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復帰

『〔エクスチェンジ〕機能のチュートリアルを開始します』


 ……これはあれだな。

 間違いなく例の『声』だ。

 思わずユニの方を見ると、かわいらしく口を開けて停止している。

 やっぱりユニにも聞こえているのか。


「……ユニ、お前にも声、聞こえるんだな?」

「は、はい、ジオ様、これが……?」

「おう、例の『声』だ……とりあえずお前も一緒に聞いていてくれ」

「は、はい」


 膝をそろえて座り、一言も聞き逃すまいと『窓』を見つめるユニ。

 それを待っていたかのように、『声』が再び話し始めた。


『〔エクスチェンジ〕機能のご使用に関してご説明させていただきます。〔エクスチェンジ〕機能はゲーム内特殊通貨ジットでご使用になれます。ジットはイベントや特定のボスを倒すなどすることで獲得出来ますが、VRマネー1YEN=1Zとしてご購入することも出来ます。』


 ジット。ジットってあれか。

 ハーピークイーン倒した時なんかそんなこと言っていたな。


『〔エクスチェンジ〕は3種類あり、100Z消費するシルバーコース、500Z消費するゴールドコース、1000Z消費するプラチナコースがございます。景品は多種にわたり、お守り人形、エリクサー、経験値促進薬、レアドロップ促進薬などから、コモン装備、レア装備、SRスーパーレア装備、URウルトラレア装備まで3000種以上ご用意してございます。交換はコース毎に約50種類を厳選し、その中からの完全ランダムとなっておりますが、SRスーパーレア装備が当たる可能性があるのはゴールドコース以上、URウルトラレア装備が当たる可能性があるのはプラチナコースのみでありますので、ご承知おきください。なお、景品の内容は一ヶ月毎か期間限定イベントで更新されますのでご承知おき下さい』


 ……これはあれか。

 宝くじ(ラッキーチケット)とか、賭け事とかそういうやつか?

 運が良けりゃ良い物が当たるぞ、と?

 それにあのジットとかいう耳慣れない金を使えって訳か。


「ユニ、今までZなんていう通貨、聞いたことあるか?」

「……いえ、寡聞にして聞いたことはありません……この『声』の言いようではダンジョンの主を倒せば手に入る、というような事ですが……それならもっと知られていても良いはずですが」

「……だなぁ。って事は他の奴らがダンジョンに潜ってもZは手に入らないって事なのか?」

『100Zを付与いたしますので、実際に〔START〕をタッチして〔エクスチェンジ〕機能をお確かめください』


 おっと。

 また新しい『窓』が出たな。え・くす……エクスチェンジ……で、コースを決めて……と。

 とりあえずシルバーコースでいいだろ。

 ……数字が出てきたな。

 1100Z……これが今ある残金って訳か。

 で、この真ん中の……たぶんこれがスタートか?。


「ユニ、この真ん中のやつ……」

「はい、START……スタート、と書いてありますね」


 うむ。正しかったみたいだな。で、これを押す、と。

 すると窓の中でルーレットのような物が、ルルルルルルル……と音を発して回り始める。

 そしてしばらく回り続けた後、それはゆっくりと動きを止め、ファンファーレと共に俺の目の前にひとつの奇妙な物体を生み出した。


 『レア装備、〔雷鳴の包丁〕ライトニング・キッチンナイフが当たりました。おめでとうございます』


 いや……おい、まて。

 包丁ってなんだ包丁って。


「ちっ……外れって訳か」

「いえ……ジオ様。これ、魔法の武器です……まわりにすごい魔力をまとっています……」

「なに?」


 そういやユニは魔術の才能があったんだったな。

 そういうのもユニには分かるのか。しかしなぁ……


「でもなぁ……魔法の武器って言ったって包丁・・だぞ? これがどれほどの武器だって――」


 ひょい、とそれをつまんでスローイングナイフの要領で近くの木に向けて飛ばす。

 幹の直径が50センチはあろうかというクタンの大木で、その木陰は夏の時期に良い日陰を提供してくれる。

 その木に、スカァァァァンッ! という快音と共に、包丁は刃の根元まであっさりと突き立ってしまった。


「…………」

「…………」


 思わず動きが止まる俺とユニ。

 瞬きをしてみても包丁はそのまま突き立ったままだった。

 というか、ぶすぶすと煙を上げているな。


「じ、ジオ様、あれ、雷の付与がされてますっ!」

「お、おお」


 慌てて木に駆け寄り包丁を回収する。

 木にはズッポリと深い穴が出来、その縁は真っ黒く焦げていた。

 ……大丈夫か? 枯れないといいがな。


「……軽く投げたつもりなんだがな。見かけによらず相当な魔法の武器って事なのか?」

「そうですね。少なくとも鋼の長剣クラスの威力はありそうです」


 独り言のつもりの俺の言葉に律儀に応えるユニ。

 ……しかしそれにしても、だ。

 それだけの価値のある魔法の武器が(見掛けはともかく)100Z。

 つまり残りは1000Z。


 シルバーコースならあと10回。

 ゴールドコースならあと2回。

 プラチナコースならあと1回。


 それぞれ引ける訳だ。


『〔エクスチェンジ〕が実行されたことを確認しました。これにて〔エクスチェンジ〕機能のチュートリアルを終了いたします。またのご利用をお待ちしております』


 ポイントによる地力のアップとスキルの取得。

 それに加えて様々な魔法道具の取得手段。


 ……これらがあればもう一回夢を見られるかもしれない。


 俺は『声』の言葉も上の空に、1人考え込んでいた……。


          ※


 その夜。

 ベッドの上で俺はユニを右手に抱いて天井を見つめていた。

 今日のユニはいつにもまして抱き心地がよろしい。

 いつまで触っていても飽きない弾力だ。

 ……おっと、そうじゃなくて。


「……なあ、ユニ」

「はい、なんでしょう、ジオ様」

「……冒険者稼業を続けたいって言ったらどうする?」

「よろしいと思いますよ。ジオ様にはそれだけの力があります」

「ふむ。金だけなら……あの『エクスチェンジ』とやらで、また魔法道具をいくつか出せば、それなりの贅沢をしながら生涯食っていけるぞ?」

「でもそれはジオ様の本当に望むことでは無いんですよね?」

「……死んじまうかもしれんぞ。そしたらお前は」


 自分の身を買い戻す前に主人が死んでしまった奴隷は、奴隷商に引き取られ、また誰かの奴隷として流れていくしかない。

 無声症の治ったユニには、それなりの値が付くはずだ。

 それこそ自分自身を買い戻すなど夢でしかないほどに。


「ジオ様なら、過去の勇者様達以上の英雄譚サーガを……きっと」

「ユニ」

「その代わり私もご一緒させてくださいね。ジオ様以外の方に今更身を任せろと言われても無理ですから。ジオ様が死ぬようなことになったら、その前に必ず私が盾になりますから」

「ユニ!」


「どうやら私もジオ様のおこぼれで強くなれそうですし、お手伝い出来ると思うのですが」


 にっこり。


 ……て、おいおい。

 月下草のような清楚かつ妖艶な笑みでとんでもないことを言い出すユニ。

 いくらポイントで身体能力を強化出来るったって、危険が無い訳じゃねぇ。

 英雄と呼ばれるようになる前に、二人そろってお陀仏って事の方がありそうなんだがな。


「っだ、てな、おいユニ……」

「ジオ様は私が他の殿方に抱かれても平気ですか? ジオ様が私を残して逝ってしまわれたら……」

「そういうことじゃなくてだな」

「それに冒険者として登録させていただければ、いずれ自分を買い取ることも出来ますし……あ、買い取ってもジオ様が良ければずっとお仕えさせて下さいませね?」

「お、おお、そりゃもちろん……じゃなくてだな」


 等々。

 結局、2時間以上に及ぶ説得にもかかわらず、ユニを翻意させる事はできず……ユニの冒険者デビューが決まったのだった。


          ※


 翌日。

 俺は頭を抱えつつ、ギルドへと向かっていた。

 後ろにはやたらと機嫌の良さそうなユニが付き従っている。

 今までユニは病気のせいで言葉を喋れなかったからな。

 本来のユニがこんなに弁が立つとは思わなかった。

 ……ま、これはこれで……夜の声に艶が増して、非常によろしいのであるが。


 おっと、そうこうしている内にギルドへと到着しちまったな。

 両開きの扉を開いてユニと共に中に入る。

 そのまま受付に進むと、なぜかギルドマスターのルドマンが受付をやっていた。


「……何してんだよ、ルドマンの旦那」

「おう、ジオか。イナリス達がな、知り合いの結婚式に呼ばれたっつってな。有給取って休んじまってなぁ……というか、ジオこそどうした。引退するんじゃなかったのか?」

「あ……それがな。諸事情でしばらく延期だ」

「……ふん、まあ使い勝手の良い冒険者はいつでも歓迎だからな。で、今日は後ろの……?」

「ああ、ユニ、という。俺の奴隷だが……冒険者登録をしてやってくれ」

「ユニ、と申します。ど、どうかよしなに」


 俺の後ろに隠れていたユニを紹介すると、ルドマンの野郎が固まる。

 ……いかんな、冒険者らしい服も買ってやるべきだったか。

 ちょっと露出が多すぎたのか、ギルドの中にいる男共の目を集めているようだ。


 ユニのスカートは汚れてこそいないが非常に短い。主に俺の趣味で。

 帰りに丈夫な麻のズボンでも買ってやるかと考えていると、ギルドの中に小馬鹿にしたような男の声が響いた。


「おいおい、いつからギルドは奴隷女やロートルの面倒を見る場所になったんだ? 」


 声の方向を見ると、そこには巨漢の剣闘士ソードマンがにやつきながら立っていた。

 あ~……確か4級に上がったばかりの……『自称』大鬼殺し(オーガキラー)のイーデン、だったかな。


「ジオのおっさん。腰を壊して引退したんじゃ無かったのかよ。新人共に偉そうに講釈をたれに行って、帰りはその新人共に背負われて、這々の体で逃げ帰ってきたそうじゃねえか。ぎゃはははははははは……で? 負け犬がここに何の用だってんだ?」

「諸事情で復帰することになってな」

「はあ? 迷惑だってんだよ! ロートルが……ああ、そうだな、どうしてもこの稼業を続けるってんなら……その奴隷女置いて行けや。精力の有り余っている奴らが多いからな、俺らの『共有便器』として使ってやるぜ!!」


 ……こいつ馬鹿か?

 以前から問題行動が多いやつだとは聞いていたが、ここまで馬鹿だとはな。

 上級冒険者ともなれば、普通はもう少し品という物が身につくもんなんだが。


「残念ですが」


 あまりの言いがかりに、さて、どう対応しようかと俺が考え込んでいると、先にユニがイーデンに向かって話し始める。


「私は卑賤な奴隷の身。爪の一片から血の一滴まで主たるジオ様の物でございます。もちろん、ジオ様があなた様に身を任せよ、とおっしゃるのであれば、粗野で下品で下劣で悪臭がして脂ぎった下衆げすのあなた様を拒むことは出来ませんが、あなた様程度・・の戦士に対して我が主がそのようなことをする理由がございませんので出直して下さい」


 にっこりと笑いながら上品に毒を吐くユニ。

 この『にっこり』はアレだ、地味に本気で怒っている時のユニだ。


「そうだ! ジオの兄貴は負け犬なんかじゃねえぞ!」

「碌に知らねえくせに兄貴を悪く言うな!」

「兄貴は化鳥の谷から一人で戻ってきたんだぞ!」

「筋肉ダルマなんか兄貴にとっちゃメじゃねえ!」


 なんか聞いた事のある声が、ユニの尻馬に乗って騒ぎ立てていると思ったら……ヤボー達じゃねぇか。

 いや、気持ちはありがたいけど、それ火に油だからな。

 ……ほれ見ろ、真っ赤になって今にも噴火しそうじゃねえか。


「表に出ろやぁぁぁぁぁぁぁっ! ミンチにしてやるぞロートル!!」


 ほら噴火した。



さて、ジオ達はどのような組み合わせでエクスチェンジを使ったでしょうね。

私なら100コース×10で換金しやすいレベルの物を出して売り払った後は引きこもりますが(笑)

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