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彼女は生き物に好かれやすい  作者: 彼岸花
第十章 目覚めるパンドーラ

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幕間十ノ十一

 一人の男が、夜の森を駆けていた。

 男は一風変わった恰好をしていた。頭にはフルフェイスのヘルメットを被っており、靴は汚れや衝撃に強い無骨なブーツを履いている。着ているのは鎧のようにゴツゴツとした迷彩服だったが、その迷彩服からは小さなモーター音が鳴り、機械が仕込まれている事を物語っていた。

 そして男の手には、身の丈近い長さはあろうかという巨大な銃器が握られている。

 男は服に仕込まれている機械の力を借りているのか、険しい崖のような坂道もすいすいと駆け上がる。実に逞しい姿だったが……しかしヘルメットの奥にある目は潤んでいて、今にも泣き出しそうだった。

「ひっ、ひっ、ひっ」

 男の口からは悲鳴の出し損ないのような声が漏れる。相変わらず足取りは軽やかなのに、段々と乱れ、体幹のバランスが崩れていく。

 ついに男は木の根に蹴躓き、転んでしまった。男はその弾みで手を開いてしまい、大事に掴んでいた銃が地面に落ちる。

 途端、衝撃で引き金が動いたのか。銃口が独りでに火を噴いた。

 男は銃声に慄き、頭を抱えて蹲る。ガタガタと震えるばかりで、身動きを取らなくなった。されどやがて我を取り戻すと、慌ただしく辺りを見渡し、立ち上がるやすぐに走り出す。自分が持っていた銃になど目もくれずに。

 男は走り続けた。何度転んでも、何度も起き上がり、がむしゃらに前へ進み続ける。鬱蒼とした森の中、自分が真っ直ぐ走れているのかを確かめる事すらせずに。

 やがて藪を抜けた男は、突如として目に入った光に慄いた。

 最初身を守るように腕で顔を覆っていた男だったが、しばらくして恐る恐るその腕を退ける。と、男の眼に映り込んだのは、百メートル前後先まで続く木々と、その奥にある近代的な住宅地だった。

 男は幸運だった。森の中をがむしゃらに、訳も分からず走っていながら、正確に森を抜けるルートを通っていたのだ。

「はっ……はっ……ああっ……!」

 言葉に出来ないほどの喜びに満ちた吐息を吐きながら、男は目前にある人の住処へと無意識に手を伸ばした。

 男の幸運はここまでだった。

 手と共に前へと伸ばした足に、何かが抱き着いてきたのである。

「は、え、うひ!?」

 男は悲鳴を上げるも、それ以外の事はしない。何故ならば抱き着かれた男は、一瞬にしてその身を森の奥まで引き戻され、

 ぐちゃりと、音を立てたのだから。















「……次の任務はこれか」

 迷彩服を着た一人の女性が、手にしていたタブレットPCを眺めながらそう呟く。

 女性の隣には一人の青年が立ち、力強い声で肯定を示す返事をした。

「はっ! 緊急度A! 戦闘員は緊急度B以下の全ての任務を一時中断し、本作戦に参加せよとの事です!」

「妥当だな。予想戦闘力と個体数からして、むしろこのままでは遅いぐらいだ」

 女性はタブレットPCを青年に向けて投げ、青年は投げられたタブレットPCを受け取る。女性は青年に見向きもせず、肩に担いでいた銃器を手に持ち、簡単な整備を始めた。

 その最中に小さな息を吐く。

「任務の件、了解した。本部には次の任務が終わったら今度こそ休暇を寄越せと伝えておけ」

「了解しました! とびきりのボーナスも追加しておきます!」

 彼女の言葉を受け、青年は明るく承って駆け足で一足先に移動する。

 彼女は手にした銃の整備を続け、一通り終えるとその銃を再び背中に掛けた。

「……何故、タヌキ共は動かん。これほど人里近くでありながら、どうして……」

 そしてぽそりと、疑問を呟く。

 しかしその疑問に考え込む事はなく、彼女は力強く歩いてこの場を後にした。
















 体長三十メートル近い、巨大なワニの死骸を残して――――






















 第十一章 未来予想図







不穏な世界、怪しげな組織、そして危険生物。

次章ではこれらが動き、本作の世界観をどっぷり披露する事になります。

つまり何時も通りだ!(オイ)


次回は12/2(日)投稿予定です。


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