーデスの、静かなんだか騒がしいんだかよく分からない日常のお話です。