吐くくらいには
「大丈夫」
口癖のようになったその言葉は、本音なのかも分からなくなってしまった。
貼り付けた笑顔は嘘くさい。
キリキリと痛む胃はもう限界だと訴えて、込み上げてくるのは胃酸。
最近では食事もまともに喉を通らなくなった。
逆流してくるそれは胃と喉を焼く。
吐けるならまだいい方なのかな、とぼんやりした頭の中で思いながら蛇口を強く捻る。
『もっと頑張んなよ』
聞こえて来たのは記憶の奥底に閉じ込めた言葉。
何度も言われてきた言葉は簡単には消えてなくならない。
頑張ってるんだけどなぁ……。
嗚咽を漏らして苦しくて気持ち悪くて、涙が出てくる。
こうやって吐くくらいには頑張ってるんだけど、といつも思う。
「……大丈夫?」
優しくさすられる背中。
ゆっくりと視線だけを向ければ幼馴染みが困ったような顔をしていた。
私も少しだけ眉を下げて笑う。
だが未だ襲ってくる吐き気には勝てずに、再度洗面台に顔を伏せて、込み上げてきたものを吐き出す。
口をゆすいでも残る酸が気持ち悪い。
「……吐くくらいには、元気だよ」
そうだ、吐くくらいには頑張ってる。
そして吐く元気は残ってるんだ。
自分で言った言葉を繰り返しては自嘲気味に笑う。
胃に穴が空いたわけでもないし、血を吐いたわけでもない。
笑う私を見て幼馴染みが泣いた。
涙の膜が張っていても私は笑える。
ぼやけた視界の中で、私のことを思って泣いてくれた幼馴染みは見ないふり。
きっと、気のせい。
吐くくらいには……。