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彼女は生き物に好かれやすい  作者: 彼岸花
第三章 亡き乙女に音色は届かない

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幕間三ノ四

 日本国首都・東京。

 世界でも有数の大都市であるこの街に、そのビルは建っていた。

 そのビルは東京を一望出来るぐらいには高く、しかし他のビルと比べて目立つほどではない。外壁は少しひび割れ、古臭さがあるものの、かと言ってそれで周りから浮いて見える訳でもない。月が昇り、暗闇の中で人工の明かりを灯していても、周囲のビルも明かりを点けている中では場に溶け込むだけ。

 言うならば、地味な建物。或いは何人の注意も寄せ付けない……異質な存在。

 そんなビルの一室に、『彼女』は居た。

「……そう、分かったわ。ありがとう」

 『彼女』は部屋の窓から、星空を掻き消すほどに眩い夜景を眺めつつ、スマートフォン越しの誰かと話をする。その言葉遣いは明確に尊大であり、自信と説得力に溢れ、上に立つ者の貫禄を放っていた。着こなす純白のスーツも上質な素材を使い、気品あるデザインは自らの地位を誇示するかのよう。彼女は誰かの下で働く存在ではないと、対面した者は瞬時に理解させられる事だろう。

「じゃあ、後は可能な限り数を揃えてちょうだい。人員と資金に関しては問題ないわ。そちらは私に任せなさい――――全ては、人類の永遠の繁栄のために」

 電話を切り、ふぅ、と『彼女』は息を吐く。

 そして外界を一望出来る窓から、自身が居る部屋の方へと振り向いた。

 天井のシャンデリアは黄金の煌めきを放つ。

 寝台を彩る装飾は絢爛豪華なデザイン。

 壁に立て掛けられた幾つもの絵画は味わいある色彩で人の心を魅了する。

 全てが、富。成り上がりの長者や、あぶく銭では決して届かない、最高峰の財で部屋の中は満たされていた。

「……アイツはこの辺りが引き際とか思っているのかしら。生憎、老いぼれと違って私は諦めが悪いの」

 その財の中で『彼女』は虚空に手を伸ばし、掴み取るように拳を握り締める。

「人類は知性を得た時より自然に戦いを挑み、積み重ねた勝利によって今の繁栄を勝ち取った。自然は克服せねばならない。自然を受け入れれば、人はその数を万の単位すら維持出来ず、倫理は破壊され、作物一つ実らせる事を拒絶される。なんの保護もなく、安らぎもなく、蹂躙と無秩序の中で、やがて滅ぼされる。自然は人類の味方などではない。人類は自らが得た力に溺れた事で、自然を見下し、それを忘れている」

 『彼女』は窓に寄り掛かる。

 その背中に広がる、一千三百万を超える人々の営みを背負うように。

「我々が守らねばならない。人が認知していない自然の驚異を、我らが摘み取る。人類の、繁栄のために」

 そして、『彼女』は嗤う。

「人類にはもっと増えて、我々のために働いてもらわないとね。そろそろ新しい自家用飛行機が欲しいところだったし……折角掴んだこの立場、まだまだ旨味を堪能したいんだから」

 その瞳に、絶対的な捕食者の眼光を宿して――――






















 第四章 世界の支配者







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