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彼女は生き物に好かれやすい  作者: 彼岸花
第九章 女神の美食

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幕間九ノ十

 ロシア南部に位置する、とある山脈地帯の一角。岩と地面しか見えない開けた場所に、防寒着を着込んだ三人の男達が居た。

 彼等はツルハシやハンマーを持ち、足下をじっと見つめている。彼等の目線の先には、周りの地面と色合いの異なる、大きな岩が転がっていた。

 岩の大きさはざっと長さ二メートル、太さは一メートルほど。元はもっと長かったのか両端はへし折られたかのような歪な断面をしており、全体的には円柱形をしていた。岩の表面には編み目のような凹凸があり、断面には薄らとだが、渦のような模様が刻まれている。周りの地面や岩は白味の強い色合いだが、この岩はかなり黒味が強い。

 素人目には不思議な模様の岩に見えるだろうそれを、男達――――古生物学に精通する学者達は、木の化石である事を見抜いていた。

「……探していたのは、恐竜の化石なんだがな」

「これはこれで希少ですよ。一般受けはしませんけどね」

「多分洪水などの災害で折れたのだろう。周囲を掘ってみよう。樹幹や根っこ、花や葉の化石が見付かるかも知れない」

 三人の中で一番年上の男の意見に、二人の男は頷いて同意する。彼等は各々がノミやハンマーを握り締め、周囲に散り、思い思いに掘り始めた。

 石が砕ける音、風が吹き荒れる音、誰かが移動する足音……無言のまま作業だけが刻々と進んでいく。

 やがて年長者の男が掘り起こした場所から、黒い粒が一つだけ出てきた。

「……これは……」

 年長者の男は粒を摘まみ上げ、じっと眺める。

 最初はその小ささに苦戦するように、彼は顔を顰めていた。やがて残念そうに口を曲げ――――ハッとしたように目を見開き、慌ただしく辺りを掘り進める。

 ころころ、ころころ。黒い粒は幾らでも出てきた。他の粒よりもずっと大きな、握り拳ほどもある丸い塊も一つだけ出てくる。気付けば男は、何十もの黒い粒と、たった一つだが握り拳ほどの塊を掘り起こしていた。

「おい! こっちに来てくれ!」

 男は発掘作業中の二人を、大声と手招きで呼ぶ。年長者からの頼みに、二人は自分の作業を止め、駆け足で寄ってきた。

 年長者の男は、これを見てくれ、と言わんばかりに両腕を広げ、二人の男に自分の掘り起こしたものを見せる。二人の男はそれがなんなのか分からないようで、首を傾げた。

 だから、年長者の男は言葉で伝えた。

「種子だ。六千九百万年前の地層から出てきた、化石化していない種子だよ!」

 これが、どれだけ大きな発見であるかを。




 彼等は知っている筈だった。


 この世には人智の及ばない怪物が……生身で宇宙を渡るような生物や、その生物を叩き伏せる化け物が存在する事を。


 されど彼等は気付かなかった。


 自分達の掘り起こしたものが、どれほどの生命体であるかを。数千万の年月を超えた生命が、自分達の手に余るという可能性を。


 故に彼女は目覚めた。


 世界に絶望と偽りの希望を与える、厄災の力を秘めた彼女が――――






















 第十章 目覚めるパンドーラ







ロシアでの出来事ですが、

学者達は日本からやってきた日本人です。

なので次回の舞台も日本人です。


次章もよろしくお願いいたします。


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